マリッジブルーになりました。
随分前に書いていた「大魔王のお孫様!」を今回更新し始めました!
書き貯めがある分は更新していきます。
応援宜しくお願いします(∩´∀`)∩
その日は朝から不機嫌だった。
大魔王が鬱陶しいのも含め、昨日の婿に来るという勇者さんと会ってから不機嫌だ。
やはり好みではない男性との婚姻など、本当にストレスでしかない。
マリッジブルーの前にブルーだ。
朝から私の機嫌が悪いという事で、プレゼントも控えめに一時間おきにやってくる大魔王にすら目を向けず会話もせず、ただ本を読み漁る時間はなんとも言えず虚しい。
そんな私を見ていたティアさんが、昼過ぎに 「散歩に出かけませんか」 と声を掛けてくれて、今は二人で庭の散策に来ている。
大魔王の城とは言え、綺麗な庭には沢山の花々が咲き誇り香りだけでも癒してくれる。
「ティアさんありがとう、少しだけ楽になったかも知れないわ」
「それは良かったです。 塞込んでおられたようですから心配して……」
「悩んでも仕方ないのは解っているのだけれどね………」
解ってはいても、理想と現実は違う。
私が元々住んでいた世界は本当に素晴らしいものだったのだと痛感させられたのだ。
自由な恋愛が出来るというのは本当にありがたいものだったのだと思わされた今、此処の生活は辛いの一言に尽きる。
かと言って婚姻を断れば魔族と人間との間に亀裂が入る以上、断るわけにも行かない。
これが大魔王の孫と言う足枷かと思うと気が重くなるのも仕方が無い話ではあった。
そんな憂いを帯びた表情で庭の散策をしていると、遠めからでも魔族たちが私を物陰から見ているのが分かる。
「ティアさん、あの方々は?」
「まぁ!」
私が物陰に隠れてみている数名の魔物たちに手を振ると、彼らは驚いた様子で身体を九十度に曲げて頭を下げた。
「今日お孫様が憂いを帯びた表情をしていると噂になっていて、そのお姿を一目でも見ようと集まっている魔物たちです。 追い払いましょうか?」
「いいえ、彼らの好きにさせてあげて」
「しかし……」
「彼らに罪は無いわ」
そう言って微笑むと、ティアさんは 「なんとお優しい」 と胸を打たれたようだ。
私としては一人にして欲しい気持ちもあるけれど、もと居た世界では沢山の人混みの中生きてきたのだから、少しくらい騒がしい音があるほうが楽ではある。
まぁ静かに過ごしたい時もあるけれど、遠めで見つめるくらいは罪ではない。
しかし綺麗な庭園だ……こんなところでお茶が出来たらどれほど荒んだ心が癒されるだろうか。
そう思いティアさんに庭園でお茶の時間を過ごしたいと申し出ると、直ぐにお茶の用意が始まったようだ。
その間一人で近くの花々を見て回っていると、花々の中から一匹の魔物が飛び出してきた。
それは丸くて白くて可愛い耳がついている獣のような姿だった。
「まぁ可愛らしい魔物もいるのね」
「ひぁあ!」
私の姿を見るなり土下座する可愛い小さな魔物に、私は屈んで様子をみた。 すると―――。
「お孫しゃまの前に飛び出すなどもうしわけありません!!」
「御気になさらず。 随分慌てていたのね、あちらこちら傷だらけじゃない」
「これはっ」
そう言って魔物のに触った途端、驚くほどの毛触りに思わず頭をモフモフと撫で回してしまった。
柔らかいような、まるで空気を触っているかのような触り心地……それに良く見るとなんて癒される姿!
