お爺様と出会いました。
随分前に書いていた「大魔王のお孫様!」を今回更新し始めました!
書き貯めがある分は毎日一度更新していきます。
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物心ついた頃から、妙なものが見えた。
それらは妖怪と呼べるような生き物でもなく――ごく自然に人には見えないだけで生活している魔物と呼ばれる者たちだ。
きっと、世間でたまに聞く小さいオッサンってのも魔物の一種だろう。
面倒くさい事に、私にはハッキリとそういった魔物たちの言葉すら聞くことが出来た。
普通の女子高生で居たいだけなのに、一々見える魔物たちの姿にウンザリする。
そんな平凡なれど、幸せな日々は――とある梅雨時期に終わりを告げることになった。
目の前にいる威厳のある佇まいの老人の前に連れ出されたとき 「うわ、魔王かよ」 なんて自分の中で思ったけれど……異世界と呼ばれる世界が実在することにも驚きだ。
魔王と二人だけにされて――人生詰んだかなって思ったその時。
「――待っていたぞ、我が孫よ!」
そう言って魔王は両手を広げて駆け寄ってきた。
私をヒョイと持ち上げると、老人のわりには華麗にクルクル回り、立ち止まると私を更に抱きしめたのだ。
――魔王の孫。
そう言われてもピンと来ない……。
しかし頬ずりしてくる魔王の顔はまさに孫にメロメロのお爺さんと言う顔。
……解せない。
魔王とはやはり威厳ある恐ろしい存在であるべきだ。
それなのにこの体たらく。
私が勇者なら一思いに殺しているだろう。
一頻り感動し終わった魔王は、咳払いすると玉座に座り先ほどまでのお爺ちゃんって感じの顔から魔王って感じの顔に戻した。
「良くぞ来たな我が孫よ」
「先ほどまでデレられてそのような態度とられても困るです」
「驚きもしただろうが、我こそがそなたの祖父でありこの世界の大魔王である」
「解せぬ」
「解せくない! 話せば長いが 「なら結構です」 取り合えず聞きなさい。お爺ちゃん悲しくなるから」
そう言ってお願いのポーズをされては聞かなくてはならないキモスル。
でも聞いたところで――。
「元の世界には戻してもらえないのでしょう?」
「元の世界へ戻す!?ノンノン!ありえない事じゃよ!孫ちゃんには勇者と結婚して世界を更なる平和へと導く使命があるのだから!」
「はぁ!?」
突拍子も無い言葉に目を見開くと、祖父だと言う大魔王は咳払いをして今までの経緯を話してくれた。
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この世界には人間と魔族が存在し、手っ取り早く言うと私の居た世界でも良く聞く所謂RPG的な世界なのだとか。
剣と魔法の世界、そして勇者と言う存在と魔王と言う存在。
しかし挑んでくる猛者を倒しつくし、残るは平和協定した勇者のみ。 基本的なことは各国の王にして貰っているけれど、ほぼ世界は祖父だと言う大魔王が治めていてとても平和なのだとか。
「平和なら良いではありませんか」
「そう、良き事だが刺激が足りない訳だ」
「お爺ちゃんったら刺激なんて求めたらギックリ腰になっちゃいますよ?」
そう言って微笑むと、大魔王は頬を赤くして照れた。
これが若くてイケメンな魔王とかなら恋愛フラグとか立ちそうなものを、寄りによって血の繋がった祖父だと言うのだから絶望しかない。
しかし、全ての勇者を倒しつくしたというのであれば、目の前に居る祖父はこの異世界では最強という事だろう。
とてもそんな風には見えないけれど……。
「ですが、私と血が繋がっているといわれても私の両親は共に日本人の筈です。異世界の大魔王と血が繋がっているとはとても思えませんけど?」
「そこも話せば長いんじゃが 「手っ取り早くお願いします」 お前のお母さんがこの世界に迷い込んだときに知り合ったのがワシの息子で、早い話が異世界に駆け落ちしてしまったのだよ」
「へぇ、ありきたりな話題で面白みがありませんね」
「お爺ちゃん的には面白がって欲しくないもん! ワシずっと一人で寂しかったんだもん!」
そう言ってプンプンと怒るこの目の前のジジイは、本当に大魔王なのかと。
そんな事を内心突っ込みつつも、私は両腕を組んで溜息を吐いた。
「お爺ちゃんは知らないでしょうけど、私が生きていた世界……貴方でいえば異世界では子供が行方不明になっただけでも大騒ぎするんですよ。 それこそ大事件です」
「ワシ大魔王じゃもん、悪いことは専売特許じゃもん」
「その割にはこの世界は平和なのでしょう?」
「戦争なんて馬鹿げたことはやってはならんと部下の魔物たち全てに伝えてあるからな。 人間の方もその考えは行き渡っているし、ワシが世界を治めるようになってから治安維持にも力を入れて更に雇用率もアップ! 保険制度もバッチリ! 老後には人間達は年金がもらえる制度まで作ったもんね!」
「まぁ凄い、リアルっぽい」
「こっちの世界がリアルだよ孫ちゃん」
そう言ってウインクを噛ます大魔王に、私はニッコリと微笑んでおきました。
確かにこの大魔王が言うとおり、大魔王が世界の治安の維持や雇用や保険制度、ましてや年金制度まで作ったのであれば、勇者が一々倒しに来ることもバカらしいだろう。
寧ろ、大魔王を倒したらこの安定している状態から一気に崩れ落ちる事を考えれば、その大魔王を倒そうなんて冒険者は無いに等しいと理解できた。
――だからこそ刺激が欲しいと。
「刺激が欲しいのは解りました。 ところで勇者と結婚したら何が貰えるんです?」
「この世界の全てをやろう!」
「半分じゃないんですね」
「何せワシのたった一人の孫じゃからのう……この世界を全て引き継いでもらわねば困るわけだよ」
「相当な税金を取られそうですね、お城は差し押さえでしょうか」
「そう言うのは孫ちゃんにはおわせないもん! じゃから勇者と結婚して欲しいだもん!」
「世界最強の大魔王様の祖父に夫が勇者になるなんて……ふふっ 遠慮します。 面倒くさいですし元の世界に戻りたいですし、普通の女子高生として今後も生活して恋をして青春したいのに、何故こんな煌びやかなお城で青春を無駄にしなくちゃならないんです? 絶対嫌です」
一呼吸も置かず一気に喋ると、大魔王はポカーンとした表情の後……キリッとした表情を私に見せた。
「では、勇者と結婚せぬと申すか」
「ではもっとハッキリと言いましょうか? 勇者と結婚して世界を貰ったとして、私にはなんの利点も得もないという事です」
バチバチ!
