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【 泡沫の蒼い蝶 】  作者: 灯閖 頼
6/12

≪ ❶…Ⅵ ≫



あの一件以来、私は人前でモルフォの力を借りる事を止めた。

他の魔女や魔術師に知られれば、良くない事が起きる…師匠の件でそんな事を思うようになり。

私は自分の魔法を磨く事に専念した。

変わらずに人に手を貸し、知恵を与え、動物や、妖精にも力を貸し…

平凡で淡々とした…一人の旅を続けて、どれくらいの月日が経った頃だろう。


モルフォの力のおかげで力を得た21の歳から、時が止まったかのように身体は変わる事なく。

時間だけが私を置いて刻々と過ぎ去っていく。

21から数十回目かの春。

色んな場所を廻り歩き、私は遂にあの時の約束を果たす事になった。






とても穏やかで深い森。

何処か女王の聖域に似た雰囲気を持つそこで、過去に解き放ったモルフォが私を歓迎した。


「そうか。此処に留まった子等が頑張ってきたんだね…」


解き放った時は数羽であった子等が今では数百の数私の周りを優しく漂っていた。

その光景はとても神秘的で、不思議そのもの。

懐かしく感じる想いが込み上げてきた途端、子等が道を示すように通ってほしいであろう道だけを空けていた。


「どうしたの?」


おいで、おいで、と言わんばかりに何処か楽しそうにふわふわ飛ぶ子等は、とてもはしゃいでるように見える。

空いた道を子等と歩き進むと、目の前には大きな大樹が聳え立っていた。

目の前の大樹はとても生命力のある魔力に満ちた樹で、

あの時…

女王の休んでいた湖にとても近しい空気を感じた。



「待っていたぞ」



優しい声に気づき、太陽を浴びて煌めく大樹を見上げる。

そこには懐かしくも優しい、待ち焦がれていた…


「お久しぶりです。女王…」

「覚えていたか?___」


姿は違えど、あの時の微笑む表情は変わらない…纏う魔力も同じモルフォの女王が大樹の枝で楽しそうに座っていた。



「遂に生まれたのですね」

「ああ。良い場所に解き放ってくれた……感謝するよ」

「いいえ。本当に良かった」

「また泣くのか?」

「いいえっ」


意地悪を言ってくる女王につい笑ってしまう。

懐かしく温かい気持ちが戻ってきた。そんな気がした



「あれから何十年と経ったであろう」

「そうですね…」

「大丈夫か?」

「え?」

「お前の事だ。あの件以来、気苦労した事が多かったのではないか?」

「…そう、ですね」

「我々を気軽に使えば良いものを。子等も頼って貰えず寂しがっておるわ」

「そうなんですか?」

「うむ。まぁお前には子等の声が聴こえないものな……」

「そうですね。分かっても今じゃ感情くらいで…」

「ほう。もうそんなに魔女として立派になっているか」

「この力をあまり口外しないように自分の力だけで乗り越えてきたので…何だかんだと魔力も強くなっていたようで。この間、三大魔女への就任もお願いされて…」

「立派な事だ」

「全部、あの時女王が私に力をくれたおかげです。改めて、有難う御座いました」


そう言って深々とお辞儀をすると、女王は可笑しそうに笑った。


「お前は本当に素直な奴だ。童の力で困った事の方が多い筈だ」

「…………」

「強大過ぎる力は目的が無ければ持て余してしまう事の方が多い」

「でも、助かった事もあります」

「そうだな。子等を通じて見ておったよ」

「……そう、でしたか」


師匠の事、それからの事…死の魔法について、かなりの年月色んな者から詮索された。

それほど迄にこの魔力が欲しい者知りたい者が沢山いる事が旅をしていて分かった。

そのどれも、女王は見ていてくれていたのだろう



「我々の為に、よく頑張ってくれていた。感謝する」

「互いに合意した結果です。それに私は色んな事があれど後悔はしていません」

「そうか。優しいなお前は。死の魔法、だったか……これは我々モルフォの特徴であり使命であるが、魔法としては光と闇の間の派生したモノと捉えられる」

「光と闇の間?」

「そう。まさに生きる者の死を管理し器に満たしている。それは人間からすれば命を自在に操ってるも同じ。光にも成り闇にも成り得る所業だろう」

