≪ ❶…Ⅳ ≫
「モルフォ様、本当に有難う御座いました!」
「いえ、息子さんが回復して良かったです」
「少ないですが、どうか家で育てた果実を好きなだけお持ち下さい!」
「有難う御座います」
「モルフォ様!昨日は有難う御座いました!!教えて下さった事を実行しましたら、川も安定して!」
「モルフォ様私も昨日の事で感謝をしたくて!」
「僕もです!モルフォ様がいてくれて本当に助かりました!」
女王から力を授かり…あれから、季節が一つ巡った。
私は変わらずに人助けをしている。
だが、見習いだった私が今では二つ名が出来る程の魔女に変わっていた。
師が判断するでもなく、二つ名は自然と私に出来ていた。
モルフォ……
真名を知らない者は私の事を自然とそう言う様になった。
常に私の周りを漂う女王の子、モルフォ蝶を見て…色んな人は私をモルフォと呼ぶ様になる。
私もそう呼ばれる事は嫌ではなかった
寧ろ、女王の存在がある証明であるような気がして嬉しくさえ感じた。
この成果を、そろそろ師にお見せして良いだろうか。
そんな事を思いつつ私は進む町、村、森、海……色んな場所で困った者を見つけては足を止めていた。
それが人であろうが、妖精であろうが、それ以外であろうが、
溢れ出る力を。私は困る者の為に使った。
「___」
「…っ!?」
不意に次の町へと歩いていた道中、私の真名を呼ぶ声に驚き振り返った。
だが、そこに居たのは……私の真名を知る師、には見えなかった。
「___。___……あ…あああ……___」
「…何、これ?」
目の前にある者は、人の形をした…黒い何かだった。
ドロドロとしたそれは溶けていて、辛うじて人の形を保っているようにも見える。
「……師匠、なのですか?」
「う、あぁぁ………」
人の声に聞こえない何とも邪悪でおどろおどろしいそれは、ずっと私の真名を呼んでいた。
「師匠、なのですね」
どうして、師匠がこんな姿になっているのか……分からなかった。
いや、師匠と断定するにも情報が足りな過ぎるくらいではあった。
けれど、私の真名を知っているのはこの世で師匠と女王のみ……
その真名を口にする目の前の黒い者は、否応無しに……師匠、としか思えない。
「私の声が聞こえますか、師匠!」
「___……わ………、う…ぎぃ……!!」
私の真名だけしっかりと声となっている黒い者は次の瞬間触手のように私に伸びた。
魔法で結界を張り、触手は諦めようとせず色んな方向から私に伸びてきた。
だが、周りに張った結界を破られる事はなく…触手は結界に弾かれその場でドロドロと地面に落ちた。
「どういう事なの……」
これを置いて逃げる?いや、それはいけない。ここは人が行き来する道中…
この黒い者を置いておいたら、被害に合う者がいるかもしれない。
それに……この黒い者はもしかしたら、私を狙っている…?
何の目的で?師匠と関係しているのか…
思考を巡らせるが、どんなに考えても情報が少ない私には答えが出ない。
…どうする。
そればかりが私の思考を廻った。
「モルフォ様?」
「?!」
後ろを向くと、道から村の女性が歩いてきていた。
いけない……
そう思った瞬間、黒い者は触手を村の女性へと伸ばした…!
「だめ!!子等よ黒い者を止めて!!」
私は結界を女性へと広め、モルフォの子が青い剣へと変わり黒い者へと貫いていく。
5体の子等が黒い者に突き刺さり、黒い者は呻き声を上げブクブクと黒いヘドロの様なモノが蒸発していった。
「大丈夫ですか!?」
「は、はい…モルフォ様、有難う御座いますっ…」
女性はガタガタと震えていたが、怪我はしていないようだ。
「此処は危険なので貴女は村に戻って下さい。いいですか?」
「は、はい!」
直ぐに女性は元来た道を戻って走る。
私は黒い者の傍に寄った…
モルフォの子等が貫き動きを止めてくれているお陰で、黒い者はビクともしない。
そして、黒いヘドロがドロドロと地面へ落ちていくと…姿を現したのは、
やはり私のよく知る……師匠だった。
「師匠、師匠っ!」
子等を放ち、師匠の身体を支え起こす。
最後に会った時より、少し弱弱しく見える……
それに、これは…魔力だろうか?
力を得たせいか師匠の魔力も分かるようになっていた。
だが、その魔力が私より遥かに小さい……
そして……
「師匠の魔力は、確か草木と水だった筈……でも、これは…まるで」
力を得て見えている私には、草木と水の魔力は何も感じず…
師匠から感じる魔力は闇のモノだった。
「何処でこんな力を……」
魔力にはさまざまな種類がある。それは細かくしても数百種類とも言われ、大々的な代表的魔力はある。それでも…決して染めてはいけない、得てはいけない種類が存在する。
それが、闇の系統魔法。
その禁じられているモノを何故師匠は得ているのか……
私が離れていたこの数年に、師匠に何があったというの。
「ぅぅ…ぐ……」
「師匠!?」
「う……」
苦しそうに呻く師匠の瞳が少しずつ開かれる。
その瞳は……真っ黒に染まっていた。
「師匠……貴方、何をしたのですか」
「…___。___が……何故っ…!!」
「……?」
「何故っ……死の…魔法をっ!!」
「師匠?」
「何故っ!!!私では…なく、___が!!!!!」
ギリギリと唇を噛み血を流しながら、師匠は苦しそうに叫んだ。
「し、師匠…?」
「がっああああああああっっ…」
師匠は口から血を吐き……死んだ。
恐ろしい光景に、何故私はこうも冷静で居られるのだろう。
あんなに慕っていた師匠が、目の前で死んでいるのに。
私は師匠の言葉が頭から離れなかった。
「死の魔法?」
死の魔法なんて、私は聞いた事がない。
師匠から教わった事すらもない…
でも、師匠の言葉からするとその死の魔法を私が覚えている?
今まで私は死なんて関係した魔法は一回も使った事なんてない。
いつだって人助けの為に治癒関係や、水、火と言った些細な手助けによる魔法のみ…
『あるだろう?』
スッと頭の中に声がした。
それはよく覚えている。
「女王…?」
『お前は知っているは筈だ。死の魔力の本質を』