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私とあなたと夜の魔王さま





「あれ?ここは?」



 正方形の黒と白が合わさった床に、私の好きな本のお姫様が着ていたドレス姿の私が、お母さんのお腹にいる赤ちゃんみたいな姿勢で丸まって倒れていた。


 上半身を起こして自分の姿を確認すると、薄いピンクの桜の花びらを上から何枚も重ねた様な軽い素材のキラキラ輝くドレスを何故か着ている。


 回りの壁は凹凸をのこした細工がしてあったり、白と黒が使われた内装や、正方形の白と黒の床、魔法灯の独特のデザイン、まるであの本の中に入ってしまったみたい。



「気が付いたか。リディシア、それとも麻衣?またはソフィアと呼ぼうか?」


 低めの大人の男性の声?腰にクるいい声だな。前世でいうイケボってやつか。誰か居る!?


 声を掛けられた事に驚いて、立ち上がって周りを見渡すと、私の居る場所から何段か上がった玉座の上に、黒の長い髪をした男性が居た。豪華な黒の椅子に座って右足を組んでいる。

 王様が座る飴色の木の光沢の黒の椅子に座る彼の瞳も黒かった。彼は黒のシャツと黒のスラックス姿で、濡れた質感の血のような赤のマントを着ている。


 その姿も服装も本の中の魔王さまによく似ている。アルと同じ位の美形さんだ。


「勝手にお邪魔してごめんなさい。今の私はリディシアで、前世は異世界の藤田麻衣だったみたいね。ソフィアという人は知らないわ。

 此処は何処なの?私はどうしてドレスを着ているの?さっきまで孤児院に居た筈なんだけど…」



 玉座に座った彼は組んでいた長い足を戻し、左手を椅子の肘置きに乗せながら頬杖をつく。


「ふむ、前世は思い出したが、その前は覚えていないのか。では私が誰かも分からないか?」


「ええ、初対面ね。前の私と会った事があるの?ごめんなさい。あなたの事を覚えていなくて…」


「会った事はある。だが今のお前ではなく、ソフィアとしてのお前だ」


「ソフィアさんは私の前・前世の私?あなたはソフィアさんと友達だった?」


「友達ではない。もっともソフィアが私をどう思っていたかは、今だに分からない。そのドレスをお前が着ているのは、彼女が着ていた物を着たお前を、私が見たくなったからだ」


 ふーん……ってハァ!?


「っ!まさか私の服を脱がして、着せ替えたりしていないよね!?」


 顔を真っ赤にして焦り気味な早口で大声で質問した。

お願いだから頷かないでよ?


「ああ。私がお前を脱がせた訳ではないから安心しろ」


 ホッとしたー!セーフ!!

 こんな格好いい人にお人形遊びの様に、着せ替えされたなんて事になったら、恥ずかしくて堪らないよ。色々な意味でね。


「私はソフィアを私のものにしたかった。私はソフィアを愛していたから。だが彼女には婚約者がいて、彼女とその男はお互いに想い合っていた。私はそれでも彼女が欲しくて、彼女を浚って私の城に連れてきた。

 数日後に彼女の婚約者が私の城に来た。男は彼女を返して欲しいと訴え、私はその要求を拒み、私達は激しく戦いあった。お互いに満身創痍になりながら私は一度は男を降した。

 ソフィアの光魔法のリミッターがその瞬間に外れた。彼女は無理をして伝説の聖女級の力を使い、男の傷は癒えて男は勇者として覚醒した。私は男の剣に倒れ、死ぬ直前に魔法を掛けた」


「それってあの本の内容と同じ。あれは実際にあった事なの?」


「実際の出来事を物語にするのはよくある事だ。絵本の形で事実を記し、自分達が死んだ後の後世の子孫に向けて、私の最後の魔法を警戒させる為に記録を残した。

 お前の前世の中の言葉にもあっただろう?事実は小説より奇なりとな」


「……それで…私とあなたは何故ここにいるの?此処はあなたのお城?」


「私がお前の意識を此処に呼んだからだ」


 !!?