私と大魔王の間に火花が散った――気がする。
長い沈黙……最初に動いたのは大魔王だった。
「もしや……異世界に好いた男でも?」
「いませんけど?」
「良かった――! 居たら今頃異世界に放っている魔族に殺させているところだった!」
「また物騒な」
「良いかね孫ちゃん! 女の子なのだから身体は大事にしなくてはならないのだよ! それこそ将来夫になる勇者以外と手を繋ぐことすらワシは許さんもん!」
「そんな考えだからお父さんは家出したんじゃないですか~?」
そう言って溜息交じりに言うと、大魔王は肩を落として落ち込んだ。
老人を虐める趣味は持ってないけれど、一々自己中心的な発言をするこの爺は苦手だ。
しかし大魔王は別の意味で落ち込んでいたようで――。
「でも孫ちゃんにモテナイのも困る……ワシ調べたもん。 そっちの世界では未婚率が高いって部下に調べさせてきたもん」
「未婚と私となんの関係があるんですか」
そう言うと大魔王は言い辛そうにチラチラ私の事をみながら――。
「孫ちゃん異世界じゃ……気が強いからモテなさそう」
そう口にした瞬間私は笑顔のまま近くにあった椅子を大魔王に投げつけた。
その反応を喜ぶ大魔王、一々イライラさせるっ!!!
「孫ちゃん怒った――!!」
「ええ、ちょっとイラっとしました。 でも孫の扱いを知らぬジジイに一つ良い事を武士の情けで教えて差し上げます」
「ん? なんじゃね?」
「そんな事を言う爺は、孫には嫌われるんですよ」
そう言って決して笑ってない瞳のまま微笑むと、大魔王は持っていた杖を落として私に駆け寄った。
そのまま謝罪の言葉を早口のように延々と述べる姿に、ザマァと思いつつも聞き流す。
しかも謝罪すると同時に何度も 「勇者にと結婚もしてくれ!」 とも言ってくるのが一々煩い。私は頭を抱えて溜息を吐くと一つ提案した。
「良いでしょう。大魔王が祖父であることは理解しましたし納得もしましょう」
「本当かね!」
「しかし、勇者と結婚したとしても、この世界では私になんのプラスもないので勇者とは結婚しません」
「なんとぉ!!」
「ここは剣と魔法の世界だというのなら、ジョブは私が選ばせて貰います。とは言っても私は魔法も剣も使えない世界からやってきたので出来るジョブなんて限られるでしょうけどね」
そう言って鼻で笑って伝えると、大魔王はウットリとした様子で私を見つめてきた。
この大魔王、若干のMっ気があるのではなかろうか。
そんな疑問も浮かんだけれど、私はウットリしている大魔王の額にデコピンして我に返させた。
「大魔王に20のダメージ!!」
「ああ、ダメージって一応でるんですね」
そう思うとこの世界の魔物たちは攻撃を喰らうたびにそんな風に叫ぶのだろうかと思ったけれど、一々反応するのも面倒くさい……。
何故なら大魔王がデコピンされただけで喜んでいるからだ。
「それと、この世界の事を何も知らないので色々知る必要があります。学園なんてものがあるならそこで青春を取り戻したいところですね」
「学園なんかに行かなくても、お爺ちゃんが色々教えるもん!」
「偏った知識はこの世界の均衡を壊すことなります」
「偏った知識なんてワシは孫ちゃんに教えないもん!」
「では学園は諦めるとして、人間の住む街や魔族の住む場所には行かせてください。今この異世界がどのように成り立っているのか知る必要があります」
「やる気があるのはいい事だ!」
「モノは言い様ですね~」
そう言って微笑むと、取り合えず今日からはこの魔王城で生活することが決まった。
決まった――と言うより、既に私の部屋を用意していた辺りから察するに、遠からず私はこの異世界に来る事になっていたのだろう。
しかし。
「どうじゃねこの孫ちゃんの部屋は!女の子はピンクが好きじゃと聞いて全部ピンクじゃよ!」
「ではこの部屋を青に変えましょうか」
「なんで!?」
「私、ピンク嫌いなんで」
そう言うと大魔王は急ぎ部屋そのものを青に変えるよう指示を出し、私はその日別室で眠りについたその頃――……。
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