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馬鹿な勇者にパンツ見られた魔王のラブコメ。

 

 人間界から遠く離れた魔界。

 現在、その中心にある魔王軍総司令部は慌ただしさに包まれていた。


「くっ。まさか人間達の最終兵器、勇者があそこまで強いとは」

「我々の軍が敗れるとはな。万を超える軍勢だったのだぞ」


 悔しそうに司令部の机を叩くのは勇者との戦いで敗走して来た魔王軍幹部だった。


「落ち着くのじゃ」


 その中心に座る人物が声を上げる。

 すると、ピタリと場が静かになった。


「勇者とはいえ、たがが人間一人。この妾の敵ではない」

「まさか魔王様!?」


 幹部の全員がこの場で最も強大であり、偉大なる存在に目を向ける。


「妾が戦場に出ると地形が変わりかねないし、人間共がすぐに絶望してつまらないと考えていたが……ふん。勇者を潰す事くらい些事だ」


 つまりこの魔王自らが勇者を倒すというのだ。

 魔界の最高権力者にして、自らも魔法の真髄を極めた戦士。

 勇者が人間界における最終兵器ならば、魔王とは魔界における最終兵器。


 最強の人と魔族。勝つのはどちらなのか?


 だがしかし、魔王軍の幹部達は思った。

 このお方が動くと言う事は魔族の将来は決まった。


 ーーーこの勝負、我々の勝利だ!!


「妾達の悲願、果たさせてもらうのじゃ」















 魔界と人間界の境にある荒野。

 何百年もの間、人間と魔族が戦いを繰り広げている主戦場。

 ここでならば魔王の全力を出しても影響が少ない。

 魔王軍は戦いに巻き込まれて仲間に被害が出ないように兵を下げた。

 その様子を見ていた人間側も、兵を引き下げて少数精鋭の勇者パーティだけを送り込んだ。


「気をつけなさいよ勇者。あっちからとんでもない魔力を感じるわ」

「ふむ。女剣士の言う通りじゃわい。ワシの魔法を遥かに超える恐ろしい力の波動……幹部クラス…いや、まさか」

「お気をつけください勇者様。聖女の癒しの力でも死んでしまっては回復出来ません」


 男二人。女二人のパーティ。

 魔法剣士の勇者、女剣士、老賢者、聖女とバランスの取れたメンバーになっている。


 そして、彼らパーティに肌を刺すようなプレッシャーを与えていた存在が遂に姿を現した。


 宙に浮くその人物の頭部から伸びる二本のツノ。長さも太さも十分で、魔族としての格を現している。今までに敵対したどの幹部よりも立派だった。


 鎧ではなくドレスのような服を着てマントをなびかせているが、その素材はドラゴンの飛膜やグリフォンの体毛といった最高品質の魔物の素材が使用され、簡単にダメージを与えられそうにない。


