フォロワーツ神殿 2
松田さんとラズリィーは不思議そうな表情で顔を見合わせる。
「俺には見えないなあ」
「わたしもよ」
どうやら、2人には見えてないようだ。温度の違いと同様、僕だけが見えているらしい。マキちゃんは興味なさそうに床に転がっている。多分、夕食のことでも考えているのだろう。
「しかし、どうするか。一応、神殿だし。そこに本当に何かがあって新発見だとすると迂闊に触るのも危険だねえ」
「そうね。この場合、領主である公爵にお伺いをたてるべきなのかしら?それとも王家の方がいいのかしら?」
「うーん。領主ではあるけれど、逸勢さんがこういった遺跡に感心を示すとは思えないなあ」
「そうですね。報告しても調査しようという発想には至らないと思います」
「だよね。領地に余所者がうろつく結果になるなら放置するだろうねえ」
2人の中院公爵に対する評価がよくわかる。人見知りと拗らせると大変そうだ。
「まあ、魔王様が無難かな。あの人、こういうの好きっぽいし」
「そうなのですか?わたし、魔王様とは直接お会いしたことはなくて」
「即位するまでは暇があれば世界中の山村とかに出かけてたよ。むしろ城にいる方が珍しいくらいだったから、だから余計に立太子になった時は驚いたよ」
「立太子?」
聞きな慣れない言葉に首を捻っていると、
「立太子っていうのは、次の王様はこの人に決めましたって王からに正式に発表された人物ね。王家にたくさん子供がいる場合、長男がストレートに第一王位継承権を持つんだけれど、資質とか世界情勢でそうならないこともあるわけだよ」
「ああ、内部で下克上的なことがあったりとか?」
「まあ、余程、王に相応しくない人材であった場合とかね」
「そういえば、今の魔王様?より弟さんの方が人気だったという話は聞きました」
「そう。まあ、それ以外にも優秀な子供が多くて皆が良さんに誰を選ぶんだー!?って聞いても教えてくれなくて、国民はその弟の方だろうと大半が思ってたんだよね。いくら優秀な長男でも滅多に城どころか国にもいないんだから。だから、自然と候補から外されていたというか・・・」
「本当に、まさか、でしたよね」
2人が当時の事を思い出したのかシミジミと頷きあう。そうえばアルクスアにいた時にも話題にあがったなと思い出す。一番人気だったけれど、魔力ではなく聖なる能力を持っていた良さんに良く似ているらしい王子。そんなに人気だった彼は今、どうしているのだろうか。王国制度については漫画で読んだことがある程度のフワーッとした知識しかないけれど、良さんの人柄を思えば、別に新しい王様に選ばなかったからといって酷い扱いをしているとも思えない。機会があれば会うこともあるだろう。
「まあ、ちょっと話がずれちゃったけど、そんなわけで当代魔王陛下は遺跡や文化などに大変な関心を示されているわけなんだよ」
「つまり、調査をしてもらうには魔王様が無難ってことですか?でも、それって時間かかりそうですね。目の前にあるのにオアズケされたら気になって何度も夢に出てきそう」
「それもそうだね」
城へ連絡して正式に魔王様に伝わって調査されることになって、実際に結果が出るまでどのくらいかかるんだろう?日本のお役所仕事だったら必要書類や手順に追われている間に次の年になっていそうだ。しかし、もしも本当に新発見ならば素人が勝手に何かすると後々問題になりそうなので仕方がない。
そんなことを考えていると松田さんが上着のポケットから携帯電話を取り出した。
まさか。
一瞬ありえないような想像をして自分の予想を振り払う。
いくらなんでもありえない。
「あ、松田ですー。お久しぶりです。今、お時間少しいいですか?はい。今、笈川くんと中院公爵領のフォロワーツ湖の水中神殿にいるんですけど、そうです。そこの一階でですね、地下かな?下へ続く入り口っぽいのがあったんですけど、ええ、恐らく未確認領域です。それがどうやら、笈川くんとしか波長があわないようで、彼しか入り口が見えてないようなんですよ。あ、はい。わかりました。ありがとうございます。近いうちに必ず。はーい、失礼しまーす」
通話を終了した松田さんが、
「魔王陛下が入っていいって。何かあったら俺が連絡することになったから」
と、にっこり笑った。
「ええっ」
「今のっ魔王様に!?」
僕とラズリィーが驚きの声をあげる。
ありえないと思っていたことを目の前でやられると誰だって驚くと思う。
「うん?そうだよ?良さんとは長い付き合いだからね。家族ぐるみのおつきあいだよ?さすがに魔王陛下は即位してから忙しいから最近はご無沙汰気味だったけど」
「マツダはみんなとナカヨシ」
松田さんとマキちゃんだけが通常運転だ。
さすが元営業マンの所有人脈。この分だと、まだまだ大物とのつながりをもっていそうだ。なんと頼もしい。
「まあ、そんなわけで!許可はもらえたので開けてみる?危険そうだと思ったら閉めて机をまたのせておけばいいし」
「はい。じゃあ、開けてみますね?」
僕は屈んで窪みに指を入れてみる。
熱くて触れないという程ではないけれど、あきらかに机よりは温度が高い。しかし、不思議に危険な感じはしない。
長い間、机の下にあったのだから硬くなっているかもしれないと力をこめて上へ引き上げるとガコッという音がして持ち上がった。
「開いたわ」
「開いたねえ」
さすがに今回は2人にも見えるらしい。
隠し扉の状態では見える人が限られるけれど、開いてしまえば誰でも見えるというのは少し気が楽だ。もし、自分にしか見えない状態が続くと自分の精神状態を疑ってしまいたくなる。
扉の中には下へ続く階段があった。
大きさから皆で一緒に降りるのは難しそうなので一人ずつ順番に下りてみることになった。
松田さん、僕、ラズリィーの順だ。
マキちゃんは、興味なさそうに床に転がっている。
下へと続く階段は想像していたよりも長く、なんとか下りきった先に、あきらかに今までと雰囲気の違う扉があった。
白が基調となっているのは同じだが、うっすらと青い色で波のような紋様が描かれている。
「これは、封印かな?」
「そうみたいですね」
松田さんとラズリィーが紋様を見てそう言った。
どうやら青い紋様は何かしらの術のようだ。
「まあ、ためしに開けてみよう。ここまでこれたということは笈川くんは解除資格があるんだろう」
「そうですね、ふぶきさん、がんばって!」
2人に言われて僕は扉の前に立つ。
わざわざ水中に沈めておきながら、誰でも入れるようになっているこの謎の神殿に封印されているようなモノが想像出来ない。
まさか、邪悪な水系モンスターだったりしないよね?
出来れば、普通に古代の金銀財産とかであって欲しい。
そう思いながら扉を押し開けた。




