フォロワーツ村 5
神殿を出て、バーベキューをした場所までたどり着くと丁度、正午に近い時間になった。
設置されている6人掛けのテーブルと椅子を借りて食事を済ますことにした。
僕は、自分の荷物から皆の分のお弁当を取り出して渡す。
「はい、サニヤさんの分」
サニヤは、不思議そうに差し出されたお弁当箱を受け取って、
「私の分?」
と呟いた。
「そうだよ。初心者の料理だから味や見た目は保障できないけどね」
「吹雪様が、作ったの?」
「そうだよ・・・って、様もやめようよ。口調がフレンドリーなのに様付けって落ち着かないよ」
「うん・・・じゃあ、ふぶき?」
お弁当箱を大事そうに持って、はにかんだ笑顔を向けられると神殿の中で見た幼児の姿を思い出した。サニヤの本質は、幼いのかもしれない。ほとんど眠っている原始種族だ、人との交流になれていないのか、どこか頼りなさを感じる。ご主人様というよりは、お兄ちゃんの気持ちで接していけばいいのかもしれない。
うん、お兄ちゃん。いい響きだ。
「うん。ふぶきでいいよ。ほら、松田さんがあったかいスープ作ってくれたよ」
簡易コンロで温められたスープの入ったカップを皆の前に置いていく。
「ラズさんも。マキちゃん、熱いから気をつけてね」
「ありがとう。ふふっ。ふぶきさんとサニヤさん、そうしていると兄弟みたいね」
「そうかな?それくらいが気楽でいいよね。知らない人がご主人様って聞いたら何の罰ゲームだろって思うだろうし」
「罰ゲーム?」
「ははは、及川くん、ラズリィーさんみたいなお嬢さんには罰ゲームとか無縁だから、わからないよ」
「え?そういうもんですか?」
「四季の巫女姫様だからね。そういう対象にならないよ」
「なるほど」
「?ゲームというからには遊戯なのよね?」
「まあ、一応ね」
ラズリィーは不思議そうな顔をしている。
巫女姫様に変な知識を教えるなって後で怒られたら困るので曖昧にして話題を変えることにする。
「まあ、とにかく食べてみてよ。卵焼きは味付け色々試してみたんだ」
「そうだね。頂こうか」
「「いただきます」」
僕の作った卵焼きは概ね好評だった。
ラズリィーとマキちゃんは甘め、松田さんはネギ入りが好きなようだ。次回があれば、このデータを生かしてさらに味に磨きをかけたい。
僕の料理道はまだ始まったばかりだ。
そういえば、神殿の本棚に料理本はあったのだろうか?紅茶の本があるくらいだから料理の本もどこかにありそうだ。もし、ある程度、料理の腕に自信がついたら確かめに行ってもいいかもしれない。間違っても『天地創造』には触れないように気をつけたい。
食後の話し合いで、僕達は一旦、王都に戻ることに決まった。
ラズリィーはとても残念そうにしていたけれど、神殿の未確認エリア発見と、原始種族や書斎の件もある。さすがに、電話で軽く報告するだけで済ませるわけにはいかないことは彼女にもわかっていたようで納得はしてくれた。夏の祭典でそんなに間を空けずに再会できるというのも大きい。
「でも、ご主人様云々は報告するしかないけれど、書斎については触れない方がいいだろうね」
「そうね。ふぶきさんしか読めないと言われても未知の文明があるとなると色々騒ぎになりそうだし」
「そういうわけで、書斎については、今、この場にいる者意外には秘密にしておこう」
大筋は、松田さんとラズリィーが話し合って決めた。
僕には政治的駆け引きや、どこまでがこの世界の常識なのかわからないし、マキちゃんやサニヤは興味なさそうだった。
「サニヤ!もう一匹受け取れー!」
「はーい!」
湖の中からマキちゃんが捕まえた魚を陸にいるサニヤに向かって放り投げては受け止める。そして、その魚を軽く洗って内臓を処理して簡易コンロで焼く。その動作を食後すぐに始めた1人と1匹は、焼かれた魚を10匹以上、作り上げている。どうやら、お弁当だけでは足りなかったようだ。
今後の食費の増大を思うと、王都に戻ったら迷宮に暫く真面目に通って稼がなければ、と強く思う。自分が決めて連れて帰ったサニヤの食費くらいは責任持って稼がなければいけない。それさえ出来ないのに、いつか自立したいだなんて恥ずかしくて言えない。
可愛い妹の為だからね!ふぶきお兄ちゃんがんばるよ!
って・・・あれ?
サニヤは、女子、なのだろうか?
幼児の姿だった時は、アレがついていなかったけれど、幼児だけに、女性らしい肉体もしていなかった。
メイド服で懸命に魚を焼くサニヤの後ろ姿をじっと見つめてみる。
中学生か、高校生くらいに成長したサニヤのシルエットは、女性的に見える。しかし、油断ならないのがこの世界。さすがの僕も学習した。
「あの、松田さん」
「うん?」
「サニヤさんって、性別はどちらだと思います?」
迷ったら聞く。
女性に年齢とスリーサイズを聞くわけじゃないんだ、これは確認するべき事項だ。
松田さんとラズリィーは、半ば呆れた風に、
「性別はないよ?」
「原始種族は、無性であり、どちらにも変化できる種族ですよ?」
と、言われた。
この世界では常識だったようだ。
そういえば、講義でそんなことを習ったような・・・どうだっただろう・・・?
「まあ、今は、おそらく女性体だと思うよ?あの場で、笈川くんが気さくに対応していたラズリィーさんの年齢と外見を模倣したんだろう。俺を真似たら、ご主人様より大人になって困ると思ったんだろう」
「そうでしょうね。サニヤさんは、原始種族の中でも幼いのではないかしら?松田さんを模倣するのは難しいと判断したんでしょうね」
「そうなんだ・・・。確かに、年上の人にご主人様とか呼ばれたら困るから、これでよかったのかな?」
あの場所にいたメンバーの中で、誰が一番気楽な付き合いが出来るかと聞かれれば本当はマキちゃんだと思う。一番長い付き合いだし、中身が中年男性でも外見が猫だから。でも、さすがに猫化されたら困ったことになっただろうな、と思う。王都の部屋で留守番している柴犬たちの事を思い出す。
あの部屋にこれ以上、動物を増やすのは良くないと思う。
勿論、サニヤには別室で寝泊りして欲しい。
恐らく、少女のような見た目だから考慮して部屋は別に用意してもらえると思うけれど、相手はあの良さんだ。何がどう転ぶかわからない。甲斐さんという砦も、良さんが強く言えば押し負ける可能性は高い。
そうだ、食費だけじゃなく、最悪、借家を借りる覚悟をしておかなければいけないんだ。
そう思えば、サニヤのお陰で大幅に自覚して使いこなせるようになったと思われる異端をフルに活用して迷宮で稼ぎまくらなければいけない。
どうやら、のんびりとした日々とは暫くお別れしなきゃいけないようだ。
僕は、小さくため息をつきながらも、遣り甲斐を感じて少しだけ微笑んだ。