「どういう事?」


「私が死ぬ前に最後の力である魔法を掛けた。私の開発したオリジナル魔法だ。ソフィアの魂に私の半分の魂を付けた。意識や自我は別々だから安心しろ。

 ここはお前の深層意識の中だ。私が存在し易い様に私の城の内装に変えたり、多少弄らせて貰ったがな」


 聞き捨てない事を聞いた気がするが、まだまだ話は続いている。


「前世の記憶をお前が思い出したという事は、もしかしたらソフィアの記憶も思い出したのではないかと思ってな。確認の為にお前を此処に呼んだ。もしも彼女の記憶も思い出していたら、私は彼女ともう一度話しをしてみたかった。

 今のお前はリディシアであってソフィアではない。しかし私の愛した魂には変わりない。私はあのまま死んで転生し、同じ様に転生したソフィアではない誰かと結ばれるより、ソフィアの魂とずっと一緒に居て彼女を守りたかった。私が愛していたのはあのソフィアだけだ」


 あら、ドキッしちゃった。凄く一途だなー。今世の私は恋のお話が大好き。血の繋がった家族以外では、アルとしか親密に話した事がないし、今世の初の恋愛話の相手が元魔王様だなんてある意味凄いな。


「私の半分の魂が擦りきって消えるまで、寿命以外で代々のお前達が死ぬのを防いできた。

 ソフィアの時は、無理矢理光魔法のリミッターを外した事で、自らの生命力を魔力に変えて、その魔力により男が勇者に覚醒した後、彼女は死にそうになっていた。彼女が本来の寿命で死ぬまで、私の魔力と魂の力を消費して、彼女の生涯に寄り添った」


 それってソフィアさんは凄く助かってるけど、長期に渡るストーカーでは?世代を越えた全部の出来事がこの人に筒抜けかー。複雑な気持ちで彼の話に耳を傾ける。


「前世のお前は元々若くして死ぬ運命だった。私はお前が死ぬ日に、お前が深い眠りについた後、それまで抑えていた症状を解放した。お前が苦しんで死なない様に、私が止めていた脳血管出血により、前世のお前は安らかに死んだ。仕事帰りに転んで頭を打ち、打ち所が悪かったお前は死ぬ運命だった。

 お前が前世を思い出したにも関わらず、自分の死を覚えていないのは、私がお前に痛い思いをさせたくなかったせいだ」


「ありがとうございます。嬉しいのに複雑な気持ちです」


「そして今世のお前だが、お前の光属性の魔力量は多く持っている。だが前・前世のリミッターが外れて死にかけた事が、お前の魂の根元にトラウマレベルで根付いており、強固な鍵が二つかかっている。

 二つとも取り外すにはリミッターを外すしかない。リミッターを外すのは、元々の魔力量を越えた大きな魔法を使う時だろう。お前は魔力枯渇を生命力で補おうとして確実に死ぬ。私の残りの魂の力では防げないからな。二つの鍵は開けない方が懸命だ。

 一つの鍵だけを開ければ、大きな魔力を持つ事が可能だが、大きな魔力を使用する事に魂が怯えている以上、鍵が開く可能性は極めてゼロに近い。

 その為お前がいくら魔法を使おうが、お前が視認できる数値は一生増えない。実際には魔力の上限は増えている。しかし魂が許可した魔力の使用量は少ない。その代わり魔力の上限が大きいから、魔力の回復時間は常人より早い。魔力に余裕があるのに、即座に魔力が貯まらないのは、さっき言ったトラウマのせいだ」


「私は魔力が多かったの!!?」


 びっくりだよ!!?なんだその魂さん=親に小遣いをもらう子供のような制度は。

 親のお給料がどれだけ上がっても、一回の子供の貰うお小遣いは変わらない。ずっとその額のまま固定されている。でもお小遣いをもらう頻度は、他の家の子より少し早い。魔力枯渇が本当に魂のトラウマになっている。



「お前の父はオランジェ王国の公爵家出身だろう。お前の父にもお前にも、隣国の王族に連なる血が流れている。ソフィアの実家はオランジェ王国だ。

 ソフィアの兄の子孫が今のオランジェ王国の国王になる。王弟は公爵家の娘と政略結婚した。これが絶縁したお前の祖父にあたる人物だな」


「色々詰め込まれて混乱してるよ」


「お前の魔法適正に闇属性があるだろう。それが私の魂の大きさだ。ソフィアの魂を救う為にほとんどの力を使ってしまったから、今の私には大それた事は出来ない。今世か来世で私は消えるだろう」