「ほぅ。人間にしては中々……だが、」


 舌舐めずりし、魔王軍を手こずらせてきた相手の実力を測る。

 最前に立つ若い男以外は幹部達より少し劣るくらいの力しか感じられない。

 わざわざ自分が出向かなくても良かったのかもしれないと魔王は思った。


「妾は魔王。魔界に生きる魔族の王である。()()()()()()()?」


 声に魔法を乗せる。

 圧倒的な魔力の暴風に勇者以外のメンバーは膝を地面につけた。

 屈してしまったのだ。本能的な恐怖に。


 ーーーつまらんな。


 魔王はそう思った。

 たった数人で魔族の精鋭部隊、ラミアやアラクネ、ハーピーの群れを撃退した人間だと聞いていた。

 それが、攻撃でもないただの挨拶でこのザマだ。


「どうした勇者? あまりの恐怖に足がすくんでいるのか?」


 ただ一人立っている勇者はコチラを見上げたまま動かない。

 剣も抜かずに、ただ立ち尽くしている。

 膝をついていないと言うことは他の者より実力が高いのだろうが、それだけではまだ魔王には届かない。


「ーーー、」


 勇者が口を開こうとする。

 初めての魔王と勇者との会話。

 一体、どのような言葉を話すのか魔王は気になった。

 魔族への恨みか、魔王への啖呵か。それとも命乞いの類いか。










「ーーー白の紐パン」














 落雷が落ちた。


「な、何を言っとるんじゃキサマ!!」


 魔王は宙に浮いている。しかも格好はドレスタイプ。

 まぁ、ようは見えなくもないのだ。地上から目を凝らせば。


「意外と清純派なんだな白って」

「その話題から離れろ!」


 降り注ぐ魔法の嵐。

 千の雷が勇者を貫こうとする。


 しかし、ここまで戦い抜いてきた勇者。

 剣を使わずに身軽なステップで攻撃を避ける。

 その視線は魔王のーーー下半身から離れない。


「見るな!」


 ドレスの裾を押さえて魔王は地面に着地する。

 事前の脳内リハーサルでは、遥か上空から一方的に蹂躙する予定だったが、計画が変わった。


 本来であれば、高貴なる魔王を人間と同じ大地に立たせるなど無礼千万。

 ただの人間と魔王にはそれくらいの地位が異なるのだ。

 しかし、自主的に降りたのでそんな文句は言えないのだった。


「塵ひとつ残さんぞ!」


 全力を出すためにマントを脱ぎ捨てる。

 マントの防御力や性能は折り紙付きだが、動きにくく重たい。

 とはいえ、常に魔法による障壁を張っている魔王からすればそんなものは大した意味は無く、ただ魔王としての威厳を衣装から出そうという考えだけだった。


 激化する攻撃。同じ目線の高さであれば流石の勇者でも魔王の下着を見ることは出来ない。

 虚を突かれたが、果たして今度こそ勇者はどのような言葉を口に出すのか。




「おっぱい!」


「……ッ死ね!!」




 ガン見だった。

 大きく開いた魔王の胸元を見てただ一言、おっぱいと発言したのだ。

 しかも元気よく言ったので魔王はカンカンだった。

 一瞬、『おっぱい? 聞き間違いかな?』とも考えたけど、第一声で下着について追求した勇者だ、そんな事は無かった。


「A…B…C……」


 デタラメに魔法を放つ魔王だが、勇者はその弾幕をすり抜けながら何かを唱えている。


 ーーー特定の詠唱を必要とする魔法か!?


 魔王は魔界ある幅広い魔導書(グリモア)を読破している。

 ABCで始まる呪文と言えば、敵を金縛りにしたり、魔力の縄によって動きを拘束する系統の魔法が存在する。


 ーーー妾くらいしか知り得ない超高等魔法を!?


