フォロワーツ神殿 1
白い壁を手の平で力を入れて押すと重厚なつくりは裏腹に至極あっさりと扉が開いていった。
村の子供でも開けられる扉なのだから当然といえば当然の結果だ。
僕たちは早速内部へと足を踏み入れる。
「わぁ」
「広いね」
「シロ過ぎてマブシイ」
洞窟から入った場所は勝手口のような扱いなのか、大きなホールの端のほうへと繋がっていた。
神殿、と呼ばれるに相応しく白い柱が聳え建ち床も壁も扉と同じくツルリとした素材で統一されている。マキちゃんには白さが眩しいらしくて何度も目を洗うような仕種を繰り返している。やはり猫の姿だと見え方が人間とは違うのかもしれない。
「さて、これからどうする?」
「うーん、とりあえず適当に見学してみますか?」
「ここがホールということは、あの奥に祭壇のような場所があるのかしら?」
ラズリィーの視線の先は、恐らく正面玄関(外は湖)だろう場所からみてホールを抜けて真っ直ぐに続く通路だった。ホールの両脇には、ホラーゲームで御用達の洋館についているような二階へ上がる階段があった。ホール中央には階段はなくてただの広い空間がぽっかりと空いている。窓がないのでわからないけれど、洞窟が緩やかな下りだったことと神殿が水面に出ている部分がないことから、この場所が水中なのは間違いないけれど普通に空気があって呼吸が出来る。
「いってみようか」
「そうだね」
僕たちは奥へ向かって通路を進んだ。そんなに長い通路ではなく呆気なく扉へと到着する。ここも他と同じく真っ白な扉だ。いい加減、僕の目も疲労してくる。扉を押して中へ入るとホール部分の数倍は広い場所へ出た。ここも同じように真っ白な空間だけれど壁面に小さいながらも窓が幾つかあって外がみることが出来た。水中なので当然、陽射しや木々がみえたりはしない。たまに魚がふわーっと回遊するのが見えるくらいだ。
「壁のせいかな?照明がないのに明るいですね」
「本当だねえ。洞窟の壁と一緒で発光体なのかもしれないね」
そもそも神殿内に入った時点で照明器具がないことに気付くべきだったのだけれど、余りの白さに気をとられて失念していた。
「あ、祭壇のようなものがあるわ」
ラズリィーが部屋の奥を指差す。
「本当だ。何かあるのかな?」
部屋を見回してもそれ以外に調度品の類は置かれていない。そうなると自動的にそれしか見る物がないので全員で祭壇のような物の元へ移動する。
近付いてみると、学校の教卓のように片側には物を入れるような引き出しと余白スペースがあるけれど、反対からみると特別飾り気のない白い机のようだった。引き出し部分には鍵穴がついていない。
「この引き出し、開けてもいいのかな?」
「いいんじゃない?入り口にもこの周辺にも注意喚起がないし。この高さなら子供でも手が届くんだから、危険なら何かしら対策されてるよ」
「そうですね。じゃあ、空っぽなのかな?」
あれ?
そう言いながらそっと引き出しを開けると予想通り空っぽだったけれど僕は何か違和感を感じた。けれど、違和感の正体がわからない。眼を凝らしても何もないことには変わらなかった。
「空っぽですね」
「そうだねえ」
いつまでも見つめていても仕方がないので引き出しを閉める。
「上の階も行ってみようか。折角、来たんだし」
「そうですね。上の階に広い窓があれば魚がたくさん見えるかもしれませんね」
「サカナ!」
マキちゃんは、魚という単語に食事を思い出したようだ。いつでも食いしん坊さんだ。
僕は、何だかモヤモヤと今まで感じたことのない違和感が気になって仕方がない。
何だろう?
この部屋へ入った時は普通だった。
モヤモヤし始めたのは引き出しを開けようとしてこの祭壇のような机に触れた時からだ。
何か特別なテーブルなのだろうか。
「ねえ、この机に触ってみて?何か変な感じするんだけど」
僕は皆に声をかける。
松田さんとラズリィーがそっと手を置いてみたり、僕と同じように引き出しの開け閉めをしてみる。
「変かな?」
「これといって変わった感じがしないわ。普通の机みたいだけど」
「そうだねえ。強いて言うなら素材が石っぽいせいか冷たいね」
「あ!」
僕が違和感の正体に気がついた。
「そのせいだ。これ石っぽいのに、少し暖かく感じます」
言いながら机に触れて再確認する。
真っ白で冷たそうな素材で出来ているはずなのに木製製品のような不思議な優しい手触りと暖かみを感じる。
「笈川くんには暖かいの?」
「え?わたしはヒンヤリしてるように思えるけど」
松田さんとラズリィーは僕と同じように感じていないらしい。
「どういうことでしょう?」
「不思議だね」
「不思議ね」
皆で机を触りながら何度も確認するけれど結果は変わらなかった。
「理由がハッキリしないと気になるね」
「そうね。マキちゃんはどう?」
「マキも冷たい」
「「「うーん」」」
しばらく皆であれこれ検討してみるけれど結論はでない。
「でも、何か理由はあるはずよ」
「そうだねえ」
「僕だけが暖かく感じる理由かぁ」
ふと、そういえば最近は補助アイテムなしでも自然に体温管理が出来る様になってきて以前のように日常生活が困難な程、暑いと感じなくなってきていたが、この『暖かい』という認識はそれに似ているな、と思いついた。
他の人々と自分の体感温度の差、それを安定している今感じているということはどういうことだろうか?
何らかの理由で体温管理が出来なくなろうとしている?それは違うだろう。それならば初夏になりつつなる現在の気候では起き上がることもままならないはずだ。それに、今は補助アイテムが指にしっかりと嵌っている。
自分の中にあるらしい色んな属性の能力の内、恐らく先代冬の巫女姫の関係する何かのせいで氷の能力だけが突出して表面化していること?シノハラさんが、『俺と同じなら、一見無能力のように視認されるはずだ』と言っていたことがあった。つまり、この表面化している氷の能力が何かしらに反応しているのだとすれば、この神殿には先代冬の巫女姫に関係する何かがあるのかもしれない。しかし、ラズリィーとマキちゃんだけならともかく、松田さんがいる前でこの疑問を口に出すことは出来ない。どうしたものか。
「そういえば、暖かいのって机全体?引き出し周辺だけ?」
「どうなんでしょう」
松田さんに聞かれて僕は机を上から順番にペタペタと触って確認していく。
「うーん、上の方は同じくらいですね。なんか、下の方が若干温度が高いような気がしなくもないですね」
「下の方?じゃあ、机の真下とかに何かあったりするのかも?」
「机の下にある何かの気配を感知しているということ?」
「かもしれないねえ。ちょっと動かしてみようか」
松田さんがそう言って机をヒョイと持ち上げて少し右側に移動して下ろした。
「特に、何も変わったようには見えないね」
「普通に床ですね」
松田さんとラズリィーの感想と僕の感想は全く正反対だった。
「僕には、何か開けれそうな窪みが見えます、ここに」
そう言って目の前の丁度片手の指先が入りそうな、机についていた引き出しのそうな窪みと丁度机と同じラインになるように出来ている溝を指差した。




