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勇者が婿入りしてくるそうです。

随分前に書いていた「大魔王のお孫様!」を今回更新し始めました!


書き貯めがある分は更新していきます。

応援宜しくお願いします(∩´∀`)∩

 大魔王城にあるとある自室―――。

 この日、婚約者でもありこの世界の勇者でもあるヤマトと会う約束をしていた。

 専属侍女のティアさんは夜に勇者が訪れるという事もあり、念入りに私の長い髪を梳いて綺麗にしてくれた。

 黒い日本人らしい髪は、このお城で働く魔物たちにとっては神秘的に見えるらしい。

 また魔物の一部では、私のファンクラブなるものも出来つつあるのだとティアさんが苦笑いしながら教えてくれた。



 魔物とは、魔力の強さを肌で感じることが出来るらしい。

 その強さは私も大魔王と同じくらい強いらしく、若く美しい黒髪を持つ私に魔物たちは崇拝してくれているのだとか。

 しかし魔物たちに勝手にファンクラブを作られるのもあまりいい気はしない。

 が―――、魔物たちからお金を集めて街で買い物をする時に楽になるように、公式の会員制ファンクラブでも作ったら面白そうだなと思ったりもしている。






「さて、今日は勇者さんと会う日だけれども、何時頃お越しになるやら」

「戦争が終わり、平和協定が結ばれた今、シドラー王国とこの大魔王城は自由に行き来できる魔法陣があるのです」

「便利ですね」

「勇者の仕事と言うのも何かと忙しいと聞いておりますし、時間は私共でも解りません」

「ティアさんが謝罪することではありませんよ。 気長にこの世界の本でも読みながら過ごしますから」





 そう言うと大魔王から貰ったこの世界の本を手にする私。

 日本生まれの日本育ちなのにこの世界の文字が読めるというのはどういう事なのかと大魔王に聞いたところ、それは父の血の所為だろうという事だった。

 その為諸々な生活には苦労はせず、文字を読めると言う事は書くことも出来るという訳で、スラスラとこの世界の文字すら書けてしまうのである。

 チート万歳。

 内心そんな事を思いつつも父にある程度感謝した。







 そしてこの世界に来てからと言うもの、毎日大魔王からあれやこれやとプレゼントを貰っている。

 それは普段着る用の服だったり、オシャレ着だったり、本だったりと多種多様だ。

 父が使っていたという肝心の両手棍も私の手元には置いてある。

 孫娘という事もあり、祖父が急いで手直ししたその両手棍は、上下に魔力を強めるとても綺麗な宝石が入っている。

 綺麗な両手棍だが、実用性は両手杖とあまり変らなさそうだ。

 そして、一時間に一度くらいの頻度で大魔王が部屋に現れる。

 今度は何を持ってきたのかと思いつつ横目でみると―――。





「孫ちゃんに会う為に今日はバラの花束を持ってきたよ!」

「毎回プレゼントはいらないと申しておりますでしょう」





 そう、一時間に一度何かしらのプレゼントを貰うのだ。 今回はバラの花束なのだが、もう部屋の中は花屋かといわんばかりに花が置いてある。

 食べ物を何度か持ってきた時は私が激怒した為、今は控えているようだ。

 幾ら大魔王の孫とは言え、上げ膳据え膳で太らされるわけには行かない。





「そろそろ部屋の中の花も置く場所が無いので花は持ち込み禁止とさせて頂きます」

「そんな!」

「替わりに本等を頂けると嬉しいですね。 直ぐに読みきってしまうので出来ればこの城にある図書室なんかに行きたいところです」

「では大急ぎで巨大な図書室を作ろうじゃないか! 一生かけても読みきれない本の海に溺れてみる気は無いかね!」

「大魔王に溺れるよりは効率的ですね」





 そう言って微笑むと大魔王は頬を染めて喜んでいた。

 平和で何よりである。

 するとドアをノックする音が聞こえ別の侍女さんが入ってくると、どうやら勇者さんが到着したようだ。

 応接間に案内しているとの事で、私も立ち上がり歩き出そうとすると―――差し出されたのはシワシワの手。





「エスコート致しましょう」

「拒否します」





 そう言って無視して歩きだすと、大魔王は嬉しそうに私の隣へ駆け寄り歩き出した。

 この大魔王城は私の知る限りのゲーム世界の中ではありえないくらいの広さを誇る。

 とは言ってもゲームの世界は限りあるデータ等から考えても省略化されているのは解るのだけれど、こうして異世界の大魔王城で生活してみるとゲーム内の作りがどれ程お粗末かわかってしまう。

