VR否定もの
リハビリ中
「おい、恭平、今度発売するVR MMORPGいっしょにやらないか?」
友人である宗太郎が意味不明な言語で話しかけてきた。
「?」
「!? 何意味不明な言語で話しかけられても……みたいな顔をしてんの!?」
よくわかってるな、さすが友人。
「いや、だからVRゲームにそろそろ俺らも挑戦しようって話よ」
何を言っているのだろうか、この男は?
「今なら! なんと! 無職者が手術するのに補助金が出るんだぜ!!」
学生は無職者と言っていいのか? そんな疑問もあるがなぜ政府が無職者に対して補助金を払ってでもこの手術を受けさせたいかについてこいつは考えたことがあるのか?
それ以前にまず、手術である。
そうVRゲームをするのに欠かせない工程の最初にこの手術がある。
擬似神経ウンタラカンタラ手術という名前で政府様が大変推奨なされている。
そういうとこお前はどう考えているのよ?
「いや、別に新しい技術だから援助として補助金出してるだけじゃないの?」
これだからこのクソは……
「これだから……みたいな顔しないでくれる? お前は何がそんなに気に入らないんだ!?」
え、言葉にしないとわからないのか?
「わからないよ! そんなアホの子を見るような顔をするな!」
そうか、まだわかってなかったのか、それならはっきり言ってやろう。
「脳と首にでっかい棒を刺すのが嫌なんだよ!!」
そう、先ほどの手術とは脳と首にでっかい擬似神経ウンタラカンタラを突き刺す手術なのだ。
よく考えなくても分かると思うがゲームを繋いだ状態でも動けと脳が命令すれば身体は動く。
そんな状態でゲーム内で戦おうものならゲーム機も込みで部屋中が壊れる。
それを防ぐために、この擬似神経ウンタラカンタラを脳と首の一部に突き刺し、ゲーム中ではこちらの神経を通すように変更させるのだ。
「いや、ほらあの手術、失敗例が一件もない、超安全なものだから。脳に突き刺そうぜ!」
脳に突き刺そうぜ! ってすごい台詞だな。
こいつの脳は腐っているのだろうか。
「お前、本当にあんなインチキ情報信じたのか?」
俺はゴキブリにすらこんな目を向けないというほど冷たい目を友であった男に向けた。
「いや、まだ友ですし、それにこれからも友ですよ! いや、まあこれよりは重要じゃないけど、インチキってどういうこと?」
本当に、この男は、政府に騙されすぎだ。
「この手術の成功率が100%なのは本当だ」
「なら、何が問題なんだ?」
「手術が成功しても意識が戻ってこない、そのまま死んでしまう、障害が残る、それらの確率が10%を超えているんだ」
「は? それは失敗だろ? 成功してないじゃん!」
そう、こいつがそう思うのも当然だ。
俺だってそう思った。
「いや、そうではないんだ、それは全身麻酔の影響ということになっている」
そうこの手術、全身麻酔を使わなければいけないことを逆手にとって、失敗は全て全身麻酔の所為にしているのだ。
そのことを知らなかったのか、宗太郎が顔を青くさせている。
「ちなみに色々な統計データがあるが一例として、この手術が導入される前の確率で大体0.03%、これが死亡を含む障害が全身麻酔で残る確率だった。その確率がこの手術導入後は大体3%にまで上昇している」
「嘘だろ!? なんでそんな手術、政府が推奨してんだよ!?」
まだわかっていないのか、こいつは。
「なんで無職者に補助金を出していると思っているんだ?」
そういうと宗太郎は震え出した。
「じ、人体実験、か……」
その通り、国の力にならない税金を納めない働かないクズどもをなんとか利用するための苦肉の策だ。
「ちなみに両親が無理矢理ニート達に手術を受けさせる例も増えている。理由は当然、死んで欲しいからだ」
「そ、そんなことが可能、なのか?」
「可能だろう。前に問題になった人工甘味料だって、これ昔はどこの飲料メーカーでも使われていたんだぜ。海外ではすぐに使われなくなったのに、日本だけカロリーゼロとか低カロリーとかそんな謳い文句に唆されて、いつまでも使っていたからあんな事態を引き起こしたんだぜ」
そう、どんな影響が出るか判明してないのに飲ませ続けたのだから、それこそ、人体実験であっただろう。
「だが、それを国の人体実験だと、責められたか?」
「いや、責められてない……」
そう消費者が自分で選んで買ったものだから国は責められなかった。メーカーもだ。
今回の場合もそう。
「自分が遊びたいから受ける手術で何かあろうとも国が責任を取ることはない!」
「ひ、ひでー世の中だ……」
それだけではない。
「この擬似神経ウンタラカンタラにはさらなる問題がある」
「まだあるのかよ!?」
まだ、あるんだわ、これが。
「この手術を受けた場合、生殖行為を行えなくなる可能性がある」
「!!!?」
これには思春期真っ盛りの猿と言っても過言ではない宗太郎がこの日一番の驚きを見せていた。
「さ、猿じゃねえし!? いや、それよりどうしてそうなるんだよ!?」
そうか、こいつは知らないのか。
「この擬似神経ウンタラカンタラは元々、再犯率が高い性犯罪者に取り付けるために開発されたものだからだ」
「え? そうなの?」
「あぁ、再犯率が高いからなんとかならないかと、異常な性的興奮を覚えた、まあ要するに犯罪行為に絡むような興奮をした場合、身体が動かなくするように開発されたのがこの擬似神経ウンタラカンタラだ。作ってみたら、神経の切り替えが行えるということが多くの性犯罪者の犠牲でわかった為、開発段階にあったVRと結びついたんだ」
「それはわかったが、犯罪行為を行えなくなるだけなんだろ? 一般人には関係ないじゃん」
と思うじゃん?
「要するにロリコンの男が合法ロリの奥さんといたそうとしたとき、この男の興奮は正常と言えるのだろうか……またアブノーマルな性的趣向などいくらでもあるだろう。それらの趣向は? 正常の定義すらわからないのだから、いつ行動不能になってもおかしくないということさ」
なにやら思い浮かぶ性癖があるのか、顔が赤くなったり、青くなったりと変化している。
「って! なんでそんなに詳しいんだよ!? あれか、俺を騙そうとしているのか?!」
ついには友だった者をも疑いだしたか……
「そりゃあ詳しいに決まっている。恵に手を出そうとしやがったロリコン野郎を手術台まで送ってやったからな、この手で」
「え? 恵ちゃんってお前の妹だよな? え? え? そんなことがあったのか?」
あったんだよ。
「一時期、恵が俺にべったりだった時期があるの覚えてないか? あの辺りの出来事だ」
あー、と納得顔になる宗太郎。
「あの時か、それでそいつはどうなったんだ?」
そんなのもちろん。
「首から下が動かせないようになってるさ。殺してやりたいくらいだったが、長く苦しむならそれでいいやと思ってる」
もし普通に手術が成功していたら俺に犯罪歴が追加されたかもしれないな。
俺のことをよく知る宗太郎が青い顔をしだした。
俺の考えを本当によくわかってる。
「そ、そうか。俺、VR諦めるわ」
諦めんのかよ!? 熱くなれよ!
「いや、え? 俺を止めるためにこの話してくれたんじゃないの? なんでやらせようとするの? 俺のこと嫌いなの!?」
「うん」
「うん!?」
そのうち、VR肯定ものも書きたい。