第2話 旅立ちです
遅れました、3話目です
そうして毎日を過ごし、3年の月日が経った
今日は俺らの旅立ちの日だ
あれから3年、俺は必死に修行した
剣や魔法も血反吐を吐くんじゃないかってくらい練習した
こんなに努力したのは前の人生含めて初めてなんじゃないかってくらい努力した
弓や槍など様々な武器にも挑戦した
挑戦はした、のだが........その結果特になにも得られなかった
まぁ剣はそこそこ使えるようにはなったのでそこは勘弁していただきたい
そこいらのゴブリンやらには1対1ならまず負けないぐらいのレベルにはなった。因みに2対1になると危なくなり、3対1になると確実に負ける、殺される
結果的にメインの武器は剣ではなくダガーになった
正面から敵と戦うことはせず
機動力を確保しつつコソコソ隠れ、敵を一体づつ仕留める
そんなやり方に落ち着いてしまった
主人公っぽくないからそのうち絶対に剣は使えるようにする、絶対だ
あと魔法もだ、きっとそのうち大賢者の師匠とかができて俺に魔法を教えてくれるはずだ
絶対に魔法も使いたい
「ねぇミラル........あんた本当に旅立つの?」
そんなことを思ってるとレターナが珍しく心配そうに俺に話しかけてくる
「当たり前だろ、村のしきたりなんだから従うさ。確かに戦闘は苦手だけど戦いだけがこの旅の目的じゃないからな」
そう、この旅での目的はなにか勲章などを掲げて帰ってくることではない
要は見聞を広めるためとか社会勉強とかそんな感じなのだ
旅の間になにか功績を上げなければいけないみたいなことは特に言われてはいない
つまり最悪その辺の村で適当にバイトして数年後とかに帰ってきてもいいのだ
いや、流石にしないけど
「それとも何か?心配だからあんたについていってあげるわ、みたいな展開にでもしてくれるのか?」
仮にも幼馴染だ、こいつは間違いなくジャンに惚れているがもしかしたら同情でついてきてくれるかもしれない
そんな期待を込めて言ったが
「はっ、あり得ないわね!私は魔法を学びにブーンクリスト魔法学校へ行くのよ!あんたなんかに構ってる暇はないわ!」
レターナは俺のお誘いを一蹴する
小さい頃から魔法が得意だったレターナはブーンクリストという国にある魔法学校を目指す、と昔から言っていた
ブーンクリストは非常に魔法学などが発展している国で様々な研究などが行われている
その為自分の才能を伸ばしたいレターナにはピッタリな旅先ということになる
「どちらにせよ僕らは自分の力で旅しなきゃいけないからついて行くとかそういうのはナシなんだけどね.......」
「釣れない事いうなよジャン......別にお前が一緒に来てくれても良いんだぜ?」
「だからそういうのはダメなんだってば、悪いけど僕も王都でロイヤル・ガードを目指したいからね。悪いけどミラルには一人旅をしてもらうよ」
ジャンは苦笑いしながらも真剣なトーンで言う
ジャンは剣の腕は俺ら3人の中でもトップレベルだ
というか10歳にして村の中でも剣を持てば一番なんじゃないかってくらい強かった
魔法も人並み以上には使え得意の風属性を織り交ぜた奇抜な動きなどを交えた剣術を使ってくる
間違いなくこいつはすごい魔剣士になる、と俺の厨二センサーが物語っていた
ん?ロイヤルガードだから騎士なのかな
「というかミラルはどこに行くんだ?」
ジャンが聞いてくる
あれ、言ってなかったっけ
「俺はとりあえずイルバホルツを目指す。そこでギルドに所属して冒険者になって世界中を見て回りたいんだ」
この辺の地域だと冒険者ギルドのある一番近い街がイルバホルツだったから選んだだけで別に深い意味はない
俺はせっかく異世界で生まれ変わったのだからこのファンタジー世界を色々探索したいと考えていた
そのためには強くならなければいけない
冒険者になって経験を積んでいけば色々な場所に行けたりするだろうとざっくりとだけど将来のことを考えていた
あとファンタジーものなんだからギルドは欠かせないよね
「みんな、気をつけてね?怪我とか病気とか.........本当に気をつけて」
俺らを心配して声をかけてくるメロ姉
メロ姉には本当にお世話になった、剣も魔法もメロ姉に教わったからな
剣も魔法も結局からっきしだけど
しかし人に教えられるくらい強いメロ姉はもしかしたらすごい人なのかもしれない
「俺達、必ず生きて帰ってきます、ビックな男になって!だからメロ姉、俺の帰りをいつまでも待っててくれますか?」
メロ姉の手を両手で握りながら目を見つめ告白的な意味も込めたつもりで真剣に伝える
「う、うん.........ミーくんもレタちゃんもジャンくんもみんな無事で帰ってきてね」
あ、駄目だなこれは
絶対に意味伝わってないわ
「なぁミラル........ちょっといいかな?」
ジャンにちょいちょいと声をかけられ話を聞きに側に行く
「ミラル.......君はメロ姉と、そういう関係になりたいのかも知れないけどさ.......」
メロ姉には伝わってなかったみたいだがジャンはしっかり俺の言葉の意味が伝わってた
俺の告白の方法は間違ってなかったんだな良かった良かった
ジャンは言いにくそうに言葉を続けた
「メロ姉にはもう婚約者がいるぞ」
パキーンと何かが壊れるような音が聞こえた気がした
「大分前からずっとメロ姉には婚約者がいる。受け入れ難いかもしれないがこれは事実なんだ」
嘘だろ........じゃあ今までメロ姉が俺に優しくしてくれたりしたあの思わせぶりな行動は一体...........
