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孤児院での日々と王子な兄




 みなさま、こんにちは。孤児のリディシアです。両親が私が三才の頃に亡くなってから、早いものでもう四年の月日がたちました。


 パパ、ママ、娘と息子は元気に頑張ってるよ。私は七歳、アルは九歳になった。お星さまになったリディのパパもママも、リディとアルのことを見守ってくれているから、リディはいつまでもクヨクヨしていられません。



 春の暖かな日差しを浴び、頬に当たる風は冷たくても、私は頑張って生きています。素敵なレディになるべく、孤児院の畑を耕して、野菜の種を埋めるために、まずはこの鍬で立派な畝を作らなければいけません。



 立派なレディになる為には、畑仕事も力仕事も嫌がってはいけないのです。でも虫はいまだに苦手です。しかし!畑仕事も孤児院の子供に割り当てられた立派なお仕事なのですから、私は立派にこなしてみせます!



 さて、クワを振り下ろしますか。七歳にはまだ重たい鍬を両手でなんとか上に振り上げて、いざ土に向けて鍬を降り下ろします。


 ガッという擬音がつきそうな勢いで、振り下ろそうとした鍬の動きが止まる。鍬の手で持つ木の上部を、私の背後に立つアルに掴まれて止められました。

 何故私はレディへの修行を止められたのでしょうか。思わずアルに不服な顔を向けます。



「この鍬は重たいから、リディにはまだ早いよ?可愛いリディが怪我したらと思うと、僕はとても心配になるから、僕の為にも耕す作業は止めて欲しいな。

 僕が畝を作っていくから、リディはジャガイモの…うん、それが切ってあるジャガイモの種芋だよ。やっぱりリディは賢いね。

 できた畦にスコップで穴を掘って、種芋を一つずつ埋め込んでみて、芽の部分は上向きにして穴に埋め込んだ後は、優しくしっかりと土をかけてあげてね。ある程度間隔をあけて、ジャガイモを植えていこうか。

 他の全員が種を植え終えたら、最後に一気に水をかけるから、植えるだけでいいよ。リディなら簡単に出来るよね?」


「………はーい、アル」



 お気付きだろうか?誰だよお前は!?そう思われた方もいるかもしれない。でもこの方は私の家族で、お兄ちゃんのアルフォンス君(九歳)です。

 ある日いきなり「王子さまに!俺はなる!」とか言いだして、最初はなんか言い出したぞ!?と思って、放置してたら、なんということでしょう。下町言葉のアルから、王子さま言葉の甘々アルに変身したではありませんか。


 いやぁ、みんなも最初はいきなり性格が変わったアルに、かなーり恐怖したみたいだけど、四年間ずっとこうだから、みんなもこのアルに慣れたみたい。私もキラキラ甘々なアルに、最初はかなりビックリしたけど、もうずっとこんな感じだからいい加減慣れた。


 アルと初対面の時は、私がアルに抱きついただけで、体をガチガチにさせてたのに、いまじゃ隙あらば私を抱っこしたり、優しく抱き締めたり、お膝に抱っこしたがり、更に甘く微笑んで頬にキスして、私に可愛いだの言ってくるんだよね。

 全く妹の私にリップサービスしてどうするんだろう?そういう言葉は、好きな人に言うもんだよ。

 まぁ、可愛いといわれるのは素直に嬉しいけど。妹が出来たのが嬉しかったのか、今日もアルは私のいいお兄ちゃんだ。


 

孤児院の女の子はアルとはかなり年が離れてるからか、アルの王子さまな姿を生温かい目で見てるけど、最近町に引っ越してきた近所の四つ子姉妹のリサ達四人全員、アルの私に対する態度を見て、赤くなってポヤーとアルに見惚れてた。


 アルは美形で態度も王子さまだからな。ふふん、私の兄はモテモテね。リサ達は四人ともアルと同い年だし、みんな美人でアルのお嫁さん候補になるかも?

 そうなったら、夫婦で可愛がってもらおう。兄よ…妹の為にも、リップサービスはあっちにやっておくれ。



 ちなみに私はアル以外の孤児や町の子供達に、女性・男性を問わずに何故か避けられている。三才で孤児院入りして、もう四年たつのに、アル以外の親しい人がなかなかできない。家族(アル)以外の親しい人が誰もいないのだ。

 何か分からないけど、私を見るとみんな目を反らしたり、近づこうとすると席を立たれる。


 私が何かした?


