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伝剣 -DenKen-   作者: 伊佐民 大
SA(special ability)編
6/62

口敵

陸地に案内され、後をついていった山際と海部野は部屋に書かれたネームプレートを見て驚愕した。

「『VIP』って…」

 そう言って陸地に顔を向けたのは海部野だった。陸地は平然とした顔で海部野のほうを見ると、首をかしげ「何か変なことでもあったか?」と不思議そうに言葉を返した。山際も『VIPルーム』に関しては異議を唱えたくなった。

「どうしてここなんですか」

 山際が聞くと陸地は「あぁー」と納得したように頷く。

「単純に空いてる部屋がなかったからだよ」

 そう言いながら、『VIP』とか書かれた扉のそばのタッチパネルを操作し始める。その様子を山際は不におちず聞いた。

「『VIPルーム』は本来外部からの、特に富豪たちが来たときかもしくは『第一等階級』の称号を授けられたもののみに開放される部屋です。なぜその部屋をわれわれが…」

「何でって、別にいいんじゃないのか?誰に文句を言われたわけでもないし、そもそも許可を出したのは俺なんだから。っていうかそんな基本に忠実なルールにばっかり沿っていたら頭が固くなるぞ?」

 陸地はむすっとした顔をした。陸地はまだ二十代というらしいが若々しさはまだまだある顔だった。そのとき海部野は何かを思い出したようにハッとした。

「それじゃあ私はどうなるんですか?私は『第二等階級』なんですが…」

 山際は海部野の言葉にきょとんとした。自分のさっきした質問は内心海部野のためにした質問だったからだ。しかも答えは今言ったとおりだ、と陸地のほうに顔を向けるとちょうど『VIPルーム』の扉が開いた。そこで陸地は背中越しにこう言った。

「悪いが海部野は外での待機を命じる」

 山際はその言葉に度肝を抜かれた。

「陸地、さっきと言ってる事が違うぞ」

 その反論に予期していなかったのか陸地は山際のほうを向き直り首をかしげた。

「何を言ってるんだ?君が質問したのは『こんな緊急事態に設備の整ったこんなところで談笑しても良いのか』という意味ではなかったのか」

 返答を聞いて山際はきょとんとした。

「違うよ。俺は『第一等階級』だから良いとしても、海部野は『第二等階級』。だからこの部屋の入出を許可しても良いのかってことだよ」

 陸地はその答えを聞いて、鼻を鳴らした。そして海部野のほうを向く。

「悪いがそれは遠慮してくれ。今から話すことは『第一等階級』しか知りえないことだ」

 それを聞いた瞬間、山際の体が強張った感じがした。そこまで重要なことが…、心の中にプレッシャーがかかる。海部野はその言葉を聞くと、生唾をごくりと飲み唇を噛んで悔しそうな表情を見せた。その場の空気が緊迫している。

「わかりました。私も陸地さんの意見が聞きたかったんですが、そういうことなら仕方ないですよね」

 海部野は頷いて二人に背中を向けると、「武、なんか教えれることあったら後で聞かせてね。それから、陸地さんに精神的に押されたら駄目だよ」去り際にそう言った。あいつは俺を何だと思ってるんだ、山際は心の中で呟いた。海部野が去るのを見届けると陸地は「どうぞ」と促して『VIPルーム』に入っていった。


 山際が『第一等階級』の称号を与えられたのはつい先日のことである。突然の任命に最初は戸惑ったが、チームを持つことの責任を自覚し始めてからは、いつもどおりに与えられた任務を遂行していた。そんな順調な日々を送っていたある日、山際は失態を犯した。スカウトしてきたまだ青い少年を森の中の危険地帯へ置いてきてしまったのである。基地へつくまでは必死だったので気づかなかったが、基地へ不時着してからの後悔はすさまじいものだった。その後悔は『VIPルーム』へ案内された今でも引きずっている。何か違う感情が沸き起こっても、気づけば後悔した感情に戻っているのは自分でも自覚できるほどだった。『VIPルーム』の席に腰を下ろしてからずっと俯いたままの状態だった山際に、嫌気がさし始めた陸地はため息を一つつく。