 油断ならない相手だと認識を改める。

 そういえば、勇者の仲間には魔法を極め、賢者と呼ばれる人間がいた。彼ならば魔王と同等の知識を持っており、それを勇者に教えたのかもしれない。


「……E………まさかFカップか!?」


「戦闘中に何を計っておるのじゃキサマは!!」


 関係無かった。

 勇者はただ注視していた魔王のバストサイズを計測しているだけであったのだ。

 余談ではあるが、最近の魔王は胸のブラジャーがキツくなってきたので新調するかどうか悩んでいる。


「魔王……スリーサイズはいくつだ!」

「だぁあああああああああああああっ!!」


 胸の計測は終了したのか、お次はウエストとヒップについて質問して来た。

 ここまでくれば返答は必要ない。魔王はこの男を抹殺するのに躊躇しない。必ず殺す。


 人間の分際で魔王を侮辱し過ぎた。

 慈悲など無く、ただ作業として処分……駆除しなくてはならない。


「俺の所は貧乳の剣士とロリの聖女しかいないんだ」

「だから何だというのだ!?」


 魔王は勇者が理解できない。

 あと、貧乳呼ばわりされた女剣士が倒れた。魔王は何もしてない。

 老賢者が「貧乳はステータスなんじゃ…」とか言ってる。


「魔王、お前はエロい!」

「ブッ!?」


 思わず噴き出した。

 魔王とて性別上は女。

 自らを美しい存在であり、他者を魅了する魅力を持っていると自負している。

 魔王軍の中にも魔王の姿に目を奪われ、熱を出す者だっている。


 だがしかし、面と向かって『エロい!』なんて言われた事ない。


「妾はエロくなどない!」

「いや、エロい! エッチだ! スケベだ!」


 ……エッチ……スケベ……。


 魔王の頭の中は真っ白になった。

 今まで生きてきた人生の中でそんな事を言われる機会は無く、


 ーーーいや、あってたまるか。


「魔界にその名を轟かす魔王。妾こそが法であり秩序。いずれ世界をちゅちゅうに、」

「噛んだ! 可愛い!」

「ーー手中に収める存在なのじゃ! 噛んでないのじゃ!!」


 怒りと羞恥で顔を真っ赤にする魔王。

 もしこの場に魔王軍がいれば、怒りに燃えた魔王の魔力に恐れを抱くのだろうが、部下はいない。

 戦況を確認するための兵士も待機はしているが、遥か遠くにいるし、鳴り響く轟音に怯えて近づく事はない。


「萌え、萌えるぞ魔王!」

「燃えて無くなれ!!」


 暗黒の炎(ダークネスファイア)

 超高火力の黒炎は対象を燃やし尽くすまで消えることは無い。

 かつて、魔王に歯向かった愚かな幹部がこの炎に焼かれて死んだ。その処刑の場には未だに黒炎が残り、大地を焼いているという。

 魔王が記憶した魔導書に刻まれていた炎系の最上位魔法とまで呼ばれる魔法だ。

 それを正面から浴びれば勇者は死ぬ。


「危な!」


 だが、その炎は勇者が咄嗟に抜いた剣によって弾かれてしまった。


 ーーー勇者の持つ聖剣か!


 聞いた覚えがある。勇者が魔族の天敵になり得るのはあらゆる魔法を無効化する能力が付与された聖剣があるからだと。

 つまり、暗黒の炎とはいえ魔法攻撃では致命傷にならない。バターナイフのように切り取られてしまう。


「厄介な……」


 だが、面白くなったと魔王は口角を上げた。

 勇者と魔王という最終兵器同士の戦いはこうでなくてはならない。


「笑顔も素敵だな!」

「………ーーー」


 無視した。

 会話をするだけ無駄だ。

 もしかしたら勇者は変な事をわざと言って魔王の油断を誘おうとしているのかもしれない。


 魔王の放つ魔法の嵐を掻い潜り、聖剣を使ったとはいえ、高速で噴出された炎を防げるだろうか?


 ーーーこの勇者、出来る!


「無視か……クールな姿も推せるな」

「もう喋るなキサマ」


 本人にその気が無くても口を開く度に魔王の戦意が削がれる。

 まだ魔力の残量には余裕があるのだが、それを使用する精神力はごっそり減っていた。


 ーーーどう攻めるか?



 ゴウッ!!



 魔王が次の一手を考えている瞬間、斬撃が飛来した。


「ほぅ……」


 目を逸らすと、先程まで魔王のプレッシャーによって動けないでいた勇者パーティがこちらに武器を構えていた。

 斬撃を飛ばしたのは女剣士なのだろう。しかし、魔王の分厚い魔力の壁に阻まれてダメージは無い。


「そうでなくてはな」

「邪魔するな貧乳! 俺は巨乳の魔王と話をしているんだ!!」


 勇者は足元にあった石を仲間へと蹴り飛ばした。

 女剣士が剣で斬るが、一般人なら死んでた。


「……おい、仲間じゃろ」

「だが貧乳だ!」


 女剣士が聖女の胸に飛び込んで泣き始めた。

 老賢者は「慎しき胸には将来の夢が詰まる余地がある……」とか言い出した。あ、女剣士に殴られた。


「なぁ、気になっておったんじゃが、戦う気あるのか?」

「ない!」

「まさか、女とは戦えないとでも言うのか?」


 そんな戯言を言う魔族もいた。

 誇りや主義に反すると綺麗事を言うのだ。

 雑魚相手に全力を出すのは力の無駄だと言えるが、それが強者であっても女であるからと戦わないのはただの馬鹿だ。

 殺し、殺される戦場には要らない。だから魔王は追放した。

 精鋭部隊には女性が多い。女の方が色香に惑わされずに的確に獲物を狩れるからだ。


 もしも勇者がそんな馬鹿達と同じであれば即刻、首を斬り落とす。

 魔王はそう思った。


「違う。俺は誰であろうと戦う! だが!」

「だが……なんだ?」

「エロい身体に傷痕を残したくない! いや、傷痕フェチがいるのは分かるが俺は違う!」

「よし、死ね」


 永遠の吹雪(エターナルブリザード)