「そんな消えちゃうなんて!?……じゃあもしも万が一私が闇魔法を使ったら、あなたは死んじゃうって事?」


 元々一生使うつもりはないけど、念の為聞いておこう。


「それは大丈夫だ。魂の力を引き出せるのは私の意思だけだ。闇属性魔法はおまけみたいなものだな。なんならいじめッ子達に使っても構わんぞ」


「大丈夫なんだ。良かったけど、使わないから!?」


 止めて欲しい切実に。


「ちなみに気にならないか?」


「何が?」


「私がお前に付けたのは魂の半分だ。もう半分は何処にあるのか」


「あ!」


「思い出したか。勇者だった男に私の魂の半分を付けた」


「え?恋敵だったのに?」


「うむ、あいつにも魂を付けたのは、ソフィアを本当に幸せにするか見届ける為だ。もしも浮気したりソフィアを捨てたら、呪い殺すつもりだったが、あいつの心にはソフィアしか生涯住む事はなかった。

 あいつの最期には私もあいつの事を認めた。あいつが無茶したり万が一早死にしたら、ソフィアが悲しむから本来の寿命よりも少し長生きさせてやった。ソフィアを見送らせてから、私の魂の力の解放を止めて死んだ。

 ソフィアよりも早く死んで、ソフィアを嘆き悲しませる事は私が許さん!!!ソフィアを幸せにしてくれた事に対する、私なりのライバルへの礼だ。最期は眠る様に安らかに逝った」


 最後は恋のライバルを認めるなんて素敵。それにしてもソフィアさんを守れるか見届ける為とはいえ、ライバルにも世代を越えて、自分が消えるまで手を貸すなんて、なかなか出来る事ではないよ。

 やってる事は粘着質な世代を越えたストーカーでもあるんだけどね。なんかソフィアさんに恋する男ではなく、娘を溺愛するお父さんに見えてきた。ヤンデレ気質で過保護な父親みたい。



「次にあいつが生まれ変わったのは、お前と同じ異世界だった。女でお前よりも若くして死んだ。産まれつき心臓が弱かったからだ。私は感じる痛みが和らぐように、魂の力を使った。最期は家族に感謝して、家族に見守られて安らかに死んだ」


「そっか……」



「そしてまた生まれ変わった。今世の勇者の魂は、またこの世界に流れついた。前・前世と同じく、アスール王家の自分の子孫としてな。つまりソフィアと勇者の子孫。私もソフィアの血が流れる子なら、今世のあいつには少しサービスしてやろうと思った。

 今の国王は第ニ王子が就いた。当時は第一王子で王太子だった男が父親。まだ学生だった頃に、婚約者の公爵家の女に結婚前に手を出した。そして産まれたのが、お前の幼なじみのアルフォンスだ」


「えぇっ!!!アルは本当にこの国の王子様だったの?もしかして昔、王子様になりたがってたのって……。アルはエスパーなの!?」



「………ここまで鈍いとは、前世の記憶の影響もあるとはいえ、今世のアイツには同情する」


 ?


「どういう意味?」


 両目を瞑って深いため息を吐かれた。疲れた様に両目を開けて両手を組んでる。なんだか呆れてないか?私が何か間違った事を言った?



「……続けるぞ。結婚前に子供が出来たとはいえ、そのまま結婚すれば良かったのだが、手柄をたてて平民から一代限りの貴族になった男爵家の女に惚れて、そちらと結婚したいと当時の王に言った。

 当然男爵家の女は、平民の知識やマナーのままだ。王妃が勤まる訳がない。第一王子は一代限りの男爵家に婿入りした」


 え?じゃあアルのお母さんはどうなっちゃったの?


