模擬戦 再び 3
僕は槍を構えて実篤さんを見据える。
実篤さんから動くつもりはないようだ。恐らく、自分から動いて早々に終わらせるつもりはなく僕がどのくらい動けるのが観察しようとしているのだろう。それは、僕が脅威だからではなく、子供が九九をどのくらい覚えたのかな?くらいの興味だろう。
完全に舐められている。
でも、それならそれで最初から自分の持てる最大火力でいかせてもらいます。
槍を持つ手に能力を通す。最初は無我夢中で発動した。しかし、ゲームでは一番身近でイメージしやすかったが故に制御に最も時間のかからなかった能力。
あれだけ身軽で戦闘慣れしている上に俊成さんにも本気でやっていいと言われたのだから遠慮はしない。昼間、刀を突きつけられて怖かった僕の気持ちを思い知れ!
槍の先端から実篤さんに向けて今出来る最大出力で最高速度で能力を放った。
ゴォォォォォォ!
昼間の焼き鳥の刑とは比べ物にならない大きな炎の矢が実篤さんに向かっていく。
「うわっテメエ!」
炎のせいで僕からは見えなくなっている方向から実篤さんの声が聞こえた。
でも、まだ声に余裕がある。身軽な実篤さんなら回避は難しくないはずだ。
だからこそ僕はこうする!
再度、同じくらいのイメージ力を固める。
横から飛んでいく炎の矢とは相反するもの。
冷たく硬く、なによりも鋭く研ぎ澄まされた完全に透明な氷の槍。
それを実篤さんが居るだろう場所に。回避して多少動いても避けきれない程の数と範囲で上から叩き込む。
カシャァァァァン!
着弾した大量の氷の槍が最初に放った炎をかき消していく。
どうだ!?
一撃くらいは当たって欲しいと祈りをこめて前方に目を凝らすと、実篤さんはじっとたたずんでいた。
その周囲には見えないけれど空気の膜のようなモノが張り巡らされていて、膜に触れた氷の槍はキィィンと鋭い音を立てて砕けた。
「おう、ガキ、やってくれるじゃねえか」
それでも槍は当たったようで実篤さんは額から伝って流れる鮮血を手で拭うと今までで一番獰猛な笑顔でこちらをみた。
ヤバイ。殺される。
本能的な恐怖と、自分が相手を傷つけた確たる証拠を見て急に臆病な感情が湧いてくる。
やっぱり、素直に普通に槍で立ち向かって一発殴られておくべきだった?
でも、でも、ちょっと悔しかったし、みんな強いからこれくらいなら平気かなって思っちゃったわけで。僕は槍を握り締めたまま後ずさる。
「そんだけやれるなら遠慮はしないぞ!」
実篤さんがこちらに向かって走り出すのが見えた。
逃げよう!逃げたい!
しかし、足が動かなかった。
僕はギュッと目を瞑る。
怖くて足が動かない。動けないから、抵抗しないので一発で終わらせてもらいたいっ。
「はい、そこまで」
暮さんの声がして恐る恐る目を開けると実篤さんが暮さんに腕をつかまれていた。
「止めんなよ」
「駄目だ。笈川君の氷を普通に回避しきれてない時点で君の負けだ」
「チッ」
実篤さんがつかまれていた腕を忌々しげに振り払う。
「あー、しゃーねえな。まさか、こんな火力出せるとは思わなくて油断したわ」
「戦う時に頭に血が上りやすいのを克服しないと、笈川君だって本気で命を狙われたら加減出来ないだろうからね」
「なんだよ、そいつ、それでまだ上限じゃねーのかよ。コエーな」
「あのっ今ので精一杯ですっ。怪我させちゃってごめんなさいっ」
僕は慌てて実篤さんに頭を下げた。
「別に、こんくらい日常茶飯事だよ。気にスンナ」
そういって実篤さんが乱暴に頭を撫でてきた。
なんだろう、この世界に来てから成人男性に頭を撫でられる回数が極端に多い気がする。撫でやすい頭の形なんだろうか。
「今は、それだけだろうけれど、修練をすればまだ精度を上げられるよ。精進しなさい」
暮さんが優しく声をかけてくれた。
「はい!がんばります!」
飾りのない、特別褒めてもらえたわけでもないセリフだったけれど、声音の優しさが無性に嬉しくて大きな声で返事をした。
「いやー、本当に思ったよりやるねえ。実篤が能力使ってるの見たの何年ぶりだろう」
「チッうるせーよ、オヤジ」
俊成さんが小さな拍手をペチペチしながら近付いてきた。
「能力?」
「実篤くんの周囲に膜のようなモノが見えたろう?風の能力だよ。風を使って防御膜を展開したんだ」
首を傾げた僕に松田さんが教えてくれる。
あの空気の膜は風の能力だったようだ。
「中院一族は風属性が出やすいからね。今後のためにも風の能力対策の勉強もするといいよ。実篤くんが闇討ちしてくるかもしれない」
「しねーよ。やるなら正面からいくわ、ボケ松田!」
「アハハハ、だよねー。知ってた」
憤慨する実篤さんとカラカラと笑う松田さん。
このやり取りだけで実篤さんから感じていたピリピリするような雰囲気が解消されていったのがわかった。言葉だけで実篤さんから戦闘意志を刈り取った松田さんの手腕に驚かされる。
「さて、次は私かな?」
暮さんが実篤さんへ声をかけた。
暮さんの戦いは迷宮での一撃必殺しか見ていないので対人戦、おそらく手加減しているだろう戦い方を見れるのかと期待したら、
「もー今日はいい。マキにも踏まれるし、コイツにもしてやられるし。腹減った。何か食べたい」
と、実篤さんが不貞腐れたように言った。後半の言い分はマキちゃんを彷彿とさせる。
「そうかい。なら、軽く何か作ろうか。ついでに夜食分も作るからマキちゃんに持って行ってあげるといいよ」
「それは助かります」
「あ、暮さん。俺にも何か甘いモノを!」
年長組みが和気藹々と館へ戻っていく。
僕も慌てて槍をしまって追いかける。
よかった。なんとか乗り切った。
安堵のため息と共に一気に脱力感を感じた。
緊張と意識してあそこまで大きな能力を連続使用したせいだろう。倒れるほどではなかったけれど、模擬戦の度に疲弊していてはいざ、有事の時に戦えないかもしれない。この辺りも今後の課題だろう。迷宮の階層が深くなればその分、難易度も上がっていく。まだまだ訓練の余地はある。僕がそんな1人反省会をしている間に暮さんがプチカップケーキを焼いてくれた。
とても美味しかったけれど、心の奥の方でマキちゃんの「ズルイー!」という悲鳴が聞こえてきたので持ち帰りに幾つか包んでもらった。