 氷雪系の中でも最強と言われる呪文。絶対零度の吹雪が相手を凍らせる。

 剥き出しの大地が凍りつくが、聖剣を持つ勇者は耐え切った。


「頭が悪いのかキサマは?」

「健康診断では正常だったぞ!」


 どうやら当代の勇者は戦闘力に極振りだった。馬鹿確定。

 こんなに負けた魔王軍にはきっちりお仕置きが必要である。


「魔王、相談がある」

「この状況で相談……じゃと?」


 もう期待もしないし、ロクでもない提案だとしても魔王は攻撃を止めた。

 疲れたので今日は双方共痛み分けで解散して、後日再戦するとかにして欲しい。

 そういう提案ならば魔王は飲もうと思った。


 部下には思った以上に勇者が手強かった(精神へのダメージ的な意味)と説明すれば良いだろう。

 それでいて次回に勝てば魔王への信頼度も大して下がらない。

 勇者側もその方が対策取れるし、都合がいいかな?


「言ってみよ」







「……俺の子を孕まないか?」














 一通り暴れて冷静になった。

 荒野だった場所は流星群が落ちたかのような穴ぼこ地帯になっていた。


「で?」

「だから俺はお前とセッ○スしたい!」



 ズガガガガガガガガッ!!!!



 地面の穴が深くなった。


「のぅ。ちょっと話いいか?」


 魔王は勇者を放置。

 ひたすらに縮こまって魔王の怒りが収まるのを岩陰に隠れて待っていた勇者パーティを呼びました。


「なんじゃ……その…勇者はいつもこんな感じなのか?」

「あぁ……」


 酷く疲れた顔で女剣士が頷いた。

 ちなみに女剣士の剣は降り注ぐ魔王の魔法を受け止めようとして早々に砕け散った。


「町や村に寄っては片っ端から美女へ声をかけている。ただ、あんな言い方と思考回路なので誰からも相手にされない」

「そうじゃろうな」


 同じナンパ男達の中でも最底辺だろう。

 というよりも、歩くセクハラマシーンだ。


「女剣士や聖女も妾ほどでは無いが、人間ではかなりの美しさであろうに」

「さっきから言っているが、俺は巨乳派だ! それに女剣士は鍛え過ぎて腹筋ガッ!?」


 女剣士が渾身の力で勇者に拳骨を落とした。

 どうやら直接的な物理ダメージを与えれば勝機はあると魔王は分析する。


「あー。苦労しとるな、お主」

「魔王から労られるとか予想外。だけどまぁ、ありがとう。本当にコイツは悪い奴じゃないんだけどね」


 コイツ呼ばわりされた勇者は頭部が地面に埋まっている。

 もぞもぞと動いている所を見ると無事なようだ。


「前回の軍勢を見た時も、『巨乳美女がいっぱいだ! 人間なんかよりきっと魔族の方が俺を受け入れてくれる!!』って手当たり次第に求婚して、気持ち悪がられて逃げられた」


 部下からの報告には勇者による多大な精神的ダメージを受けて戦線復帰がしばらく不可! と書いてあった。

 まぁ、魔王としてもゴキブリ並みに生命力の高い変態からしつこく迫られれば逃げたくもなる。


「どうせ使い捨ての道具なんだからせめて幸せにはなって欲しいけどね」


 老賢者と聖女が二人かがりて勇者を引き抜いた。

 さながら大きなカブだ。


「使い捨て……じゃと?」


 魔王は女剣士の話に引っかかる所があり、問いただす。


「私達は寄せ集めの捨て駒さ。私は剣聖の妹、老賢者は死に場所を探す世捨て人、聖女は変に発言力を身に付けたせいで教会から体よく追放された身さ」


 ふむ、と魔王は顔に手を当てて考える。

 魔族は魔王の指揮の元、何が何でも人間に勝とうという目的があり、各部族の長や実力者が幹部に就き、魔族の象徴であり、討たれれば敗北が決定する魔王自身がこうして前線に出ている。