 何より大魔王城だと言うのに、どこぞの神殿の様な神聖な空気すらするのだから、大魔王と言う名にふさわしくないことこの上ない。

 行き交う魔物たちは私たちの登場に立ち止まっては頭を深く下げて、行過ぎるまでそのままの体勢から戻さないのである。



 ティアさんが言うのは、それまでの大魔王は玉座周辺の自室などからあまり出ず、中々会うことが難しい存在だったのだとか。

 それが祖父である大魔王の時代になってからは、平然と庭を散策したり歩き回るらしく、よく会うことが出来る親しみのある大魔王になったらしい。

 そう言った面からすれば、大魔王である祖父は中々お茶目な爺さんなんだろう。

 そんな事を思いつつ応接間に到着すると、ゆっくりと開かれた扉の向こうには―――とても十六歳には見えない幼い男の子らしき人物が立っていた。

 銀にも近い青い髪を後ろで束ねたその子は、私を見るなり少し驚いているようだ。





「お初に御目にかかります、勇者さん」

「ほう……想像とはまた違った感じだな花嫁」

「想像ではどんな姿だったのでしょう」

「もっと禍々しい女性だと思っていた……という事だ」





 そう言ってソファーに座り足を組みながらニヤリと笑う勇者に、私も向かい合ったソファーに腰掛けるとジッと見つめてみた。

 確かに勇者は十六と言った筈だ。

 しかし目の前に居る少年は年を考えても十二歳くらいに見える……背も高くなく声だって高い。

 まるで少女のようだ。





「勇者さんは幼く見えますね」

「これでも人一倍飯は食うんだけどな」

「少女のようにも見えます」

「双子の妹……つまり、時期シドラー王国の王女となるプリアとよく間違えられるもんだ」

「まぁ、妹さんがいらっしゃったんですね」

「ああ、今は冒険者として日々外の世界を冒険している」

「羨ましいなぁ」





 そう言ってチラッと隣に座った大魔王を見ると、ハッとしたのか 「絶対外には出さないもん!」 と慌てふためいた。

 内心舌打ちしながらも勇者さんを見つめると、両手を組んで 「ふむ」 と口にする。





「この世界では珍しい黒髪だな。 異世界の人間との間に生まれたのなら納得も行く髪だ」

「父も黒髪でしたけれど」

「黒髪自体は珍しいものではない。 寧ろその髪一つ一つにすら魔力を感じることが出来るという事だ」

「魔力……」

「どうやらそこの爺の言うとおり……流石は大魔王の孫と言った所か」

「大魔王が何て仰ってたのか気になりますね」

「そうだな、見目麗しく凛とした美しい月夜の存在とかのたまっていたな」

「キャア! 恥ずかしい!!」

「うわぁ」





 自分で言っておきながら人に改めて言われると恥ずかしい言葉だろう。

 耳まで真っ赤にしながら両手で顔を覆い恥ずかしがる隣の大魔王の足を踏みつけてやりたい気分になった。





「だが大魔王の言った言葉はあながち間違いでもなさそうだ。 中々美しい娘が俺の嫁にくるとは嬉しい誤算だ」

「ですが、そうなると大魔王は継げなくなりますね」

「ああ、言い方が悪かったな。 俺がシドラー王国からそっちに婿に入る事になっている」

「勇者が婿入り……」





 普通のRPGの世界ではありえない世界。

 まぁ、平和なこの世界だからこそありえる話なのだろうかと思ったが……ふと思いとどまることが出来た。

 それは何故かと言うと―――。





「勇者が婿入りすると言う事は、人間世界で言えば大魔王の動向を監視することが出来る上にいざと言う時は城の内部から崩壊させることが可能になる……という事ですか」

「察しがいいな」

「そんな事を人間達は考えていたのかね!」

「そこに気がつかない大魔王はちょっと黙ってましょうね」





 そう言って人差し指を大魔王の口につけると、大魔王は顔を真っ赤に染めてソファーに倒れこんだ。

 勇者はそんな様子をみて驚いた様子ではあったが、再度気を取り直し勇者と向かい合うと、勇者も何かを感じ取ったのか私をジッと見つめてくる。





「確かに、平和協定が結ばれたとしてもそれが何時どうなるか解らない現実と、今尚外の世界で人々を襲う魔物たちを考えれば……内部に入りいざと言う時に勇者として戦える事を考えれば、婿入りと言うのは中々の隠れ蓑でしたね」

「そこを冷静に見極めることが出来るお前は、そこの大魔王とはかなり違うようだな」

「まぁ、一緒にされても困ります」





 そう言ってクスクスと笑うと、勇者さんはソファーの背もたれにもたれ掛かり 「これは困ったな」 と呟いた。





「察しがいいと俺が動き辛い」

「もっと隠れて動かれては如何です?」

「お前は勘が良さそうだからな。 異世界から来たばかりだと言うのに肝が据わってる」

「腹を括ったまでです。 元の世界にはもう戻れないのですから」





 そう言って出されていた紅茶を飲むと、勇者さんはなんとも言いがたい表情で此方を見つめてきた。

 辛そう……悔しそう?

