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前世の私と今世の私



 前世の記憶を思い出して一年経ち、私は十一歳になりました。


 前世の私は異世界の地球と言う星の日本に住む女性で、栄養士兼調理師をしていた。おかげで料理が得意になったよ。


 前世の私は社会人だったから、簡単なマナーも身に付いたよ。あと理数系の勉強だけは、この世界の貴族しか通えない高等大学部と、同程度の知識量になったのも嬉しい誤算だ。いきなり難しい問題を解き始めた私に、アルとシスターもかなり驚いてた。


 あら?これって目立つつもりがないのに目立っちゃった?


 もう、リディシアってばウッカリさん(テヘペロ)


 ……イタイ…イタイ女だわー。自分でやってドン引いた。


 異世界とこの世界は、物の呼称が同じものが多い。もしかしたら並行世界の私の前世の過去が、今世の私が宿った?もしくは同じ並行世界だったが、何かが劇的に変わってしまい、地球とはまるで違う様相になった地球だろうか?さっぱり分からないな。


 この世界の地理も地球とは全く別物だし、髪も瞳も色んな色だし、大好きなコーヒーはないし(泣)、科学や錬金術・魔法もある。


 でも魔法は、異世界のRPGゲームみたいに万能ではない。



 良い事もあれば悪い事もある。


 前世の私は枯れた喪女というバッドスキルを持っていた。前世の私には彼氏が出来た事がなかった。いや顔はブスではなかったよ。ベストオブ普通?男性から誘われる事もあった。


 しかし!喪女の思考は枯れているから、なかなか恋愛に発展しない。



 具体的に例を挙げると…



「今夜飲みにいかない?」


 (喪女の脳内)


 酒飲みの男性か、だがすまぬ。私は体質的に、酒もタバコも受け付けんのだ。居酒屋とか、服や髪にタバコの匂いがつく。この人は明日は休みだが、私は明日は早番だし、面倒くさいし無理。



「仕事終わりに、二人で食事にいこうよ」


 (喪女の脳内)


 うーん、今月金欠なんだよな。明日も仕事だし、早く家に帰って洗濯して、お風呂にも入りたいし、携帯ゲームやとりためたドラマを観てる方が楽しいし、行くのは面倒くさいなぁ。



「君といると楽しいよ」


 (喪女の脳内)


 何て素直に嬉しい誉め言葉。浄化されるー!枯れた喪女にこの人は眩しすぎるよ。喪女は恋愛面でピュア?なんだよ?どうしたらいいんだ(オロオロ)こういうの慣れてないから、すぐにパニックになる。

 この人はリア充だ!間違いない。色んな友達が一杯いて、ブログやインスタのフォロワーとかも多そう。いいね!が一億個位ついてても、喪女!もう驚かない!友達が片手の人数しかいない私とは、住む世界が違うかな?


 …といった具合だ。



 知識や料理スキルや簡単なマナーを得た代わりに、枯れた喪女属性も獲てしまった。

 全ての人間は自分より上だと思っていて、年下にさえ人によっては敬語で接する時もある。自分に自信がないから、異性から自分が好かれているなんて夢にも思わない。しかし鈍すぎじゃないか?



 前世の記憶ってドラマを録画して、DVDで時間別に駒割りされたメニューを目の前に出された感じ。私の場合はこうだけど、他の前世の記憶を思い出した人はどうだったんだろう?


 何度も再生画面を見ていたら、「この人前世の私の事を口説いてる?」という場面も出てきた。



 一人の時間が大好きで、ボーッとして何もしなくても、自分の為に使える時間が何よりも大切だった。そんな喪女が前世の私。

 お家の自分の部屋が大好きで、何なら一生一人で引きこもってても、環境を整えてくれれば幸せなタイプの喪女に、恋愛は憧れはしても縁遠い。


 でもね?

 喪女をかばう訳じゃないけど、そして分かっちゃ不味いんだけど、面と向かって実際に会って、「あなたの事が好きです。付き合って下さい!」と言われないと、喪女的には一生同僚(あなた)の気持ちに気付かないと思う。


 はっきり言われないと、likeとloveの違いが分からない。逆に何で皆は分かるんだろう?


 あの人も喪女と恋人になりたければ、告白すべきだったんじゃないかな?


 何で告白しないの?


 自分が傷つきたくないから?


 断られたら会社で仕事がやりにくくなるからかな?


 それって自分を守ってるだけじゃない?


 つまり自分を愛する気持ちの方が、喪女を想う気持ちより大きいという事?


 確実に告白を了承してもらえる位にまで、じわじわ仲良くなって、いい雰囲気になってから告白ぅ?普通の人や恋愛上級者しか無理じゃない?


 喪女には曖昧な好意を示しても、社会人として仕事をしやすくするための社交だと思われてるよ?