「お前には一つ、話しておかないといけないことがある」

 陸地の発言に、山際が耳を貸そうとはしていなかった。それでも陸地は続ける。

「風神俊の事についてだ」

 その名前に山際は少し反応したようだった。

「知っていると思うが、お前のスカウトした子の名前だ」

 そういうと、今までたち続けていた陸地も近くにあった椅子に腰を下ろす。椅子はオートモードになっているので人が軽く触れると、座れるようなスペースを自動で作ってくれる。

「俺は一つ、陸地に謝らなければならない」

「何ですか」 

 陸地の切り出しにくそうな態度に山際は疑念を覚え、相槌を打つ。すると陸地は両手をテーブルにドンとつき頭を下げる。山際は何事かという困惑した表情になった。

「な、何ですか急に」

 陸地はその言葉に耳も貸さず、「利用してすまなかった」というと顔を上げた。その表情はいつもの頑なな部分は残しつつも少し暗いといった感じである。山際は陸地の謝罪発言に耳を疑った。

「利用してって…、どういうことですか」

 もっともな疑念に陸地は部屋の天井を仰ぐ。『VIPルーム』なので天井もシャンデリアがついていて豪華使用である。だが少し明るすぎる。自分には合わないものだ、と山際は感じた。

「君が風神君をこの基地に連れてきたこと自体が私の目論見どおりだったということだ」

「じゃああなたは、最初から風神を狙っていたという事ですか」

「そういうことだ」

 陸地の即答振りを見て山際は不信感を抱いた。

「どうして」

 その言葉を聞くと、陸地は席を立ち壁際に備え付けられたタッチパネルを操作し始める。

「それより君に質問したいんだが、能力はいつ覚醒すると思う?」

 陸地の突然の話題転換に山際は焦った。

「何だよ急に」

「いいから質問に答えてくれ。君と俺の仲だ、談笑しながらなぞを解き明かしていくのも悪くないだろ?」

 俺たちの仲なんて同期って事ぐらいだろ、そう思いながらため息をついた。

「能力の覚醒は、人によって個人差がある。体のつくりが違ったりするからな。だからいつ覚醒するかと聞かれれば、正直言って見当がつかない。でも大体は、学生時代の思春期がもっとも盛んだとは言われている。まぁ最近は2,3個能力を持ち合わせるやつもいるみたいだから、年齢別の覚醒平均を見ても老人でも稀にいるとか…」

 そこまで言って山際は何かを察したように陸地のほうを向いた。陸地は壁に備えられたタッチパネルを操作して何かのリモコンと、紙パックジュースを2本開いた壁の一部から受け取り、手一杯にして運んでいるところだった。

「わかったか?」

 陸地のその言葉がすべてを物語っている、そんな気がした。

「お前、まさか新しい能力を…?」

 山際が勢いに乗って椅子から立ち上がると椅子も驚いたのか、軽く振動する。陸地は手一杯に抱えたものを、丁寧にテーブルに並べながらこくりと頷いた。

「一体何の能力が…」

「未来を見る能力だ」

 山際の言葉を遮り陸地がそういうと、持っていたリモコンを正面の壁に向けスイッチを押した。するとさっきまで明るく元気だった部屋の照明がゆっくりと暗くなり、壁の一部に何かの映像が投影された。それを確認した陸地は椅子に触れ、ゆっくりと腰掛ける。投影された映像は、今基地の外で何が起こっているかを監視する監視カメラの映像だった。ドローン型カメラが飛び回っているので、映像も鮮明でわかりやすい。

「何だよ未来を見る能力って。それで何が見えたって言うんだよ」

「今からこの映像に移ることだ」

 山際の軽い喧嘩腰の口調も冷静な陸地の返答にあっけなく流されたので、山際は黙りこくって映像のほうに目を向ける。今から何が起こるというのだろうか、そう思って見ていると映像に俊が映った。


 女の後ろには、一筋の赤く光り輝く線が一本、そして鋭い眼光。俊の目の前で今まさに起こっている事は、夢と錯覚しそうなほど息を呑む暇もない一瞬の出来事だった。一筋の赤い閃光は瞬く間に女を襲い、それを察知した女は俊に向けて振り上げた剣をすかさず自分を守る形に持ち変える。次に火花を散らしながら鳴る金属音。その音と共に女はその場から打ち飛ばされた。赤い閃光の剣を振りかざしたのは紛れもない男である。その男は飛び上がっていたのだろうその場に膝を着いて着地し、立ち上がると女のほうを見た。女は突然の衝動に戸惑いながらも足で体勢を持ちこたえている。さっきまで殺されかけそうになって地面にひれ伏していた俊も、戸惑いを隠しきれず口を開けぽかんとしていた。すらっとした立ち姿、赤毛交じりの黒髪、整った顔立ち、そして冷静沈着な態度。何かのモデルだろうか、高身長なところからもそう思わせられる容姿だった。俊はゆっくりと体を起こし、その男をじっくりと見る中で手に持っているものを見て唖然とした。すかさず自分の手に握られたものを見る。