 意味は解りませんが、大きく溜息を吐くと勇者さんは出されていた紅茶を一気に飲み干した。

 そして――― 「お前はそれで良いのか?」 そう続けられました。





「良いも悪いもありません。 色々試しましたけど元居た世界にはどうやら戻れないみたいですし」

「色々試したのかい!?」

「試さずにいられます? 元の世界に繋がる場所を封印したお方が何を仰るんです?」





 そう言って大魔王を見つめると 「うぐっ」 と口にしたが、やはり元の世界へ戻る道は大魔王によって封印されているという事だ。

 このままトンズラしたかったのに、それすら出来ないのなら腹を括るしかない。

 見知らぬ土地、見知らぬ世界……幸い戦争も無い世界で暮らすのなら、悪くもないと自分に言い聞かせた。

 それに父の故郷だ、嫌いにはなれない。

 故に―――。





「父が迎えに来るまでは大人しくこの城で暮らそうと思います。 なのでお気になさらず」

「ははっ! 呑気なもんだな」

「気楽に構えたほうが楽と言うものです。 問題のタネはこの隣にもある訳ですし」

「ワシの事かね?」

「他に誰が居るというのです? もし仮に父が迎えに来て此処からいなくなったら、それもそれで大変そうですけどね」





 そう言ってクスリと笑うと、大魔王は 「息子と戦う!」 と奮起し、勇者はその様子を見つめながら楽しそうに笑っている。





「どっちが大魔王かわかったモンじゃないな」

「お褒めの言葉と受け取りましょう」

「まぁ良いだろう。 見目麗しい嫁が出来るのなら問題は無い。 婿に来る甲斐もあるってことだ」

「問題があるとすれば、私が異性と言う目線で勇者さんを見られないことでしょうか」

「……なんだと?」





 この一言に立ち上がろうとした勇者さんは私を睨み付けてきた。

 まぁ睨み付けられても可愛い少女がちょっと怒ったという印象しか残らない。

 そういった事もまとめて勇者さんにお話しすると、ムスッとした表情で私を見つめてくる。

 だが仕方ないだろう。

 異性としてみられないのは本当の事なのだから。





「可愛らしいとは思いますよ」

「確かに妹と似ているのだから可愛いだろう」

「でも異性として見るには少々問題がありますね。 やはり殿方は逞しくないと」

「気長に待て。 俺はその内親父や叔父よりも格好良くなる」

「まぁ、自信家ですこと」

「お前には負けるがな」





 そう言って悪戯っ子のように笑う勇者に、私は年下の弟が生意気に強がってるようにも見えて滑稽だ。

 が、嫌いにはなれないタイプではあると思う。

 確かにその内誰もが振り向くイケメンにはなるだろうとは思うのだが……私は父のような男性が好みだ。



 隣に居る大魔王のような茶目っ気もいらず。

 目の前に居る俺様系の勇者でもなく。



 おっとりとして優しい父が好みのタイプなのだ。





 先が思いやられる……そう思うと大きな溜息が出た。

 好みの男性がその内現れることを願いたいが、婿だという勇者が居る限り難しいだろう。

 断るのは簡単だが、人間世界に大きな問題をぶち込んでしまうことにもなる……それだけは避けたい。

 無論マイナスの面は大魔王の方にも出てくるとなると、勇者さんが言ったとおり 「親が決めた相手なら」 と言うのは間違いではないだろう。

 元居た世界の自由な恋愛がいかに貴重か改めて思い知らされる。







 その後タップリと大魔王と語り合った勇者さんだったが、私とはあまり喋らず……と言うより私が軽くあしらって居た為踏み込んだ話にはならず、初めて未来の婿と出会ったその日の夜は疲れきって自室のソファーに倒れこんだ。

 ティアさんが心配していたが、やはり好みではない男性との結婚ほど辛いものはない。





「やはりお好みの殿方ではありませんでしたか?」





 そう恐る恐る聞いてくるティアさんには申し訳ないけれど、そうだとハッキリ伝えると頭を抱えていた。





「家柄、知名度どれをとっても素晴らしいとは思うのよ。 でもお子様なのよねぇ……」

「お子様ですか………」

「私は大人の男性との恋愛がしたいの。 子供と恋愛する気にはなれないわ」





 そう溜息混じりに伝えると、その日はティアさんがグッスリ眠れるようにとハーブティを出してくれた。

 それでも胸に渦巻く気持ちだけはどうしようもない。

 その日は深くあまり考えないようにしようと思い眠りについたけれど―――……。









++++

楽しんでいただけたでしょうか?

ポチッと応援等あると頑張れます。

また「転生魔王は寺に生まれる」の応援も宜しくお願いします(`・ω・´)ゞ

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