 何もしてないつもりだけど、知らないうちに何かしちゃったのなら、謝りたいのに距離を詰めせてもくれない。


 アルに相談したら、リディには僕がいるから大丈夫だよと言われて慰められる。やっぱり私もまだ子供だから、寂しくて泣いてアルには大分迷惑かけてると思う。

一旦泣き出すと、アルのお膝抱っこからなかなか降りない。


 この四年間、私もみんなと仲良くしようと頑張ってるけど、一向に変わらない現状が悲しくて、アルに抱きついてベタベタ甘えて慰められる機会が、昔よりも増えたかもしれない。

 泣いてる時とか後とか、寂しくなるとお前誰だよ!?って感じの私になってしまうのを止められない。


 昔は自分の事をリディって言ってたけど、今は一人称は“私”に変えたよ。孤児のかなり年下の子も増えてお姉ちゃんになるし、しっかりしないといけない。


 でも泣いて甘えたモードのスイッチが入ると、もうダメ。昔の私に戻って思ってる事とか、甘えたい気持ちとか、逆にアルを甘やかしたくなる気持ちになって、一人称がリディになって……、後から思い出して「ウッギャーー」とベッドを何回転げ回った事やら分からない。



 自分の事ながらあれはダメだ。ぶりっ子みたいで、媚びてるみたいで、ダメダメだ。

 アルの優しさにぶら下がってるのは良くないって分かってても、我慢が限界を超えるとまたスイッチが入って、アルに甘えまくってしまうの繰り返しなんだよね。

三才からもう四年もたつのに、人間関係だけは努力してるのにうまくいかない。


 大人の人には嫌われていなくて良かった。他の孤児と同様の扱いをされてる。


 将来出会う私の王子さまに、アルとの近すぎる距離で誤解されないように、兄と妹の距離感を保とうとするけど、やっぱり寂しくなるとアルに甘えてしまう。


 あのぶりっ子甘えたベタベタモードの私も含め、よくもまぁ嫌がらずに、私に四年間も付き合ってくれてるよ。本当にもう感謝しかないよ。

 泣きながらアルゥって抱きついても、嫌がるどころかニコニコ輝く笑顔になって、あんまり私のグズリと甘えが酷い時とかは、なんと私のほっぺにキスまでしてくれる。


 なんなの?私の兄は完璧超人なの?普通の九歳児ならこうじゃないよ!?七歳の妹の為に、自分の時間をほぼ妹の世話に潰されて、孤児達や町の友達ともなかなか遊べなくて、ずっと私に付きっきりで一緒にいてくれる。面倒見のいい優しいお兄ちゃんだ。


 面倒くさい・ウザイ・迷惑・甘えんなとか、一度でも言ってくれたら、私も大人に相談したり、一人で寂しさに耐えるのに。


 リディなら僕にいくらでも甘えていいんだよ?とか、可愛いなぁリディは世界で一番可愛いとか、泣きたくなったらいつでも僕の所に来ていいんだよ?とか、僕はリディに会うために産まれてきたのかもしれないとか、いつも僕の側にいればリディを守ってあげるからとか、ほら泣かないで?泣いてる顔も可愛いから僕以外の所で泣いちゃダメだよとかが、この四年間でアルに言われてきた言葉達だ。

 こんな事を言われて優しくされたら、そりゃあ兄大好き人間になるよ!


 兄の王子さまぶりが凄すぎて、未来の私だけの王子さまが霞んでしまうかもしれない件についても、もう手遅れかもしれないな。




「皆さん、よく頑張りましたね。今日用意した種は全部埋め終わりました。水ももうすぐ撒き終わるので、使った用具や軍手等を回収します。あと十五分でお昼ごはんなので、焦らず手早く片付けましょう」


「じゃあ行こうかリディ、手を洗っておいで、これは僕が片付けておくから、洗い終わったら、いつもの靴に履き替えて土のついた長靴は僕に渡してね」


私の軍手と種芋の入っていたバケツも、穴を掘るのに使ったスコップも全てアルに持たれてしまう。


「それじゃあアルの負担が大きくなるから、私も一緒に片付けするよ」


「大丈夫だよ。リディには刃物で手を傷つけてほしくないからね。代わりに僕の靴も持ってきてくれると助かる」


 優しく目を細めるアルは本当に王子さまみたい。私もお手伝いしたいけど譲る気はなさそう。


「うー、分かった。ありがとう、アル」


「こちらこそ」


 甘い笑顔でそう言われる。



 お昼ご飯のあとはお勉強をする。アスール王国は恵まれているとはいえ、学がないものは出来る仕事も限られてしまうから、孤児とはいえしっかりした知識をつけられるように、アスール王国の法律で子供達の権利は保証されている。


 やる気さえがあれば、貴族しか通えない高等大学部に匹敵する知識を身に付けることも可能だ。私達は途中で里親に引き取られない限り、最高の知識と技能を学べる場所に居ると言っても過言ではない。

 四十代の焦げ茶の髪と瞳をした、優しげで紳士な神父さまや、おっとりしたシスター達は、実はハイスペック軍団なのだ。



 私も日々勉強も運動もお掃除も、ほどほどに頑張っています。私の勉強の進み方は普通の速度だけど、毎回テストでは八十点以上取ってるから、知識を自分のものには出来てると思う。