 しかし、人間側は予備の戦力から投入し、戦いが終わった後の保身を残している。


 ーーー賢いというか、小狡いな。


 数の差は人間が有利。物量で押し勝つつもりだろう。

 そうやって魔族は度々人間に競り負けてきた。

 勇者が魔王に強いというのは歴史が証明している。聖剣が認めればすぐにでも次の勇者が現れる。


「勇者よ」

「なんだ魔王?」

「世界の半分をやるから妾に仕えないか?」

「「「なっ!?」」」


 驚きの声を出したのは勇者以外の三人だった。

 今、魔王は勇者を勧誘している。敵対する軍勢の最高戦力を。


 ーーー考えれば簡単な事。次から次へと湧くならその大元を潰す。生きた勇者と聖剣が魔族に渡れば妾に拮抗できる者はいない。


 勇者レベルのど変態が他にいない事を祈りながら、魔王が手を差し出す。

 この手を取れば、勇者は人類の裏切り者として後世まで呪いの対象となるだろう。

 逆に誘いを跳ね除ければ、これからも命をすり減らしながら魔族と戦い、いつか死ぬ。勝たなければ名誉は残らない。


「悪い提案ではあるまい。仲間の命は保証してやろう。同情してやりたいくらい悲惨だからな」


 随分と手ぬるい事を言っている自覚が魔王にはある。

 だが、このままではコイツらは報われない。

 自らを魔族の中で最強だと自負している魔王の策略を打ち破り、ついに魔王本人を戦場に立たせるくらいに奮闘した者達への称賛はあってもいいだろう。


「どうじゃ?」


 勇者パーティは困惑していた。

 魔王からの提案は彼らからすれば喉から手が出るような甘い誘惑だ。

 しかし、それを決めるのは勇者に任せるとばかりに沈黙を保つ。


「……断る!」

「そうか、なら交渉はーー」

「俺は世界の半分なんていらない! 魔王、お前の全てが欲しい!!」

「ふぇ?」


 クールな魔王の顔が消えた。残っているのは豆鉄砲で打たれたハトみたいな表情。


「正直、偉い連中の言いなりも飽きていた。俺は馬鹿だから難しい事は知らないが、人間は魔族より腐っている。貧困のせいで食い物が足りず巨乳が少ねぇ! 男は戦争で死んで、女は身売りするしか金を稼ぐ方法がねぇ! それでも魔族に殺されるよりは……だけど、人間に殺される人間の方が多い」


 勇者の言う事は事実だった。

 魔王率いる魔族は人間を痛めつけ、必要以上に死者を出さずに足手纏いとして送り返している。


 魔王は知っている。

 敵を殲滅した所で、人間界を魔族だけで管理・維持する事は不可能だ。

 だから人間を支配下に置く事を第一にしてきた。


「でも、そんな事はもうどーでもいい」


 人間界の全てを、勇者は投げ捨てた。


「俺は今日、お前に会った。運命を感じた。おっぱいデケェし、腰回りは柔らかそうだし、ケツもデケェ。髪も綺麗で目なんか宝石みたいだ。その上で戦いにも強くて賢くて、王様だってのに命を賭けて俺達と戦いにくる度胸もある」

「う、うん???」


 ガシッと肩を掴まれ、畳み掛けるように喋る勇者。

 魔王はその手を振り払う事も出来ずに、人生初の世辞抜きの誉め殺しを味わった。


「死んだ故郷の母ちゃんが言ってた。強くてべっぴんな安産型の母ちゃんみたいな女を選べって。俺はずっとその言葉を胸に生きてきた。俺を守る為に死んだ母ちゃんや村の連中の分まで生きてこの命を繋げるって」


