≪ ❶…Ⅱ ≫
新人魔女になる為に一人で旅に出てから幾度と月日を巡っただろう。
最初は些細な人助けから、少しずつ少しずつ自分の使える魔法で色んな出来事に対応した…
淡々と作業的な事かもしれない。
けど、私は色んな者との出会いにいつもワクワクしていた。
知らない世界をモノを出来事を知る。
様々な出会いが、どれも私の糧へと変わっていった。
そんな時、
私が21の歳になった頃だった。
深い森に薬草を貰う為に探索をしている時。
「いやぁああ!!」
少女のような叫び声が聞こえた。
直ぐに周囲を確認すると数十メートル先からこちらに何かが向かってきている。
木々もざわめき、森の生き物も何処か不安げに…そして怒っていた。
森の奥からガサガサと音をたて青い光と共にそれは姿を現した
「っ!!」
逃げてきたであろう目の前の少女は私を見るなり固まった。
震える身体を抑えられない程、身体のあちこちには小さな傷から大きい怪我を負っている。
私が声を掛けようとした瞬間、少女の後ろから大勢の気配を感じた…
「こっちへ」
「…えっ」
「貴女を助けます。こっちへ。私のローブに隠れて下さい」
「お、お前は誰…」
「私は遠い町から来た見習いの魔女です」
「魔女……」
「此処の者ではありません。だから、安心して…貴女を助けたいんです」
私の真意が伝わったのか、少女は直ぐに駆け寄って私のローブへと身を潜めた。
「私達の気配を魔法で消します。出来るだけ大きな音を立てないで下さい」
私の言葉にコクリと頷き、少女は私の服をぎゅっと握りしめ蹲った。
「あの野郎!!!何処行きやがった!!」
「早く探せ!!逃せばまた繁殖する!」
10人程の男達が草木を除け私達の目の前に現れる。
普通の人間だった為か魔法には気付いていない所を見ると、ちゃんと私達の気配は消せているようだ。
だが、周りを周囲深く詮索して歩いている。
この少女をそれほど迄に探しているのが分かる…が
どの男達も、手に持つのは斧や弓等攻撃的な物ばかり。
そんな男達の事情等、傍に傷付いている少女を渡す理由には到底ならない。
助けて良かったようだと安心する。
暫く私達の周りを探し歩き、何もないのを確認した男達はまたぞろぞろと奥へ奥へと歩き始める。
姿も声も気配も無くした後、私は魔法を解き少女を開放した
「大丈夫ですか?」
「……助かった」
震える身体にそっと背中を支えるように撫でると、少女は私を見上げて瞳に涙を浮かべた。
相当怖い思いをされたのだろう…
「怪我を治しましょう。見せてくれますか?」
「治せるのか?」
「ええ、見習いですが治癒のような魔法も薬草の扱いも心得ていますので」
「……助かる」
少女は素直に身体を預けてくれた。
額に何かで打ったであろう傷、腕や足には鋭い刃物で切り付けられたであろう傷、背中にも服から血が滲み出る程の怪我をしている。
「彼らに襲われたのですか?」
深追いして聞いていいものか悩んだが、これから何か手助けが出来るかもしれないと思い聞いてみる。
「…奴らは我々の森の側に住む村人だ。我々を根絶やしにするつもりなんだろう」
「では、やはり貴女は何かの”妖精”ですか?」
「ああ。童はモルフォの女王だ」
「モルフォ?」
「見たことはないか?青い蝶だ。我々はこの森を守る者としている」
「初めて知りました。そうでしたか……では助けられて本当に良かった」
「お前には感謝してもしきれん。仲間の殆んどが奴らに殺された」
「何故こんな事が?」
「何故だろうな。前々から人間がこの森に入るようになった。そこで欲しいモノでも見つけたか、我々が邪魔になったのだろう」
「そんな……」
「我々は人間に干渉しないよう努めてきたが故に不覚をとった。この有り様だ…」
小さな身体をぎゅっと抱きしめる少女…いや女王は名のわりには小さく見えてしまった。
「私に出来る事はありますか?」
「…え?」
私の言葉に心底驚いたようで女王は目を見開き私を見た。
透き通った不思議な青い瞳がこちらを捉える。
「私は新人の魔女になる為に魔法を使い実績を積む為に色んな手助けをしているんです」
「………」
「というのは、建前ですが……ごめんなさい。貴方を見ていると可哀想で、助けたいんです」
「お前は心の清らかな奴なのだな」
女王は目を細め微笑む。
その瞳は私を見ているようで、心の内を除いてるようにも見えた。
「魔女よ。もう暫し力添えを頼む」
「喜んで」
女王を抱きかかえ、私はモルフォの住まう聖域へ案内された。