「公爵家の女は王子に捨てられた時には、既に腹に子供がいた。堕胎できる時期を過ぎていたので出産したが、赤子が第一王子にそっくりな事に気付く。

 子は愛しいが、王子を憎む気持ちもあり、王子似の子供に憤りをぶつけて、虐待してしまうかもしれない。もしかしたら殺してしまうかもしれない。

 思い悩む女に公爵家の父は、その子を手放す様に説得し、泣く泣く赤ん坊を籠に入れて孤児院に預けた。引き取られるまでは側で見届けていた。

 その公爵家の女を伯爵家の男が気にかけていた。今はそいつの家に嫁にいき、子供も出来て幸せに暮らしている。何回か遠目からアルフォンスを見に来ていた」


「みんなが幸せになれて良かったけど、全員にとても複雑な気持ちになるよ。……そっかぁ…アル…」



 元公爵家の女性が、アルのお母さんだった。そして今は伯爵家で夫との子供が出来た。


 きっとその子は、お母さんに愛されているんだよね。当たり前のように抱きしめられて、キスを受けて頭を撫でられ、大切に愛されているのだろう。


 ………アルもその人の子供なのに…どうして…。


 ……………本当は分かってるよ。アルのお母さんも苦渋の決断で、泣く泣くアルを手放したんだって。

 行き場のない気持ちに、叫び出してしまいたい。アルを想って涙が溢れる。私がアルをお腹に入れて、もう一度産み直してあげたかった。


 私がアルのお母さんだったら、沢山好きを毎日アルに降らせるのに。初めて会った時にアルが見せた、寂しそうに傷ついた顔なんてさせずに、ぎゅうっと抱きしめるのに…。


 アルがその人の事をお母さんだと一生気付かなければいいのにと思う気持ちと、両親の事を知りたがっていたアルにいつかは知って欲しい気持ちがせめぎ合う。



「お前にはアルフォンスがいるだろう。アルフォンスにもお前しかいない。お互いがお互いを支えあい、今世でも幸せになれ」


「魔王さん…」


「メアだ」


「メアさん色々ありがとう。私とアルをずっと守ってくれて、本当にありがとうございます。アルの分もお礼申し上げます。本当に、本当にありがとうございます!!」


 泣きながらメアさんに頭を下げる。頭をゆっくりとあげる。



「……私はメアさん自身にも幸せになって欲しい!メアさんは私とアルから解放されなくて、本当にいいの?今からでも人として、自分の人生を取り戻して欲しいよ。

 本当にありがたいけど、メアさんに申し訳ないもの。少ししかないけど私の魔力も使って欲しい。メアさんの生命力に少しでも還元出来ないかな?」


 組んでいた両手を肘置きに預けた後、メアさんはふわっと優しく微笑んでくれた。綺麗過ぎて思わず固まってしまう。


「お前達と過ごす様になって、私は歴代のお前達をソフィアとは違う形で愛していた事に気付いた。私には今のお前達が自分の子供や孫に思える。私はお前達の魂の側に居たい。お前達の力になれる事が誇らしくて堪らないんだ。お前達の幸せが私の幸せだ。

 私の魂が消えるその時まで、お前達に寄り添い続ける事が、王として生きていた頃より充実し、この時間が続く今が一番幸せだ」


「メアさん…ありがとう」


 私にお祖父さんがいたらこんな感じなのかな?ずいぶん若くて格好いいおじいちゃんだけど。自分の全てで私たちを守ってくれてるなんて格好良すぎだよ。



『リディ』



 アルの私を呼ぶ声!?

 空間一杯にぼやけるように広がった。


 メアさんは私を見ながら、椅子の上の肘置きで右手の肘をつき、更に右手の人差し指は部屋の上を指す。


「そろそろ起きる時間だ。深層意識で私と会った事や話した内容は、お前が起きた時には全て失われている。お前が覚えているのは、前世の記憶を思い出した事だけだ。

 そろそろあの泣き虫に会いに行ってやれ。私はいつでもお前達を見守っているぞ」


 部屋の中に光が満ち溢れて、白い光の眩しさに目を瞑る。優しく微笑むメアさんの姿を瞼の裏に感じながら、私は白の光に包まれた。



「リディ」


 目覚めて視界に飛び込んできたのはアルの泣き顔。青空色の瞳から落ちる涙は、つきることがない。アルは私の寝ているベッド横で、イスに座って私の左手を握っていた。


「…アル…何で泣いてるの?誰かに虐められたの?リディが守ってあげるから泣かないで」


 半分寝呆けながらも私は立ち上がって、ベッド横の椅子に座るアルを抱きしめる。冷たく震える身体に、私の熱を移す様にぎゅっと腕に閉じ込める。


 アル…どうしたの?何でこんなに怯えてるの?



