フォロワーツ神殿 5
翌朝、自分で結論を出すという精神的重圧のせいか、いつもよりもかなり早く目が覚めた。
再度、眠りにつける気がしなかったので1人で朝食を作って、ついでに簡単だけれどお弁当も作った。おにぎりと卵焼きの本当に簡単なものだ。色んなおかずや華やかな詰め方は出来ないけれど、卵焼きの味付けには拘ってみた。
ちょうど全員分のお弁当を詰め終わる頃に松田さんが起きてきた。
「おはよう」
「おはようございます」
「お、気合入ってるね」
松田さんはテーブルの上の朝食とお弁当箱を見てそう言っただけで、僕がどういう結論を出したのかは聞いてこなかった。朝食後、いつもより早めにラズリィーがやってきた。
「ラズさん、おはよう」
「おはようございます」
「今日は、少し早めだね。朝ご飯食べた?」
ラズリィーは、玄関先に立ったままで何かを言いたそうに僕を見た。
もしかして、今日は別の用事が出来たのかな?
そんなことを考えていると、覚悟を決めたのか、小さな手でギュっと握りこぶしを作って、
「あの、昨日はごめんなさい」
と、ペコリと頭を下げた。
「うん?気にしてないよ」
昨日、神殿でご機嫌が悪かったことを謝ってきた。反射的に気にしてないと返事をしたけれど、この言い回しだと本当は気にしていたけれど別にいいよ、みたいにイヤミっぽく捉えられたら困るな、と思い直す。けれど、上手い表現方法を思いつかない。上手く言葉を選べない自分と内心で戦っている間に話は進んでいく。
「よく考えたら、結論をすぐに出せなくても、あの場所に置き去りにしなくても良かったなって思ったの。かわいそうなことをしてしまったわ」
「あ、そうだよね。僕も帰り道でそう思ったよ」
僕の言葉にラズリィーは、小さく安堵の息をついて、
「そうよね。よかった。だから、今日は、少しでも早く向こうに着ければと思って来たの」
「そうだね。きっと待っててくれてるよね」
「朝から2人とも気合入ってるねえ。じゃあ、少し早いけれど、出発しようか?」
そう言って立ち上がった松田さんの手にはバーベキューをした時と同じくらいの大荷物があった。何が入っているんだろう?
コテージを出て、昨日と同じ道筋を通ってフォロワーツ神殿の地下へ着くと、サニヤは昨日別れた時のまま、寝台にチョコンと座っていた。
「おはよう」
声をかけるとこちらを向いて、
「おはようございます。吹雪様。皆様方もおはようございます」
と頭を下げた。
僕は、サニヤの目の前まで近付いてしっかりと向き合った。
「サニヤさん、昨日の話だけど、その前に少し質問させてもらってもいいかな?」
結論を出す前に確認して置きたいことがいくつかあった。
「どうぞ」
「ありがとう。まず、僕が君のご主人様だっていうのはどういう意味なのかな?眠っている君に能力で生命力を譲渡したからっていう理由なら松田さんも当てはまると思うんだけど?」
サニヤは小さく頭を振って、
「いいえ。それは単なる食事に過ぎません。吹雪様が私のご主人様なのは間違いないですが、思い出せないのであれば、今は思い出す必要はないのでしょう」
「そっか。・・・じゃあ、この後、僕と一緒に行動しようとする理由は?何か僕にして欲しい事があるの?」
サニヤは少しだけ考える素振りをしてから、
「ご主人様と共に過ごしたい。それだけです。して欲しいことは、特別ありません。側に置いていただければそれでいいです」
「今、僕は、黒の領地で、王城に居候している身分だから、君を養ってあげることは出来ないよ?」
「その辺りの事情は、昨夜の内に、この湖周辺の生物から情報を少し得ています。冬の巫女姫の捜索であれば、私がお役に立てると思います」
「え?そうなの?」
「はい。昨日のご主人様とは逆に、氷の能力を膨大に内包しているのに、表面に出ることが出来ない状態の方を見つければよいのですね?」
「そうなる、のかな?」
「感覚的には、そちらのお嬢様のような量の属性魔力の女性で間違いないでしょうか?」
そう言って、サニヤがラズリィーの視線を向ける。
もっとも、そんなことをしなくても今、この場にいる女性は1人しか存在しないから間違いようもない。
「そうだね。俺よりは多めで、彼女くらいの突出した属性魔力で、氷の人になるよ」
「そうなりますね。土の王である松田さんよりは多めの保有量であることは間違いありません」
松田さんとラズリィーの言葉を聞いてサニヤさんが小さく頷いてから僕の方に向き直る。
「目覚めたばかりで、エネルギー不足により感知範囲が狭いので申し訳ないですが、今、この黒の領土にはお探しの方は存在していないのは間違いありません。エネルギー不足が解消されれば、この世界全域でも捜索することは可能です」
「え、そ、そうなんだ」
あまりに簡単に言われたので呆気にとられる。
原始種族の秘められた能力の一つなんだろうか。
「吹雪様、サニヤはお役に立ちます。どうか、一緒にいさせていただけないでしょうか」
縋るような視線を向けてくる。
確かに、僕の第一目標である冬の巫女姫捜索に、サニヤ以上の助っ人はいないだろう。王城に連れて帰る許可は出ているけれど、これだけのハッキリとした理由があればより受け入れられやすいだろう。僕としても、四六時中一緒にいるわけじゃなければ、サニヤ自身が嫌いなわけじゃないので拒否する理由はないように思える。
「ええと、最後に確認しておきたいんだけど」
「はい、何でしょうか」
「君の、その姿はそのままなのかな?外に出てしまったら見失いそうなんだけれど」
実際、完全な透明なサニヤの身体は、真っ白なこの神殿内でもかなり視覚で捉えにくい。少し離れた場所だと見失いそうだ。
「この形は、夢現の中で見た姿を模したものです。ご希望であれば、以前、ご主人様と共にいた時の姿に戻すことも可能です」
「あ、じゃあ、そうして貰えるかな?」
以前、ご主人様といた時の姿というのに興味を引かれた。見れば何か思い出せることがあるだろうか。
サニヤは頷いて、
「では、そうします」
そういってサニヤの輪郭が歪み始めた時、松田さんがポンと肩を手を置いた。
何だろう、と振り返ると、
「サニヤさん、ここに衣服を置いて置きます。我々は上で待っていますから、終わったらこちらから好きな服を着て上がってきてください」
と、持ってきていたバッグを床に置いた。
そういえば、今日は神殿にくるだけだったのにやけに荷物が多いなと思っていたが、サニヤの着替えだったようだ。
そこまで言われてハッとした。
透明な水晶のような姿で幼児くらいの見た目だったので深く考えていなかったけれど、サニヤは全裸だった。この後、僕たちのような生身の姿に変化したら、目のやり場に困るのは間違いない。
「上、いってるね!」
僕たちは慌てて階段を駆け上った。




