≪ ❷…Ⅳ ≫
「始めます!」
そう言って、契約の呪文を呟き私と主様の地面に魔法陣を描く。
紺瑠璃色と紅紫色の粒子が光を魔法陣に纏い、私と主様を包んだ。
その光は主様を優しく包み主様…いや、白狼様の額に私の魔女の証が刻まれた。
私の主張と証である蝶の形をした紺瑠璃色と紅紫色のグラデーションがユラユラと光る。
「契約者の仮名魔女モルフォは貴殿を獣家と迎える事を望む」
『受け入れる』
「貴殿、白狼に感謝の意を。契約は成され、貴殿は我の魂と繋がった……貴殿の魂もまた我と魂を共有すし生を与える」
『主とこの体が朽ちる迄守り、支え、生きると誓おう』
二人の静寂の中の契約は静かに響き、契約を成され光が眩く二人を包み込むと静かに消えた。
「無事、終わりました」
ホッと安堵しながらそう言うが、白狼様は少し困ったように口を開けた。
『こんな優しい契約は初めて聞いたぞ、主』
「え…?」
『主従となるにも関わらず、相手と平等に魂を交わしその上相手に拒否権を与える契約文字を唱えるなど……初めて聞いた』
「そうですね。私も契約の儀はもっと重苦しく、主人の利が多い契約なのに……こんなに、なんでしょうね。こんなに温かい契約の儀を見たのは、初めてです」
「い、いえ……これは、もう即興と言いますか…私も子等と契約はしていますが、儀は任せていたので……個人的な契約の儀を行うのは初めてでして…」
あたふたと弁明する私に、ふっと笑う白狼様と悲しくも優しく微笑むホワルフ様。
「本当に、貴方が白狼様の主で…良かった」
我慢の出来ない瞳から涙がぽろぽろと流れる。
「……すみませんっ…」
そう言って、俯くが緊張や悩みの種が消えたのか安堵の表情が窺えた。
涙を流しながら、微笑むホワルフ様は本当の意味で今安心を得たのだろう。
それと同時に、敬愛していた白狼様との別れ…将来の夢が完全に断たれた瞬間でもある。
この感情をどう、私は表したら良いか分からなかった…
けど、この二人の想いの大きさを私は途絶えさせてはいけないと、強く思った。
「ホワルフ様、白狼様……この出逢いに感謝致します。私は三大魔女モルフォ……長く生きる事が出来ます。ホワルフ様が生きる限り、その先の子孫も…白狼様といつでも会えます。会ってもいいんです」
その言葉にホワルフ様は顔を上げて、またぼろぼろと涙を流した。
「感謝します……モルフォ様…」
『生きろよ、銀の者よ。また会える事を楽しみにしている』
「…はい、はいっ…白狼様!」
ホワルフ様は無邪気な少年のような笑顔を私達に向けた。
王子であろうと、まだ若い青年だ…本来、こんなにも素敵な笑顔を出来る年であるのに私は今初めてホワルフ様の無邪気な年相応の笑顔を見られた。