 語られるのは魔王の知らぬ勇者の過去。

 まさかあのナンパにはこんな深い意味があったなんて……魔王と勇者パーティはそう思った。


「魔王。俺はお前が好きだ! 一目惚れしたから結婚してください! 絶対幸せにしてみせます!」

「えっ……その……いきなりで困るんじゃが……」


 勇者は知らなかった。

 この魔王は魔族の将来を考えるあまり、今までまともな恋愛をした事が無かった。

 周囲の魔王軍幹部達は族長なので子沢山で、束の間の休みには実家で家族サービスをしていた。


 そんな様子を羨ましそうに眺め、いつか自分にも素敵な王子様が現れないかなぁ〜と魔導書以外にも恋愛小説を読み漁っている事を。


「萌える。可愛い。ずっと抱きしめていたい。いい匂いを嗅いでいたい。離れたくない。子供は二桁は欲しい。というか、既に股間の息子が限界だ」

「はわわわわわっ……」


 魔王の身を引き寄せ、熱い抱擁を交わす。

 その様子を見ていたギャラリーの三人は、諦めて勇者側の応援に回った。


「勇者は体力馬鹿なので肉体労働全般はなんでも出来るわよ」

「ほほっ。乳と年齢の趣味は合わんが、浮気をするような軟弱な精神は持っていない。責任は取るし、身内第一で動く好青年じゃぞ」

「勇者様は小さな子どもにモテます。今なら助産師の経験もある私が付いてきます。聖女パワーでお産も心配無し。早期の職場復帰が可能」


 彼らには帰る場所も待っている家族もいない。

 だから結構必死だった。

 リーダーの勇者が言うんだから仕方ないよね。


「返事はどうだ魔王!!」

「わ、妾はーーー」






























 数年後。


「よし! 今日はニンニク料理食ったから精気満タンだぜ魔王!!」

「まだ仕事中なんじゃけど!?」


 新魔王軍総司令部兼人間界統治委員会と長ったらしい看板が取り付けられている城の中に魔王の声が響く。


「魔王様、歯向かう国の軍隊は勇者と潰してきたよ。これは各国からの白旗を宣言する書状だよ」

「魔法道具による円滑な連絡網も完成。人間界の統治に必要な人員配置も済んだんじゃが、ハンコ押してくれんかの?」

「ご長男とご長女のオムツ換え終わりました。ミルクも与えておきますね。眠たくなったら寝かしつけておきますね」


 あれよあれよと魔王の仕事が片付く。

 当初の予定では数十年単位で取り組むはずだった案件が吹き飛んでいく。


 ーーー勇者パーティ、優秀過ぎるじゃろ。


 いつの間にか魔王軍の幹部を差し置いて側近扱いだし、有能過ぎて魔族側からの反発無し。


「もうすぐ終わるな! 先にベッドで待ってるぜ! 今日は寝かせないぞ!」

「うぅ……今日はというかこの所毎日……」

「だって魔王が魅力的で俺の好みで、世界で一番可愛いからな!」

「し、仕方ない奴じゃな……」




 翌日。ベッドメイク担当の聖女に怒られたのはまた別のお話。













思いつきの短編。どうしてこうなった?


いかがでしたでしょうか?

誤字脱字報告をお待ちしてます。すぐに修正しますので。

そして面白かったら下の方にある感想・評価をよろしくお願いします。作者のモチベーションアップに大きく繋がっています。


普段は乙女ゲームの悪役令嬢に転生した主人公がゲーム内容無視して好き勝手に暴れて周囲を振り回す作品書いてます。

【逆に考えて、最低最悪の悪役令嬢になりましょう!〜悪役令嬢転生。破滅フラグを回避しつつゴリ押してみた結果〜】

https://ncode.syosetu.com/n1799fv/


作者マイページからどうぞ。

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― 新着の感想 ―
[一言] この勇者、原始時代から来たのかもしれません。 指示してやれば確実に仕事をこなす相方、そんな勇者の舵を取ってサポートしてくれる部下、魔法と内政で知略と経験を発揮する部下、家庭内の雑務をこなし…
[良い点] ちょろい 魔王様かわいい! ちょろい [気になる点] だが、勇者は絶許
[良い点] めっちゃ笑いました 魔王の弱点を付いた実に効率的な戦術、さすがですね() [気になる点] 仮にガチバトルしていたらどっちが勝ったのか気になります。でも夫婦喧嘩もなさそう [一言] 捨て駒が…
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