13.闇に葬り去られた歴史
「ごめんなさい」
そう頭を下げて謝る私に、ルイ様は驚いたような声を上げた。
「え、どうして?」
「……全て、思い出したんです。
私がどうして、“呪い”にかかったのかも、貴方がその“呪い”によく関わっていることも……」
「あぁ、そのこと」
ルイ様は苦笑いして少し考えた後、言葉を発した。
「とりあえず、顔をあげて。
……少し、昔話をしようか」
座って、とルイ様はパチッと指を弾けば、氷で出来た背もたれがある椅子が3つ、ポンと出てきた。
驚く私達に、ルイ様は「君達の椅子は冷たくないから」と言い、座るよう促される。
私と殿下は顔を見合わせてから座ると、確かに、椅子は何故か氷で出来ているはずなのに冷たくなかった。
驚く私達に、ルイ様はクスッと笑ってから目を瞑り、そしてゆっくりと語り出した。
「……君達がここに来る10年、いや、君達が生まれるよりずっと前……、まだマクルーア国が四季豊かな土地だった頃は、私達マクルーアの守護獣と人間は仲が良かった」
ルイ様から紡がれていくマクルーアの歴史は、今とは全く違い、文献にも載っていないことばかりだった……―――
昔、マクルーアの遠い時代。
マクルーア国は四季豊かで、町は活気に溢れていた。
豊かな自然、恵まれた土地……、それら全てをマクルーアに住む守護獣達が守り、そして民はその守護獣達ともとても仲が良かった。
だがある日、今は亡き大国がマクルーア国にやって来る。
マクルーア国が他国に狙われているという噂を聞いて、大国と手を組み、和平条約を結ぼうとその大国が持ちかけてきたのだ。
マクルーア国は他国に比べ、土地はあまり大きいとは言えない。 そして、今までにそんな和平を結ぶような国もなかった。
当時の王は悩み、ある一匹の守護獣にその話を切り出した……
「その守護獣というのは、僕の祖父にあたる人なんだけどね。
……僕等守護獣は、君達とは時の流れが違うから」
そんなことを話すルイ様の瞳は、少し悲しげで。 私と殿下は思わず顔を見合わせたけど、ルイ様はそのまま話を続けた。
当時のマクルーア国王は守護獣に和平条約を締結する話をする。
和平条約とは、簡単に言えば、どちらかの国が他国からの侵略があった際に助ける、そういったようなものだった。
守護獣は怒った。 守護獣の力なしの大国とでは、歴然とした差があるのではないか、と。
しかし、マクルーア国王は首を振った。
大国には守護獣はいないが、大国となるために培われてきた武器が沢山ある、と。 又、和平締結を承諾しなかった場合、マクルーア国に攻め入ってくる可能性が高くなると。
「そのせいで多くの民を巻き込み、多くの血を流すことは耐えられないと、守護獣の反対を押し切って国王はその和平条約を結んだ。
そして悲劇は、そこから始まることになる」
それから数年後、大国は戦争を開始した。
和平条約のこともあり、マクルーアも手を貸さざるを得なかった。
そしてその戦火はとどまることを知らず、ついにはマクルーアまでにも攻め入る。
しかし、マクルーアに大国が手を貸すことはなかった……
「緑豊かなマクルーアは、どんどん戦火に包まれていった。 しまいには国王は、慣れない戦争の疲れにより病に倒れた」
「「!」」
そして守護獣は憤った。
大国に裏切られ、マクルーアはどんどん荒れ果てた土地になっていき、国王は病に伏せる。
その間にも、多くの兵士や市民の命は失われていく。特に祖父にとって、国王が病に倒れたことが一番心に深い傷を負った。
「国王と祖父は、幼い頃から仲が良かったんだ。
大国の戦争に手を貸す時だって、祖父に向かって国王は“命を落とさない”という約束を交わしていたほどにね」
その約束も破られそうなことに怒り、悲しんだ祖父は、マクルーア国を戦争から遠ざけるため、そしてこの土地を荒らされないようにするため、マクルーア国土全体を雪と氷の国……、一年を通して冬の気候へと様変わりさせた。
「……それが、マクルーア国が一年を通して雪と氷に覆われるようになった理由だよ。
ちなみにこれは、マクルーアの歴史書にも載っていない、君達と僕しか知らない秘密だ」
「そんな……、マクルーアに、そんな歴史があったなんて……」
私は愕然とした。 確かに、今聞いた話は全くもって聞いたことのない話だった。
外の世界すら知らなかった私には、本が全てだった。
だけど、その本にも書かれていない、マクルーアの秘密、ルイ様のお爺様の代にそんなことがあっただなんて……。
「……それを幼い頃から聞いていた僕も、人間を信じられなかった。
だから今では数少なくなった守護獣は、それから人との距離を保つ為に、ひっそりと、身を隠して住むようになったんだ」
そうルイ様は切ると、私と殿下を見て言った。
「時は流れ、祖父や両親は亡くなり、一人ぼっちになった僕は、ここでひっそりと生きていた。
でもある日この場所に、二人の幼い子供達が現れた」
「「……!」」
ルイ様はアイスブルーの瞳をゆっくりと私達に向け言った。
「そう、御察しの通り、君達がここに迷い込んだんだ。
……エルマー殿下は気を失った状態で、そしてローラ姫はボロボロの状態で、ね」