 アル?うーん、凄い頑張ってるよ。九歳なのにもうすぐ初等部の内容が終わりそうな勢い、いつもテストが九十五点以上なんだよ。

 運動も剣も武道も、神父さまが開く教室で、町の子供と混じって習っているみたいだし、彼は何を目指しているのか、ハイスペックな兄の考えはよく分からない。



―――



 その年の誕生日で七歳になる子を対象に、町の子供や孤児達の魔力量と属性検査が、礼拝堂の奥にある小部屋で囲まれた真実の泉で行われた。

 貴族の子供は各家ごとに個人で訪れて、町の子供達とは別の日に見てもらうんだって、貴族の子供は町の子供達に珍しがられて、囲まれてしまった事が過去にあったらしい。


 属性や魔力量により、泉が適正の色と魔力の強さを示す強さで光輝く。子供は一人ずつ入室し、泉の色と魔力量を神父さまが子供に示す。神職に就いた者には、泉の放つ光によって、魔法の数値と属性が分かるらしい。

 分厚い扉に阻まれて、部屋の中の様子は誰にも分からない。



 平民は魔力が少ない子が多い。王族や貴族は魔力が多い。私も光と闇属性の適正があったけど、魔力は光(少ない)、闇(極少量)な結果に終わった。


 魔力が少なくても使える魔法はあるから、七歳からは魔法の授業も受ける。魔力を持たない子も、魔力を持つ者から身を守るために、知識として覚える必要がある。


 実習の時は、光魔法と風魔法の合わせた秘されるベールを各個人にかけて、自分のスペース以外の事は見えなくなる。周りには中の様子は見えないし、聞こえない。

自分の回りを白い光る立方体の箱で包まれた感じ?でも優しい雰囲気を感じるから、狭小恐怖症でもない限り怖くないよ。

 魔力の有無に関係なく、こちらも全員参加だ。魔力がないことを悟られない為でもある。


 魔力がないものは、その時間は白のベールが外れるまで、自習の時間に当てる。一人ずつ神父さまやシスターが魔法のアドバイスをしに回っていく。おそらく魔力を持たない子にも声をかけにいく。



 アルも七歳の時にこの検査を受けたんだよね。私が五歳の時に内緒話で教えてくれた。魔力がとても多かったらしいけど、属性は光と水を持ってると教えてくれた。

 私に少しでも話してくれて嬉しい。多分他の属性も持ってそうだけど、魔力や属性は信頼する人以外には話さない方がいいのだ。


 検査をする人にも厳しい守秘義務が課せられる。その為、神職に付く人しか属性を調べる事を許されていない。


 属性や魔力量によって、人との軋轢や無用なトラブルを生ませない為の処置だ。

 昔は測定時に発表してたらしいが、魔力の持たない子が虐められて殺されたり、自殺する事件が起きた。魔力が多い子は、誘拐や人身売買に巻き込まれて、買われた国で兵士や魔導師として戦争に駆り出されたり、奴隷に落とされたり、子供が不幸な目に合う事件が続発した。


 魔法属性で闇を持つ者にも厳しい目を向けられ、周囲から迫害されたり、無実の罪で誰かに貶められたりする事件があり、こちらも秘される事となった。闇属性魔法は呪いや毒などで、相手に気づかれずに密かに攻撃出来るからだ。


 回復術師(医者)・神職・魔導師・魔法剣士・魔導銃部隊など、将来着く職業によっては周りにバレたりするけど、そういう人はきちんと王国で身分を保護され、なおかつ自分で自分を守る強さを持つ。

 これらの職業に就くと、家族ごと国に手厚く保護される。高給取りな彼らは、異性から熱いラブコールを受けるらしい。



―――――――



 そういえば今日はあの日だった。


 前の休日にお昼休みで一人でいた時に、リサ達四人から、女同士で仲良くなりたいから、お話しましょうって誘われたんだった。


 嬉しくてアルに報告したら、凄く苦い顔をしてたけど良かったねって言ってくれた。やっと私にも、アル以外のお友だちが出来るかもしれない。


 今日の夕方に会う約束をしたんだ。十六時半に待ち合わせて、十七時には夕御飯だから、間に合うように十六時四十五分には、孤児院に帰らないといけない。十五分だけかぁ……短い時間だけど楽しみだなぁ。

 リサ達は学校で初等部に通っているから、体が空くのは夕方になる。アルには会う時間は内緒だと言うから秘密にしてるけど、何でなのか分からないな。


 あー楽しみ!早く夕方になればいいなぁ。


 私に友達ができない事で、アルにも心配かけて最近更に過保護になった気がするし、気を揉ませて申し訳ないなって思ってるんだよね。


 だって私がアルをほぼ独占している状態で、アルは優しいお兄ちゃんだから、一人でいる私を大多数の仲間よりも優先して、私の隣で手を繋いでいつも一緒にいてくれる。

 本当に優しくて面倒見のいい兄を持った。私にアル以外の友達ができたら、きっとアルもとても喜んでくれるよね。




次の話は最初から痛い表現がでてきますので、ご注意ください。

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