「確かに……モルフォにとっては使命とされている行為でも、それを人の勝手に出来れば…それは光にも闇にも染まれますね」

「如何にも。だからこの力は我々だけのモノとされてきた。我々も人とは干渉せず生きてきたのだ」

「もしかして……あの襲ってきた男達も、死の魔法を?」


女王の今までの話に、ふと襲ってきた男達の事を思い出した。


「どうだろうな。あれはただ領地を広め森を無くそうとしていた頭の弱い人の集団だ」

「じゃあ…女王と知らずに襲った?」

「だろうな。あの森に生きている者全て殺して回っていたのだ」

「そうだったのですね…」

「まぁあれのおかげで、童はお前に出会えたから。良かった事にしよう」


フッと過去に想いを馳せているのか、女王は遠くを見ながら笑った。

あんな過去があっていい訳がない。

あんなに酷い目にあったのに…


「あんな酷い事、二度と起こしてはいけません…」

「ふふ。そんなお前だから童は力を与えたのだ。モルフォが存在してから、信頼した人間はお前くらいだ」

「何だか恐縮ですね」

「誇れ誇れ。童は誇れるぞ……きっとお前は良い方向へ世を変えるだろう」

「私がですか?」

「ああ。童の力があるのだ……お前は何者にでもなれるだろう」

「私が…」

「お前の志は早々変わらんだろう。この数十年、どんな情報を得ようと変わらずに生きてきたのだ」

「魔女とはそうあるべきですから」

「魔女が全てお前のようだと?」


そう言って女王は意地悪く私を見た。

その言葉に、正直なんと答えるのが正解なのか…分からなかった


「人間皆、お前のような志だといいのだがな」


呆れるように笑い手をぷらぷらと遊ばせる。


「人も妖精もそれ以外の者も、互いに支え合える世界になれば…とても素敵ですね」

「完全には無理だろうよ」

「そうですね。でもそうなれたら嬉しいものです」

「では、」


女王は立ち上がり私を見下ろした。



「お前の理想の為、これからも童はお前の為に力を授けよう」

「え?」

「なんだ?不服か?」

「い、いえ!ただ……女王が復活した今、力は戻すのかとばかり思っていたので」

「何だ。ふふ…そうか。だからお前はそんなにも子等に遠慮ばかりしていたのか。ふふ、なるほどな」

「女王の子等に無理させる訳にはいきません…」

「本当にお前は理想の人間よ。それに、童に力を戻すと言ってもそれはもうお前の色に染まった力だ、魔女からしたら魔力とも言えよう。戻すとあれば子等くらいだろう」

「そうなんですか?」

「ああ、力は成長する。成長と共にお前の色に染まって今のモルフォの力になっている。それは最早お前だけの死の魔法よ。それに子等もお前に懐いておる」

「そんな…私何もしてあげられていないですよ?」

「何を言っている。お前の優しさが子等に伝わっているぞ。だからこんなにも子等も力を得ているのだ。本来、子等が姿を変える事など出来ん」

「え?」

「お前を守りたい支えたい気持ちでお前の魔力を元に姿を変えている。我々は想いで変わるそれが妖精よ」

「想いで……」


女王の言葉で、今まで言葉が分からなかったモルフォの子達の優しさが胸にぎゅっと切なく温かく締め付けた。

あの時剣に姿を変えたのも、今まで様々な出来事に姿を変えた子達は…

私を支えようと頑張ってくれていたんだ。



「お前と共にいる子等はこれからもお前の傍に居たいと言っておるぞ」

「そんな幸せな事、叶えてもらっていいんでしょうか?」

「ふふ。連れて行ってあげておくれ。子等が望んでいる」

「有難う御座います、女王」

「童の方が感謝する事よ。子等の成長は嬉しいものだ」


優しい想いに感情が溢れてうるうると涙ぐんでいると、女王はそうだ!と声をあげて楽しそうに言った。


「力はそのままでもお前の成長で強くなっていくだろう。童からは子等の言葉が分かるようにしてやろう」

「本当ですか!」

「ああ、これから共に居るのに不便だろう」

「凄く嬉しいです!」

「ふっ…お前は本当に純粋な赤子のように清らかだな」



優しい女王の微笑みがあの頃から変わる事なく私に向けられる。

戻ってきたように感じる。

短かった出会いに懐かしさを感じて、私はこの愛しい時間に幸せを感じた。




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