子供扱い
夜の山中をコテージに向かって僕と松田さんは歩いている。
お土産に暮さんから貰った夜食とプチカップケーキ、昼間の残りのホオグロ鳥の肉を2人で分担して運んでいる。暮さんは俊成さんに頼まれて追加のデザートを作ってから帰ることになったので僕たちは先にお暇させてもらった。
「笈川くん、がんばったねえ」
「もう必死でしたよぉ」
「ハハハ。でも、まあ、次は同じようにはいかないだろうから、もう少し訓練しないとね」
「そりゃ、何度も同じ手にはひっかかってくれませんよね」
「ああ、そういう意味じゃなくて。笈川くんさ、視覚操作の能力使ってるでしょ?実篤くんは使えないからね。昼間に再戦したらまた違う結果になってたと思うよ」
松田さんの言葉にハッとする。
「気付いてたんですか?」
「ん。ついさっきね。だって、こんな真っ暗な山道なのに足元がしっかりしてるじゃない?」
「あ、ああ・・・そうですよね」
つい模擬戦の時のままにして普通に山道を歩いていた。
「気をつけないと。皆が実篤くんみたいに単純な性格してるわけじゃないからね」
松田さんはそれ以上、僕の能力について何も触れてこなかった。これは今までの松田さんの言動を考えてもわかっていて見逃してくれてるのだろうと思った。出来るだけ知られないように、と良さんに言われているから気をつけているわりに穴だらけな自分に落胆する。言い訳をさせてもらうならば、この世界の平均的な能力レベルが理解しきれていないからだ。まあ、だからこそ、シノハラさんや暮さんみたいに日常から使わない努力をしろって言われたらそれまでなのだけれど、今回は仕方ないよね?ホオグロ鳥はすごい勢いでやってきたし、模擬戦は能力を全く使わなかったらきっと実篤さんは納得してくれなくてややこしい展開になっていたような気がする。
しかし、このまま松田さんに黙ったままでいいのだろうか。
使いこなせていないとはいえど、僕が異端だと知ったからといって松田さんが態度をかえたりするわけがない、そう信じたいけれど、自分自身でも扱いに困っている能力を打ち明けられても松田さんには迷惑なのかもしれないし、もしかしたら教えて欲しいと思ってるのかもしれない。
わからない。
こうやって一緒にいても松田さんは穏やかに見守っていてくれているだけで、彼の気持ちが掴みきれなかった。嫌われていないのはわかる。けれど、誰にでも優しい松田さんが内心苦手に思っている相手がいたとしても、それに僕が気付けるのかと言われれば自信がない。
そんな風に僕が心の中で葛藤していると、
「疲れたかい?おんぶしようか?」
「大丈夫ですよ。小学生じゃないんだから、おんぶしたら重いですよ」
引きこもり気味だったとはいえ男子高校生だ。しかも、最近は良く食べよく運動しているお陰で体重も筋肉も日本にいた時よりも増えたという自覚がある。若く見えても会社を定年退職している年齢の男性におんぶしてもらうというのは甘えすぎだ。
「そうかな?」
松田さんは身を屈めて足の後ろに手を回したと思うとヒョイと僕を横抱きにするように持ち上げた。
「うわっ」
驚いて松田さんの首元にしがみついた。
「これくらいなら軽い軽い」
「イヤイヤ、そういう問題じゃないですよ!下ろしてください!」
「ゴメン、驚かせたちゃったかな」
松田さんは悪戯が見つかった子供みたいに笑った。
いとも簡単に抱き上げられた僕は、とまどいと少しばかりのショックを隠せない。
完全に子供扱いされている!
冷静に考えれば、二人の年齢差は親子というよりも祖父と孫くらい離れているわけだけれど、今まで身近にいた大人にここまで子供扱いされたことはなかった。寧ろ、両親のお荷物といった視線のほうが多かった。
「あれ?怒っちゃった?ごめんね」
黙りこんだ僕に松田さんが優しく頭を撫でてくれる。
大きな暖かい手だ。不思議なことに心が落ち着く。
これは松田さんという人の人徳なのか。それとも土の王としての特性なのだろうか。
「怒ってませんよ。吃驚しただけです。それに思ったほど疲れてないですよ。向こうで少し休憩しましたし、ほら」
僕は、その場で軽くピョンピョンと飛び跳ねてみる。
山を登ったりホオグロ鳥と戦ったり、模擬戦で能力を使ったりとゲームならば、体力と魔力を消費していそうなくらい密度のある1日だったけれど、模擬戦の後に感じた疲労感はもう全く感じなかった。
そういえば、この世界での魔力回復の手段についても僕は知らない。
魔力保有量についてたまに話題にあがるから人によって多い少ないとかもあるだろう。それ以前に自分の魔力総量さえ知らないって自分では頑張って勉強して疑問に思ったことは積極的に質問しているつもりだったけれど、基本中の基本をすっかり失念していた。
今度、能力系の講義があったら質問してみよう。
「そっか。じゃあ、帰ろうか。マキちゃんが夜食を待ちわびてるだろうしね」
「そうですね。マキちゃんは食いしん坊ですよね」
「あはは。違いない」
結局、僕は松田さんに異端のことを告白することはなかった。
いつかは打ち明けるかもしれないけれど、それにはもう少し自分自身に自信がついて、その上で松田さんという人をもっと知ってからでも遅くない。
もっと親しくなってから必要だと感じたら打ち明けよう。
良さんだって、他の人も、ラズリィーもまだ知り合ったばかりでお互いが手探りだ。
慌てる必要はない。僕はこの世界で生きていくのだから。
日付が変わる前にコテージになんとか帰り着くとマキちゃんが玄関で丸くなって眠っていた。
どうやら僕たちを待っている間に眠ってしまったようだ。
「ただいま」
声をかけても熟睡しているようで全く起きる気配がない。
「マキちゃーん、ご飯だよ」
松田さんが小さな声で言うとマキちゃんの耳がピクリと動いて、
「ご飯!食べる!」
ササッと立ち上がった。
凄まじい食欲だ。
「ただいま。暮さんがデザートも作ってくれたよ」
そういって持っていた袋を見せると、
「マキ!お茶いれてくる!」
とキッチンへダッシュしていった。
呆気にとられているとキッチンの方から、
「フブキ、松田、おかえりー!」
と声が聞こえてきた。
うん、それは最初に言って欲しかったね。




