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5.殿下からの贈り物

「え、エルマー殿下からの贈り物?」

「はい。 本日の夜会でこのドレスを着て欲しい、との言伝です」



 ランに突然言われ、私は思わずスカイブルー色のドレスを凝視してしまう。



 ある朝突然、エルマー殿下から届いた大きな箱や小さな箱の数々。

 ……その箱の中にはいくつもの装飾品と、また大きな箱の中には宝石が散りばめられたドレスが入っていて。

 私は思わず悲鳴をあげる。



「こ、これ一体いくらしているの……!?

 こんなドレス私、着たことないわ!!」



 流石は豊かな国、ブラッドリー王国。 ……だなんて、呑気に感心している場合ではない。

 私の言葉に、ランが続けてうんうんと頷く。



「えぇ、素敵ですよねぇ」



 ランの目が完全にハートになっているのを感じ、私は頭痛でこめかみを抑える。



「……ちなみに、着ないと言う選択肢は?」

「まあ、ないでしょうね。 隣国の第二王子でいらっしゃる殿下に頂いたものですし、それに拒否権はないと、殿下自ら仰っていました。

 “スイーツを毎日持っていっている代わりに、これを着て欲しい”とのことです」

「〜〜〜」



 そう言われては私も、何も言い返せない。



(……でもそれでは、結局私が貰っでばかりじゃない!

 それを私に着て欲しいだなんて、本当にエルマー殿下、貴方は何を考えていらっしゃるの?)



「……それに殿下、本当に姫様を思っていらっしゃいますよね。 このドレスの色だって、」

「ラン。 もう貴女は黙っていて」



 ランはぺろっと舌を出して、全く反省していない素振りをしながら、私の目の前に箱に入った装飾品を次から次へと取り出しては並べる。

 私はそれを白い目で見ながらはぁっとため息をついた。




(……こんな愛、重すぎるわよ)



 そう未だに並べられていく装飾品の数々と、空になった積み上がっていく箱のタワーを見て、私は盛大にため息をついたのだった。




 ☆





「……ねえ、本当に大丈夫かしら?」

「えぇ、とってもよくお似合いですよ。 殿下もとてもお喜びになられると思います!

 姫様はそれはもう、素材もとても良いですから」

「っ、そ、素材って何……」




 私は髪から爪の先までしっかりと手入れされ、何時間以上も仕度に時間がかかった自分の姿を見下ろし、ランと会話をする。



(〜〜〜これも、殿下の仕業よ……! あの方、何を考えてらっしゃるの!)




 お陰様でティータイムの時間すら取れなかったのだから、絶対に殿下に会ったら文句を言うんだから、と私は息巻いて夜会に続く廊下を歩き出す。

 ……しかし、本当に居心地が悪い。



「……ねえ、そんなに私って変かしら」

「? ふふっ、今日の姫様を見て“呪われ姫”と呼ばれる方は、絶対にいらっしゃらないでしょうね」



 ランと二人、そんな会話をしながら歩いていると、玄関ホールで金髪姿の男性の後ろ姿が目にとまる。



(っ、あれは間違いなく殿下ね……!)



 文句を言ってやる、そう思って、ランの止める声も聞かず、殿下にツカツカと歩み寄った音に気付いたエルマー殿下が、こちらを振り向く。



「「っ」」




 エルマー殿下の青空を模したような瞳と視線が重なり、思わず息を飲んでしまう。

 ……いつもとは違って夜会用の服を見に纏った殿下の正装姿が、一段と格好良く見える、なんて。



(……い、嫌だわ、私!! 何を考えているの……! そ、そうよ、私がこれだけ着飾らされたんだもの、文句くらい言ってやるんだから……!)




「あ、あの……!」




 そう言おうとして固まる。 ……それは、エルマー殿下が極上の笑みを浮かべ、私の元に歩み寄ってきたからだ。

 ハッとした時にはもう遅い。

 殿下は私の髪を一房手に取り、軽く口づけられる。

 そして私の頰に触れて言った。




「いつも可愛いと思っていたが、今日は一段と綺麗だ、ローラ姫」

「!!!」



 一連の動作を完全に把握するのにフリーズしてしまっていた私は、羞恥のあまりカーッと顔が火照るのが分かる。

 それを見たエルマー殿下がクスクスと笑い、そっと囁いた。



「ほら、他の人も見ているから、あんまり可愛いことはしないで?」

「っ、か、可愛いだなんて……! そ、それに誰のせいだと!」

「エルマー、そこまでにしてあげて。 流石に婚約者でもないのだから距離は保つように」




 私はその声に顔を上げ、少し驚いて目を見開く。



「あ……確か、貴方は」




 私の言葉に、エルマー殿下に目元がよく似た、金色の髪に、緑色の瞳を持つ陛下……、もとい、エルマー殿下のお兄様に当たる方が言葉を発した。



「お初にお目にかかります、ローラ姫。

 私の名はレナルド・ブラッドリー。 一応、ブラッドリー王国の現国王だよ。 愚弟がいつも世話になっているみたいで」

「れ、レナルド・ブラッドリー陛下……!