 そのままじゃ、喪女からのあなたの印象は、ただの会社で仲がいい人から一生卒業できないかもね。記憶から感じたあの人の気持ちが、私の自惚れじゃなければ。


 なんだか上から目線になっちゃったな。

 私があの男性ならさっさと告白して、断られたらすっぱり諦めるけどな。逆に告白したら喪女に何も思われてなくても、意識して貰えるのに勿体ない。


 私もこちらの世界に馴染んでるから、物事を白黒はっきりさせたくなる。


 白か黒かはっきりしろ!

 気持ちに灰色なんて認めない!!


 あの人にそう言いたい。


 しかし喪女って恋愛面で鈍いのか……。私もああなのかな?


 喪女スキル・返品したい・早急に。



 死んだ記憶はないけど、トラウマになっているからか覚えていない。比較的若い女性の記憶しかないから、若くして亡くなったのだろう。



―――――――



 十歳の時に七歳の時より詳細な魔力検査をしたら、私の魔力系統は…少しの光属性とほんの少しの闇属性の値は、な・な・なんと全く変わっていなかった。


 セイ、セイ!?おかしくない?


 私は十一歳になった今でもリサ達にちょくちょく虐められてるよ?意外にあいつら一途じゃねぇか…?


 少ない光魔法をゼロ近くになるまで、限界ギリギリまで行使しまくってるっていうのに何これぇ?何で七歳に測った時と比べて、数字が一つも増えていないんですかねぇ?


 ちょっと責任者出てこい!


 (裏リディ)

 あん?何だおめぇ?


 確か魔力が尽きるギリギリまで鍛練すると、全体の魔力量が微量でも増えるんじゃなかったの?どういう事よ!一単位も増えてないじゃない!?


 (裏リディ)

 知らねぇよ!おめぇが逆チートだったんじゃねぇか?

ぶぶっ、枯れた喪女に加えてとんでもないバッドステータスだな。

 キャハハハハハ……ハァ。

 あたいもリディだっての。悲しくなるわー。一周回って可笑しくなるわ。


 小芝居終了――――。



 まぁ、いいのよ。私は平民だし、こんなものダヨ。………うん、涙なんて出てない。これは目から出る汗ダヨ?



 光属性は免疫力向上しか使えないままか。闇属性はこっそり本で覚えたけど、実践はしていないし、したら犯罪者になるよ。

 シスターにもかなり少ない量とはいえ、闇属性をもっているだけで白い目で見る人もいるから、絶対に誰にも口外してはいけないと言われたしね。


 せっかく魔法がある世界に転生したのに、私も炎・水・風・土・無属性魔法とか、全属性の魔法を使ってみたかった。


 前世のRPGゲームのメテオとか、ホーリーとか?カッコよく使いたかった。まあ使えても世界が滅びる?かもしれないし、一生使えないだろうな。残念。



―――――



 孤児院に来てかなりの年数が経過した。

 私から大分離れた年下はいるが、今の最高年長者は十三歳のアルになった。


 この世界は十六歳で成人と認められ、結婚・喫煙・飲酒が認められている。平民は貴族よりも早く結婚する人が何故か多いから、以前の十八歳から引き下げられた。


 何故なのか理由をアルに聞いてみた。私が成人したらアルが理由を直接教えてくれるらしい。

 何故今教えて貰ったらダメなのか分からない。今じゃダメなのか聞いてみたら、ちょっと顔を赤くしたアルが、リディが大切だから今はダメって言われて、教えて貰えなかった。粘ったがどうしてもダメらしい。



 私とアルは変わらない様でどこか変わってしまった。


 私が倒れてからアルは以前にも増して、飢えた獣の様な勢いで、知識や沢山の教養を深め、武術・剣技などの技能を習得し、様々な人脈を町に求めた。


 決められた行事や食事の時間以外では、めったに二人でいる時間がなくなってしまった。



 寂しくない……とは言えない。


 だって私達はずっと隣で手を繋いで、一緒に歩いてきたのに、いきなり手を離されて、アルは遠くに駆けて行ったからだ。


 毎日隣にもいるけど、アルは私を見ながら遠くを見ていた。


 今ここに、私はあなたの隣にいるのに、アルは私を見なくなった。



 前世の記憶で精神年齢が上がっていなかったら、きっとアルにすがりついて、寂しいと涙を流して頑張る彼の足を引っ張り、自分の元に引き留めただろう。

 寂しい・会いたい・甘えたい・甘やかしたい・ぎゅっと抱きしめたい・ぎゅっと抱きしめられたい。そんな思いでぐちゃぐちゃになって、たまらない時もある。


 アルはどんどん凄くなっていくのに、私は彼の背中をただ見ているだけなの?私なんてアルの隣には不釣り合いだよね?


 ……そんな考えじゃ女が廃る。



 “私なんて”じゃない!

 “私だって”できる!

