ご主人様という存在
実際問題、中院公爵領から王都に戻ってきてから、サニヤの語彙が少なくなってきていたのには気がついていた。
落ち着いている様子を見せていても、会話が成り立ちにくいことが多く、何故、あそこで眠っていたのか、僕のご主人様だと思った理由などを聞いても要領を得なくて困っていた。
目覚めたばかりでエネルギー効率が悪いというのは、どのくらいで解消するのだろう。
適切な栄養補給が足りていないのかもしれない。
「食事量が足りないということですか?」
「いいえ。真王陛下に食事量については確認しました。サニヤなら充分、活動できる量が供給されていると思います」
サミヤさんの言葉に僕はホッと胸を撫で下ろす。
毎食10人分は余裕で食べているのに足りないと言われたら今後の食費を維持していくのが怖い。
「封印の余波でしょう。本人の記憶も混乱しているようです」
神殿の扉に描かれていた紋様を思い出す。
誰が何のために原始種族を封印していたのか。
それもサニヤが落ち着けばある程度の答えは出るのだろうか。
「原始種族を封印することは可能なのですか?」
「創造神に匹敵する人物であれば可能かと思います。実物を見たわけではないので憶測ですが、我々を封印するモノというよりは、空間の封印ではないかと思います。外部からの刺激がないのでサニヤはただ眠っていたのだと」
なるほど。
永い眠りにつく原始種族ならば外部からの干渉をなくせば起きるまでの時間稼ぎは出来るだろう。
「まあ、そのあたりは一旦置いて食事をすませてしまおう。料理が出来上がってるようだよ」
良さんに促されて僕達は夕食を食べることにした。
厨房で話を聞いて覚悟は出来ていたつもりだけれど実際にテーブルに料理が並べられるとやはり驚いてしまう。良さんと僕の分は通常通りだけれど、サミヤさんとサニヤの前に並ぶ料理の量が凄まじい。
2人ともスラリとしてた体型な分、本当に食べきれるのだろうかと心配になる。
勿論、その心配は杞憂だった。
食後の珈琲を飲みながら僕は食べながら考えていたことをサミヤさんに聞いてみた。
「貴方達がご主人様と呼ぶのはどういう人物が多いのですか?」
神々の時代から存在しているという原始種族が主人と認める相手というものが想像できなかったからだ。一般人とは思えない。彼等よりも上位の存在だと思うのだけれど、現段階の僕の知識では創造神くらいしか思い浮かぶ対象がいない。
「そうですね。神、もしくは我々と同じ長命の種族であることが多いですね。ただし、稀に短命種である現在この世界で生活しているような方々を選ぶ個体も少数ですがいます」
「じゃあ、サニヤさんは少数派ってことですか?」
サミヤさんは僕の方をしばらく観察するように見つめた後、サニヤさんを見て少し考えてから、
「サニヤが以前に主人と呼んだ人物については私は知りませんが、真王陛下」
「うん?」
「貴方がお気付きでないとは思ってませんので言わせていただきますが、よろしければ人払いをお願いしたいですね」
「ああ・・・、そうだね」
良さんはサミヤさんの要望通りに給仕で側に控えていた侍女さんや警備の人を部屋から退出させた。
やはり、僕の異端のことはわかる人にはわかるのだろう。
人が確実に居なくなったことを確認してサミヤさんは言葉を続けた。
「ありがとうございます。笈川さん、貴方は恐らく異端に分類されている能力所持者ですね。サニヤが懐いている原因は恐らくそこでしょう。いくら永く眠っていたとはいえ自分の主人を見誤るとは思えませんので、貴方が記憶を失っているのではないでしょか」
「ふぶきは、間違いなくサニヤのご主人様なのです」
食後のためか、サニヤがしっかりとした口調で断言した。
「あの、そういわれても僕はまだ16歳、いや死んでた時もいれたら19歳?なんだけど」
自分の体感的には16歳のままだ。
意識のない間に肉体的に成長したと思われる箇所もない。きっと両親や級友が見ても16歳の頃の僕だと思うだろう。
「そのようですね。なので可能性としては、笈川さんとして誕生する前の生、前世が主人であったか、もしくは、貴方自身が望んで記憶を封印し、笈川さんとして生活していたか、でしょうね。もし後者であれば、貴方自身が強く望まない限りは記憶を取り戻すことはないでしょうね」
「それは、つまり、前世の場合は思い出すことが可能ということかい?」
良さんの質問にサミヤさんはコクリと頷くと、
「我々と過去世で結びつきを持っていたほどの魂ならば、サニヤと共に過ごしている内に眠っている記憶が揺さぶられるでしょうからね。自分で封印している場合は別です。サニヤとの再会も考慮に入れた上での封印でしょうから」
サミヤさんの言っていることは何となくだけれど理解することが出来た。
僕がどう足掻いてもサニヤの主人であることだけは確定事項のようだ。
自分の希望としては前世の方であってほしい。
でないと笈川 吹雪としての自分が偽者みたいで、特異体質持ちの厄介な息子を大切に育ててくれた両親の気持ちを踏みにじっているようで、そんな自分は許せないと思った。
「つまり、異端であれば君達の主人になれると思っていいのかな?」
良さんがサミヤさんに質問した。
異端と聞いて、シノハラさんと暮さんのことを思い出した。
「それについてはお答えすることが出来ません。私達が知る世界の成り立ちについては、創造神か、他の神々、そして限りなく神に近い一部の者にしか知る必要のないことですから」
サミヤさんは教えてくれるつもりがないようだ。
サニヤも同意らしく小さく頷いている。
「ま、それもそうだね。現段階、眠ってないのは君達二人だけだし、主人になってみた所で何か出来るわけでもないだろう」
良さんは、サミヤさんの答えを予測していたのか、あっさりと納得していた。
「ええ。今、この世界を生きている貴方達に干渉するつもりも助力する気もありません」
「じゃあ、サニヤさんは、笈川くんと一緒にいるだけってことでいいのかな」
「そうです。ただ側に居られればサニヤは納得するでしょう。及川さんがもし戦場で命を狙われるようなことになっても、サニヤは助けることは出来ません。万が一、干渉してしまった場合は、サニヤが係わった全ての生命から、サニヤに関する記憶の消去をすることになるでしょう。そのように我々は創造神から命じられているのです」
「わかってはいたけど、創造神って放任主義だよねー。世界創るだけ創って何してるんだろうねえ」
良さんが呆れたような声を出した。
本当に、この世界の神様は何がしたいんだろう。
原始種族も大変だ。仲良くなった人を助けられる実力があっても何もしてはいけないなんてルールがあるなんて辛い。
もしかして、だからほとんどの人が塔で眠ってばかりいるのだろうか。