クルリとした黒い瞳に真っ白と言うよりパール色をしたその魔物を抱き上げると、魔物はガクガクと震えながら私を見上げた。
「可愛らしいわぁ……なんて癒されるんでしょう」
「お孫しゃま……」
「ちょっと昨日から塞ぎ込んでしまって……良かったらこのまま一緒にいてもいいかしら?」
「私で宜しければいくらでも!」
そう言って目を輝かせる魔物の種族は、プクと言うらしい。
名前はまだ無い。 ではなく、元々下級モンスターには名前は無いらしく、あまりの可愛さに私のほうから名前を提案させてもらった。
「そうね……プリャにしましょうか」
「ぷりゃ! ありがたきしあわせ!」
「ふふっ ついでの我が侭だけれど、良かったら私専属のモンスターになってもらえないかしら? 貴女の触り心地はとても気持ちがいいのよ……」
そう言って抱きしめると顔を真っ赤に染めるプリャの可愛さに胸が高まる。
所謂、萌えと言う奴だ。
元々動物が好きなのだが、この丸くて小さい魔物は今までお城の中では見ることが出来なかった種類でもある。
それに、この魔性の毛を味わってしまっては元の生活には戻れないだろう。
「でもでも……大魔王しゃまがお許しになるかわかりません」
「私が頼めば文句は言わないわ」
「お孫様お茶の用意が出来ました……まぁ! 低級の魔族じゃないですか!」
そう言って私がプリャを抱きしめている姿を見たティアさんは驚いた様子で駆け寄ってきたけれど、私の我が侭で専属の魔物になってくれるよう頼んだのだと伝えると、更に驚いたようだ。
本来下級魔族とは城で生活していたとしても裏手での仕事が主で、大魔王や少し上の位の魔物には会うことすら許されないらしい。
寧ろ、会うこと自体が罪なのだとか。
「ならば私がそれを撤廃するわ。 訳隔てなくというのが一番の理想よ。 まぁ危険思考を持つ魔物は論外とさせてもらおうかしら」
「幾らお孫様でもそれは……」
「この子と一緒に居ると癒されるの……それでもダメかしら?」
そう困った笑顔で口にすると、ティアさんは渋々了承してくれた。
そしてティアさんとプリャとで始まった庭でのお茶会は、本当に心を一時でも嫌なことから開放してくれるほど素晴らしいものだった。
プリャはみた事もないお菓子と、飲んだことも無い紅茶に驚き、フワッフワの長い尻尾を揺らして喜んでくれる。
嗚呼……なんて可愛らしい。
この子に似合う服も用意しなくてはと思いながら紅茶を飲んでいると、一時間が経過したのか大魔王がやってきた。
しかし―――。
「なんだねこの下級魔物は」
「私専属のペットです」
「孫ちゃん!?」
「この世界で生きていくのが辛くなりまして、その心を支えてくれた子です。 悪く言うなら一生大魔王とは口を利きません」
「それならば仕方が無い!」
「それとペットですから一緒に生活させて頂きます。 それも文句はありませんね?」
そうクギをさすと、大魔王も渋々了承してくれたようだ。
今日一日私の機嫌が悪かったのが相当堪えたようだなと内心思いつつ紅茶を飲んでいると、大魔王はジッとプリャを見つめて動かない。
プリャも硬直して動かない。
そんな様子を見つめていると………。
「孫ちゃんや」
「なんでしょう」
「この子にはどんな服が似合うかね」
「私の隣に立つに相応しい服装を」
「了解したよ!」
「ふええええええ!?」
そう言うと大魔王はプリャを抱き上げ 「これから寸法を測ってこよう」 と言いプリャを連れ去ってしまった。
遠くなっていくプリャの声と大魔王の高々とした笑い声……そんな様子をみて驚いているティアさん。
「下級魔族を大魔王に抱きかかえられるなど、前代未聞です!」
「良いではありませんか、人間の血を引く私のほうこそ大魔王になるのに前代未聞でしょう」
「しかし!」
「ティアさん? あの子にもちゃんと生きる権利はあるわ。 それを無視してはダメよ」
「!」
そう口にすると、ティアさんは驚いた様子でありつつも 「自分が恥ずかしく思います」 と反省し、これからはプリャを大事にすると約束してくれた。
ティアさんは私の生活諸々のサポートを、そしてプリャには癒しを求めるのだと理解してもらい、優雅な庭園でのお茶会は終わった。
部屋に戻ると隅っこで震えるプリャがいて、私の姿を見るなり駆け寄ってきた。
そしてこれからこの部屋で私と一緒に生活することを告げると、今度は気絶してしまった。
「本来下級魔族は魔王様のみならず上位の魔族と会うことすらも罪な為、色々ついていけなくなったのでしょう」
「その辺りも私が大魔王になったときには変えるわ」
そう溜息を吐きつつベッドにプリャを眠らせると、大魔王が部屋を開けて沢山のプリャ用の服を持ってきてくれた。
ついでにプリャ専用のタンスも用意して貰えて至れり尽くせりとは正にこのこと。
しかもプリャ専用の小さい鏡も用意され、起きたら驚くだろうな~と想像するだけで笑顔になれた。
「嗚呼……やっとお孫ちゃんが笑ってくれたね」
「今日一日笑ってませんでした?」
「笑ってなかったとも! この子のおかげなのかね?」
そう言ってベッドに眠るプリャを見つめる大魔王に 「その通りですよ」 と答えると、嬉しそうに微笑んだ。
大魔王なりに私が勇者との婚姻を嫌がっているのを察しながらも、何も出来ない自分に歯がゆさを感じていたらしい。
婚姻をやめさせることは簡単だが、私がそれを了承しないだろうと理解していたようだ。
察しがいいな爺。
「プリャと一緒に生活するくらいの我が侭は聞いていただかなくては、この世界では生きていけませんね」
「OH……それならば仕方が無い。 彼女には孫ちゃんのペットとして今後生きていってもらおう」
「無論ティアさんがいてこその私です。 これからもよろしくお願いしますね」
「勿体無きお言葉です。 一生お孫様の侍女として生きていきます」
そう言って丸く収まったその日の夜―――。
「プリャ、この洋服はどうかしら?」
「はわわ!!」
「この髪飾りなんかもお似合いかと思われます」
「はわわ!」
プリャは私とティアさんとで着せ替え人形のように動き回っていたのであった。
何を着せても可愛いのだから仕方が無い。
思う存分楽しんだ後、私は最高の毛触りを抱きしめたまま眠りについた。
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