 私も彼に負けていられない。まずは一番苦手な友達作りからだ。これまでよりもアルといない時間も出来たし、まずは孤児院の子達から攻略よ!


 あら?なんだか乙女ゲームみたい。毎日話しかけたらなんとかなるよね?



 …そう思ってた頃もありました。


 私が倒れた十歳の年に、私は毎日孤児院の子に話しかけにいった。これまでは避けられている事から、あんまり大胆には接触出来なかった。


 避けられてもっと自分が傷つくのが怖いという怯えが理由。

 こちらが当社の従来品のリディでした。

 でも新しくなったNewリディは違います!

 並行して教養・運動・料理・裁縫・マナー・魔法、他にも思い付く限りの自分磨きをしなきゃ!


 早速、孤児達に話しかけにいくが、なぜか青ざめた顔で私と一定の距離に入ると、触れるのも怖いお化けや恐ろしいバイ菌をみたかの様に、避けられて時には謝られながら、脱兎のごとく俊足で逃げられます。


 私はあなた達に、何もしていないのに何故だ?

 喪女にも人権はあるんだぞ(泣)


 アルにも一度付き合ってもらいましたが、更に怯えが酷くなって、許してーとか、ウワーンコワイとか泣かれて、何故か私ではなくアルに対して、青を通り越して白くなりながら、皆が謝りながら去っていくではありませんか。


 解せぬ!?

 何故アルに謝るの?

 泣きたいのはこっちだ(泣)


 アルの前で久々に泣いてしまった。

 アルは面倒くさそうに嫌がるどころか、リディの泣き顔久しぶりに見たけど、やっぱり可愛いとか言って、ホッぺにチュッチュッされ、何故か上機嫌のアルに抱きしめられて、久しぶりにベタベタ甘やかしてくれた。

 うっ!小さな頃みたいに甘えて、アルの一日を潰してしまった。謝ったら役得だから謝らないでと言われた。どう意味?


 私が一人でいる時に孤児の最年長のお姉さん(十五歳)が近づいて来た。かなり周囲の様子を気にしている。何だ?何に怯えてるの?そしてある一定の距離で止まり、私にこう言った。


「あなたは昔から何も悪くないよ。でもごめん。あなたと距離を取らないと、本当に恐くて無理。私はまだ死にたくないし、助けられなくてごめん」


 そう言ってダッシュで逃げて行った。

 早っ、マジではえぇな!


 どういう意味?

 呪いでもかけられると思ってるの?

 そんなことしないよ?(泣)


 私が闇系統持ちだってことは、秘密にされているはずだけどなぁ。なんだ?醸し出すオーラ?


 私に話しかけてくれたお姉さんが十六歳になり、成人を迎えた。


 誕生日は孤児院からの巣立ちと別れの日でもある。


 礼拝堂に孤児達が集まり、孤児院からのお姉さんの卒業を見守る為に、今日は神父・シスター・ボランティア・孤児達が全員でお姉さんの門出を祝う。


 アル以外では孤児達の中から唯一話しかけてくれた人だから、私は……うん、何も思わないな。


 お姉さんの名前が神父様に呼ばれて、孤児院の卒業証明書と魔法の欄だけ秘された個人能力証明書を取りにいく。


 この書類の複写を就職先に提出するらしいので、一生持っていなければならない大事な書類だ。個人能力証明書は魔法をかけると閲覧可能。本人には魔法の欄も全て見えている。


 犯罪が起こった際には、警羅署から提示を求められることもある。容疑者が提示を拒めば、要請をうけた神職者が容疑者の情報を提供する。


 証明書を受け取り、皆に拍手されてチューリップの花束を手渡され、孤児院を出ていくお姉さんが、最後にアルと手を繋ぐ私を見て、「哀れな」とぼそっと言って、ピンクのハンカチを取り出して目元にあてる。


 ちょっと本当に泣いてない?

 周りを見渡すと、孤児達はアル以外の皆があさってな方向を見て、焦って私から必死に目をそらす。


 マジでどういう意味!?

 バイ菌とは目をあわせたくもないし、バイ菌に生まれて可哀想ねと言いたいのか?

 バイ菌にだって人権は……ねぇなあ“人”権は!(もう号泣)


 周りの大人達は、アルに抱きついて号泣する私に、「あらあら~お姉さんが卒業するのが寂しいのね~」って、微笑ましそうに見てたけど、真実はこんなものなのだ。


 結局号泣した私は、アルに甘えて、甘えて、甘えまくった。何年か越しの甘えたスイッチが入った私は、またアルの一日を潰してしまった。


 アルは「クソッ耐えろ俺、リディが可愛過ぎて辛い」とか、「これはご褒美という名の拷問なのか。俺への罰なのか」とか言って、何回か真っ赤になってトイレに駆け込んでたけど……下痢?お大事にね?



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