 こ、こちらこそ! エルマー殿下にはいつも、沢山頂きものをしてしまっているばかりで、私」

「あぁ、構わないさ。 ……それに、どちらかといえば、エルマーが一方的に贈り物をしているんだろう?

 申し訳ない」

「いえ、そ、そんな」



 私がペコペコとお辞儀をしていると、エルマー殿下がぐいっと私の肩を引き、お兄様であるレナルド陛下を睨む。



「レナルド陛下、やめて頂けませんか。

 ローラ姫に余計な気を遣わせないで下さい」

「エルマー、お前は少し話したくらいでそう怒るな。 嫉妬はみっともないぞ」



 え、嫉妬?

 私はその言葉を聞き見れば、エルマー殿下は顔を赤くして俯いたつもりが、バチっと目が合ってしまう。

 あら、と私は驚いて目を見開けば、エルマー殿下はぐいっと私を引っ張るように歩き出す。



「お、お先に失礼致します」

「あぁ、これからも愚弟を宜しく頼む」



 私はちゃんとした挨拶も出来ずどんどん離れていくレナルド陛下にそれだけ伝えれば、苦笑いで手をヒラヒラと振る陛下。

 ……エルマー殿下から伝わってきた手の体温は、熱いくらいに温かくて、思わず少し笑ってしまう。

 それに気付いたエルマー殿下は、まだ心なしか赤い顔をしながら、少し不貞腐れたような表情を浮かべて私に言う。



「……陛下の言うことなんて、いちいち間に受けなくて良い」

「ふふ、でもエルマー殿下と陛下はやはり、ご兄弟だなと感じました。 陛下はエルマー殿下のことをよく見ているのが伝わってきました」

「過保護すぎるんだ。 俺が結婚するのを見届けるまで自分も結婚をしないと、息巻いているくらいだからね」

「! えっ、それは一大事じゃないですか!」



 跡継ぎを産まなければいけない立場の方なのに、と私は驚けば、エルマー殿下はクスリと、妖艶に笑ってみせる。



「……なら、今すぐにでも、ローラ姫が結婚を承諾してくれれば済む話なんだけどな」

「っ」




 私はその言葉に思わず立ち止まる。

 それに驚いた殿下も立ち止まり、少し悲しそうな表情をした後、困ったように笑い私の頭をポンと撫でた。



「冗談だよ」








 そう言って今度は、「エスコートをしよう」と彼の手が上向きに差し出される。

 私は殿下の手を取ろうか迷ったが、最終的に悲しげな表情を浮かべる殿下に根負けし、その手を取ると、煌びやかな会場へと誘われたのだった。






 ☆






 夜会中、いつも以上に視線を感じることが多かった。

 お父様の後ろに控えて座っていた私は、流石に疲れを感じてお父様に席を外す許可を頂くと、王家用の休息の間へ行き、寛いでいた。

 そして、トントンと部屋をノックされる。



「はい」




 私が居住まいを正してそう返答すれば、ランと共に入ってきたのは陛下であるお父様で。

 私は少し驚いてしまう。



「お父様、ここにいて大丈夫なのですか?」

「少しだけなら大丈夫だ。 ……少しお前と、二人で話がしたかったからな」

「私と、二人で?」




 何の話だろう、私は首を傾げている間に、ランは会釈をして部屋を出て行く。

 それを見届けてから、お父様は私に視線を移し、立ったまま私に静かに問いかけた。



「この前の質問の答えを聞かせてくれないか」

「! ……私がこの一年、何をしたいか、ですか?」

「あぁ」



 お父様は少し頷いてから、「いや、やっぱり単刀直入に言おう」とそう言って、私のドレスを指差して言った。




「お前は、エルマー・ブラッドリー殿下の婚姻を、受け入れるつもりなのか」

「!!」





 お父様の言葉に、私はハッとする。



(……そうだわ、私、浮かれていた)




 殿下の瞳と同色のドレスを着る、ということは、殿下のお気持ちを受け入れていると思われるのも同然。

 ましてや、殿下にエスコートされて会場へ入ったのだ、皆にそう思われるのは何ら不思議なことではない。





(……私としたことが、失念していたわ)





 ギュッと拳を握りしめる。






「それで? お前の気持ちは、どうなんだ」

「っ、私は……」


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