「剣の模様…、もしかして」

 思わず発した言葉に、男は気づいたのか俊のほうを見た。俊の持つ剣と自分の持つ剣を見比べてハッとする。剣の柄に刻まれたSAの文字。光方は違えど険そのものはどうやら同じようだった。

「お前、もしかしてスカウトされたSAか?」

 『スカウトされたSA』、その言葉が出た事に俊は驚きを感じた。

「お前も、その類なのか?」

 俊は少し興奮して思わずその場を立ち上がる。さっき吹き飛ばされた怪我など今ではなんとも感じなかった。突然の俊の食いつきように男は驚き、思わず身を引いた。

「確かに俺はスカウトされた身だが、お前がその類というならお前もそうなのだろう?そんなやつがこんなところで何をしている」

 男の質問に俊は笑い返した。

「それはお前もだろう。お前こそこんなところで何してんだよ」

 男は俊の言い方に少しむっとした。

「俺の名前は『お前』じゃなくて『ごう』だ」

 男が突然名乗ってきた事に俊は驚いた。同時にプライドが高いのかなという事も感じ取った。

「えーっと、これは俺も名乗っといたほうがいいやつだよな」

 俊がそういうと郷は首を振った。

「お前が名乗る必要はない。『お前』は『お前』という呼び方ができる。だからそれで十分だ」

 俊が郷をプライドが高いやつだと見越した事は的中した。だが俊は郷にイラッとした。

「お前、外見のわりにむかつくやつだな」

 その言葉に今度は郷が苛立ちを見せる。

「だーかーら、お前今の流れで察せれないのか?わざわざ名前まで教えてやったのにどうして俺をまだ『お前』扱いするのかな?」

 俊の口元が引きつった。

「いいだろ、『お前』でも。別に俺ぐらいしか『お前』を『お前』と呼ぶやつはいないんだからさぁ」

 郷も徐々に語気を強める。

「何だと?」

 今にも喧嘩が始まりそうな流れを見せたその時だった。

「おい!」

 遠くから声がする。二人が声の方向に嫌悪感丸出しの表情を見せると、そこには砂埃をとっくに払い終え太刀を振り回し待ちほうけた赤髪の女の姿があった。

「ずっと待ってるんだけど、いつになったら相手してくれんのかなぁ?気分冷めちゃったよ」

 その様子に二人はぽかんとして、顔を見合わせる。

「俺、お前が敵だと思ってたわ」

「んだと?」

「あのさぁ!」

 いつでも火花が散りそうな二人の棘のある会話に、女は割って入った。二人は「あぁ!?」と言って女の方を向く。

「知り会いかなんか知らないんだけど、さっさと相手してくれないかなぁ。あんた『今度は俺の番だ』とかいって何分待たせんの?そんなんじゃ女にもてないよ?」

 何をどうして敵に女性との付き合いの事までまで言われなきゃいけないのか、郷はそう考えるとひどく憤りを感じた。

「何でお前にそこまで言われなきゃいけないんだよ!って言うか…」

 郷は俊を見てからもう一度女のほうに顔を向ける。俊は「なんだよ」と言ったが、郷の耳には届いていなかった。

「初対面だし!」

 怒気をこめていった。女はくすくすと笑っている。俊はぽかんとした。また口が半開きになっている。郷は「ふん!」と鼻を鳴らすと、俊より一歩前へ出た。

「おい、お前何するつもりだよ」

 俊の呼びかけに「同じ事を何度も言わせるな」と言うと、怒気を押さえ呼吸を整えて剣の素振りをした。

「見せてやるよ、俺の剣術を」

 その言葉が誰に対していったのか、わからなかった。だがこれから起こる事はきっとすごい事な気がする、俊の脳裏にそんな予感がよぎった。

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