「メロ姉が優しかったのは単純に僕達の指導役として接してきてただけと思う。多分ミラルの好意に気づいているだろうけど、ミラルを傷付けないために気付かないフリしてるんだと思う。だから、なんて言ったらいいか........ミラルもキッパリ諦めようよ」
そうだったのか
俺の、勘違いか.........
しかももう婚約者アリか.........
メロ姉には幸せになってもらいたいな
まぁ脇役の俺はクールに去るとしますかね
別に一人だけ舞い上がってて恥ずかしいとかそういうのでは断じてない
早速村を出て行こうとしたが両親などに引き止められる
あぁそういや挨拶まだだったな
穴があったら入りたい気分なんだから送り出してくれてもいいのに.........
そんな訳にもいかないか
「ミラル、その内いい嫁さんが必ず見つかるはずだ。だから強く生きろ」
父さんがまっすぐな視線で俺を見つめる
それに俺は言葉を返さず強く頷いた
「ミラル........あなたは余り魔法も剣も上手じゃなかったけれど、それでも自慢の息子よ。無事に帰ってきてね」
人が気にしてる事をバンバン言ってくる母さん
辛辣だなぁ、でも悪気はないんだろうな
俺は涙を隠しつつ両親に別れを告げる
「レターナも、ミラルも挨拶は済んだみたいだね。じゃあ目的は違うけどそろそろ行こうか」
ジャンが少し寂しそうな顔をして切り出す
「そうね、二人とも無事でいてね?と、特にミラルは何もできないんだから本気で気をつけてよね!」
レターナも別れの日だからか心なしか優しい
こんなツンデレみたいなのは初めてみた
「あぁ........とりあえず俺らはここでお別れだ。またいつか、必ず成長して会おうぜ。そん時はお前らびっくりさせてやるからな。あのミラルが!ってよ」
ジャン、レターナと握手を交わし両親や村の人達とも最期の別れを告げそれぞれの目的地へ向かう馬車に乗り込む
さぁ、俺たちの旅立ちはこれからだ!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
村を出てから3日ほど経った
俺の乗った馬車は順調に街道を進みイルバホルツへ向かっていた
このまま進めば2週間後にはイルバホルツに着くらしい
...............遠い!
いや新幹線とかないから時間かかるのも仕方ないんだけど遠いよ
あと馬車は揺れるからお尻が痛い
どうにかならないだろうか、せめてクッションがほしい
俺の周りには馬車の護衛として冒険者のおじさんが3人乗っていた
この3人は《白夜の獅子》という名前で普段から3人で活動してるCランクの冒険者パーティらしい
リーダーで戦士職のラルスさん、斥候兼御者のケイシェルさん、魔法使いのエスラムさんだ
ラルスさんはいかにも気難しそうなおじさんといった見た目で、片目に凄惨な傷を負っており威圧感が半端じゃない。
ただ見た目の印象とは全然違い、すごく俺のことも気にかけてくれるし冒険者になる上で覚えておいたほうがいいことなども教えてくれているいい人だ
ケイシェルさんは飄々とした感じで冗談なども時々言ってくれて一番とっつきやすい兄貴タイプだ
ただ斥候兼御者ということもあり普段は御者台に座って辺りを警戒しつつ馬を走らせていることが多いのであまり話す機会がないのが残念だ
俺の武器がナイフなら斥候とかのポジションつきやすいから色々勉強させてもらいたいんだが.........
まぁそのうちなんとかなるだろう
エスラムさんはすごく真面目な人でお兄さんタイプって感じの人だ
とんがり帽子にマントといういかにも魔法使いです!みたいな格好をしている
正直エスラムさんが一番絡みにくいのだ、悪い人ではなさそうだがイマイチ距離感が掴みにくい
「あのー........ケイシェルさん、よろしければまた斥候っていう職業について色々教えて欲しいんですけど.......」
御者台に座っているケイシェルさんに話しかける
「お、なんだ坊主。勉強熱心だな、いいぞ教えてやろ..........ちょっとまて、何かくる」
俺の方を向いてニヤッと笑った後すぐに強張った顔をするケイシェルさん
なにかって..........なに?
「おっさん!エスラム!坊主を抱えて衝撃に備えろ!なんかでかいのがくるぞ!!」
そう言ってピンと張りつめた空気を纏うケイシェルさん
俺も御者台に出してた頭を引っ込められ筋肉の塊と布の塊に抱えられる
恐らくラルスさんとエスラムさんだろう
俺がラルスさん達に抱えられた瞬間
《ドゴオオオオオオオン》
爆発でも起きたかのような地響きと共に揺れる馬車
なんだ?地震か?
揺れはすぐに収まった
「おいケイシェル!大丈夫か?何があったん....だ.......」
馬車の中から御者台の方へ顔を出したラルスさんが固まる
御者台の仕切りの布から辛うじて見えたケイシェルさんの顔は恐怖の感情一色に染まっていた
「そんな........こんな魔力は.........ありえない、こんなの伝説でしか.........」
俺の隣にいたエスラムさんもガクガク震えている
え、なに、そんなやばいの?
俺も恐る恐る御者台との仕切りの布をめくり外にいる“モノ”をみる
見た瞬間後悔した
村を旅立ったことを、初めての旅をこのルートにしたことを、馬車の中から“それ”を見てしまったことを
《グルルルルルル》
そこにはドラゴンがいた
大砲やロケットランチャーなどの現代兵器を持ち出しても決して砕けることのなさそうな頑丈な岩のような鱗
一振りするだけで人間なんて木っ端微塵にしてしまいそうな程鋭い爪
見ているだけで生命体としての格の違いを見せつけられるような獰猛な牙
童話の中でしか見たことのない
全てを破壊し尽くさんとするドラゴンが、そこにいた
何人かの方に見ていただけているようで嬉しいです
感想などもお待ちしております