「リディ、リディ、リディ」


 アルは立ち上がって、私をぎゅうぎゅう抱き締めた。まるで私の無事を確かめてるみたい。私の右肩がどんどん冷たくなっていく。私はアルを安心させたくて彼の背中を優しく撫でる。



「大丈夫だよ、アル、大丈夫」



「…リディが倒れて、丸一日…リディは目覚めなかった」


 アルを安心させるように優しく抱き締める。そっか心配かけさせたな。


「うん」


「医者に来て貰ったけど、倒れた原因は分からなかった。睡眠不足か貧血が原因じゃないかって」


「そっか」


 まぁそうだろうな。前世の記憶を思い出したからなんて、分からないわな。


「原因をもっと詳しく探る為には、診て貰った医者よりも、もっと高位の医者に診て貰わないといけない。でもシスター達はそこまでの医者に診て貰うお金は、国から支給されているお金では賄えないって言われて…」


 彼を抱き締める事しか出来ない自分が、酷くちっぽけに感じる。アスール王国がいくら恵まれているとはいえ、無尽蔵にお金がある訳じゃないからね。孤児ではなく平民の立場でも難しい。

 私みたいに前世の記憶を思い出して、脳への知識の奔流によるオーバーヒートとか、天然記念物並みに珍しいと思うもの。


「リディはまだ意識が戻ってないのに、孤児にこれ以上の事は何も出来ないって言うんだ。高位の医者に診て貰うのは莫大なお金がかかるから無理だって、目覚めなければリディの事は諦めろと諭された。リディが目覚めてもまた意識を失うかもしれない。

 俺はリディを助けたくて、必死に習った光魔法をかけ続けたけど、リディは目を覚まさなかった」


 アルが顔を傾けた右肩が、どんどん冷たくなっていく。声が震えて涙声になって、いつもは冷静で涼しげな顔をしているのに。今はとても辛そうな顔をしていのを見えなくても感じる。


「ずっとここにいて、リディに魔法をかけていたかったけど、神父様達が後を引き継ぐから休めと言われて、眠れずに様子を見に来たら睡眠薬を渡された。無理矢理休んで魔力を回復させたよ。

 光魔法をかけても意識が戻らなくて、変わらない状況が、リディがもう目を覚まさないかもしれない事が、恐くて、悲しくて、堪らなかった…」


 ああ…ずっと私を心配してくれていたんだね。私が目を覚まさない間、張り裂けそうな気持ちでいてくれたんだ。


「アル、私は意識を取り戻してアルの腕の中にいる。きっとアルが光魔法をかけ続けてくれたから、目覚める事が出来たんだよ。

 私を助けてくれて本当にありがとう。アルも神父様も尽力してくれて感謝してる。命の恩人だよ。だから泣かないで、私は大丈夫だから」


「大丈夫じゃないよ!!?リディに何かあったら僕はどうしたらいいんだ!君を失うのが……恐いんだ」


 最初は怒った様に怒鳴られ、最後は消えていくかの様な声音になる。告げられるアルの気持ちに堪えていた涙が止まらない。


「アル…アルごめんね…心配かけてごめんね。でもね、アルは助けてくれたよ。ずっと声をかけてくれてたでしょう?魔法もずっと使ってくれてたんだよね?

 だから私はここに帰ってこれたんだと思う。大丈夫だよ。私はアルがいてくれれば大丈夫」


「リディ、リディ、リディ、リディ。お願いだから俺をおいていかないで。リディとずっと一緒にいたい。

 俺は強くなるから!君を守れる位強くなるから!だからリディには、君自身を守っていて欲しい」


 私達は痛い位の強さで、ただお互いを抱き締めた。いつもはアルに抱きしめられるとホッとするのに、今は激しく心臓が鼓動をたて、色々な感情が溢れる。


 大好き。


 アルが大好き。


 どうか神様。


 アルと、ずっと、ずーっと一緒に居られますように。




 初めてだった…。



 私の為に泣いてくれる人は。


 私を心配して泣いてくれた。


 私の為に強くなると言ってくれた人はあなただけ。



 あなたは私の居場所。


 あなたは私の世界の全て。


 あなたの隣にずっと一緒に居たい。


 あなたが笑うと私も笑う。


 あなたが悲しいと私も悲しい。


 ねぇ?この感情は何?



 初めて感じるこの感情の名前を誰か教えて欲しい…。




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