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僕の異世界(?)見聞録  作者: ナカマヒロ
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フォロワーツ村 3

 爽やかな陽射しを浴びながら湖面をボートで回遊する。

 ドタバタした登山の翌日、僕は再びフォロワーツ村の湖へ来ている。そして、湖の真ん中あたりでラズリィーと2人でボートの上にいる。

 なぜかというと、朝に訪れたラズリィーが、前回釣りをしていただけでボートに乗れなかったので乗りたいといったからだ。特別予定もなかったのでお弁当を作って松田さんとマキちゃんとラズリィーでフォロワーツ村までやってきた。蒼記さんは今日もお仕事らしい。何だかいつでも忙しそうだ。

 松田さんとマキちゃんはバーベキューの準備をするからと2人でボートに乗ることになった。

 快晴で湖面が煌めく。周囲は山々の緑が美しい。そんな湖の真ん中でラズリィーのような可憐な少女と2人きり。特別な関係じゃなくても多少ドキドキしても仕方ないと思う。


 「昨日は何か狩れたの?」

 「うん。ホオグロ鳥がたくさん。マキちゃんが追いかけられて大変だったんだよ」

 「あら。それで今日はマキちゃんは泳がないのかしら?」

 「どうだろう?お風呂には一緒に入ったけど怪我はなさそうだったよ」


 実篤さんに噛まれたのがショックだったのか、昨夜はずっと尻尾を内側に入れ込んで隠していたけれど今朝からは普通にユラユラ揺らしていた。


 「そういえば、あのコテージは露天風呂がついてるのよね」

 「そうそう。星が凄く綺麗で気持ちいいよ」

 「いいわね。わたしも今度入りに行こうかなあ」

 「ラズさんは普段は中院さんの家に住んでいるの?」

 「いいえ。一応、少し離れた場所に別邸があるからそこに。本宅に女性が住むことは基本ないから」

 「そういえば、侍女さんもいなかったけれど、公爵夫人も会ったことないなぁ」


 使用人がいないのは中院公爵の人見知りから考えてもおかしくはないけれど、そういえば昨夜行った俊成さんの家にも女性はいなかった。父がいて息子がいるのに夫人がいないのは何故だろう。

 そんな僕の疑問をラズリィーはあっさりと解消してくれた。


 「公爵夫人はお亡くなりになってるのよ。そうでなくても、元々、中院一族は配偶者と一緒の家で生活するのは子供が産まれるまでらしいわ」

 「え?なんで?」

 「なんていうか。中院一族は基本、恋愛結婚はしないわ。あくまで一族を存続する為の結婚だから、子供が出来ればそれでいいのよ」


 僕は身も蓋もない話に驚きを隠せない。

 確かに、地球でも身分の高い人は跡取りを残すために奥さんをたくさん娶ったりという話はある。しかし、この世界でそんな話を聞くことがあるとは思っていなかった。

 個人の自由が尊重され、科学技術でも地球をはるかに越えているこの世界でそんな女性蔑視というか貴族らしい貴族のエピソードがあるなんて。


 「勿論、稀に恋愛結婚することもあるらしいわ。そういう場合は一緒に住むのよ。ただ、中院一族がそういう相手を見つけることがむつかしいみたいなの」

 「むつかしい?」

 「ええ。一生に一度しか恋をしないと言われてるわ。恋をしないで一生を終わることもあるし。恋をしても、その恋をした相手に選ばれなかった場合は、とりあえず一族の為に適当な娘を選んで子孫を残すの。そこに愛情はないから一緒には暮らさないの」


 確かに、恋をしても実らないことはある。

 それも一度きりの恋ならば新しい誰かと愛情のない生活をするのは苦しいかもしれない。

 でも、それでいいのだろうか。


 「中院一族はね、個人差はあるけど、それぞれ愛情とか共感というものが薄いわ。それでも、不思議に子孫だけは残そうとするの。まるで、いつか子孫が誰かと愛し愛されてるのを待ってるみたいだなってわたしは思うわ」


 ラズリィーは、小さくため息をついた。

 僕は、蒼記さんとラズリィーのことを考える。

 つまり2人の婚約というのは本当に子孫を残すためだけの契約のようなものなのだ。

 蒼記さんには恋人が、大切な人がいるらしいけれど、会えない状況らしいのは何度か聞いてきた。つまり、このまま蒼記さんが恋人と再会することや、再会しても結ばれることがなければラズリィーは子供を作る為だけに花嫁になるのだ。

 それは嫌だな。

 なんだか、とても嫌だ。


 「吹雪さん、そんな顔しないで。蒼記様とわたしがもし結婚するような結果になっても、その、名義だけのことになるから。蒼記様は子供を作らないとお約束してくれてるのよ」

 「そんなのっ、そんなの状況が変わるかもしれないじゃないか。跡取りは必要なんでしょ?」


 蒼記さんがどんなに美少女みたいでも、男なんだから、つい間違いが起こらないなんていえない。

 何だか必要以上に憤りを感じている僕を宥めるようにラズリィーはこう言った。


 「吹雪さんに会うまでのわたしのことを思えば、子供は無理だと周囲も納得しているわ。生きていくだけで精一杯。子供なんて望めそうにないわたしを婚約者に据え置いたのは、世間的には蒼記様の恋人はわたしということになっているからよ。蒼記様はわたしという恋人を失った後は再婚をしないとおっしゃったわ。子供を作りたくないから、わたしを選んだのだと」

 「どういうこと?」

 「蒼記様は本当に好きなあの人に出会う前からずっと、自分は子供はいらないと」

 「だから、ラズさんを身代わりにしようとしたの?ラズさんはそれでいいの?」


 確かに、以前の彼女では子供どころか普段の生活もあと何年続けれるかという感じだった。だからといって、彼女自身が恋をしたり自由に相手を選ぶ権利が失われて良い訳ではない。


 「いいのよ。わたしが蒼記様の願いをかなえてあげたくてそうしているの」


 ラズリィーはいつもの花のような微笑をうかべた。

 つまり、そういうことなのだろう。

 彼女は、自分の人生を犠牲にしても蒼記さんの願いを叶えたいのだ。

 本人が納得していることを他人の僕が口出しする権利はないのだ。


 「だから、そんな表情かおしないで?そうね、もしも蒼記様が約束を破ってわたしを泣かせたら、その時は助けにきて?」


 ラズリィーがないと思うけどね、と悪戯っぽく笑う。

 僕は対面に座る彼女の手を握って、


 「行くよ。もし、ラズさんが本当に助けて欲しいと思ってくれるなら、世界のどこにいても飛んでいくから絶対に僕を呼んでね」


 ラズリィーは少しだけ驚いて、瞳を大きく見開いて手を握っている僕の手に空いているほうの手を重ねた。


 「ええ。呼ぶわ。だって吹雪さんはわたしの王子様だもの。来てくれるって信じてるわ」


 そう言って、少しだけ前屈みになって僕の頬にふわりと軽く口付けをした。

 それは一瞬のことだったけれど、まるで世界が静止したかのように長く感じられた。



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