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僕の異世界(?)見聞録  作者: ナカマヒロ
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言い訳

 僕が料理に集中し始めると退屈したのか俊成さんは台所を出ていった。

 しばらくしてスープの材料を煮込みながらサラダになるようなものはないだろうか、と冷蔵庫を物色していると暮さんがやってきた。

 迷宮ダンジョンで会った時のラフな服装と違って今日はスーツ姿だった。スーツの値段には無縁の僕でも明確にわかるほど良い仕立てのものだった。初めて会った日にどこかの社長さんみたいだなという感想がより強く感じられる。


 「こんばんは」

 「こんばんは、笈川君も一緒だったんだね」

 「はい。一緒に山へ行ってたんです」

 「そうか。松田さんは?」

 「松田さんは鳥の血抜きに行きました」

 「そうか。じゃあ、それは任せるとしようか。メインはホオグロ鳥だったよね?」

 「そうです。で、一応、スープを作ったんですけど」


 僕が鍋を指差すと暮さんは鍋を覗き込んだ後、


 「後は、付け合せとサラダ、デザートかな。笈川君は何が作れる?」

 「え、と、今、サラダを作ろうかなと思ってたところです」

 「そうか。じゃあ、私は先にデザートの用意をしようかな」


 そういって暮さんがスーツの上着を脱いでワイシャツの袖を捲くった。そうしてすぐに手を洗って迷うことなく作業を開始する。僕も負けないように野菜をむしって何とかサラダの体裁を整える。

 しかし、この世界での食事は日本の食事に比べてデザートが出る確率が高いな、と思う。

 この世界と限定するのはまだ早いのかな?少なくとも黒の領地の人はデザートを好んで食べる傾向があるようだ、と思っておくべきだろうか。暮さんの流れるような作業に感心しながらそんなことを考えていると松田さんとマキちゃんが戻ってきた。


 「笈川くん、おまたせー。あ、暮さん。すみません、急にお願いしてしまって」

 「構わないよ。丁度、夏のデザートを考えていた所だったからね。試食してもらっていいかな?」

 「それは光栄です」

 「ヤッター!」


 デザートの仕込みが終わってホオグロ鳥の解体と調理に取り掛かった暮さんを見ながら松田さんに小声で質問する。


 「暮さんってパテシィエか何かなんですか?」

 「うん?デザートの話か。違うよ。趣味で喫茶店をやっていて、そこの季節メニューの話だよ。普段は会社の社長さんだよ」

 「わあ。すごいですね」


 思わず感嘆の声を上げる。

 改めて自分の周囲の人は色々凄いなと思う。この上流階級といえる人々と交流できているという点だけでいえば異世界モノのテンプレ通りだ。ただし、ヒロインは不在です。先程、俊成さんと恋愛の話をしたせいか普段よりも明確に自分の周囲の男性率を意識した。

 王族や貴族に社長さん、あきらかに年長者の立派な人たちに埋もれているこの状況で自分の能力スキルさえ制御しきれてない僕は、恋愛に夢を馳せるよりもまず、自分を磨くべきだと思う。

 周囲の大人たちと対等に並べるようになれば良い出会いは自然とくるはずだ。自分を磨くこともせずに誰かに選ばれたいなんて傲慢だろう。





 暮さんや松田さんに指示されるがまま調理を手伝っている間に実篤さんがホオグロ鳥を配り終えて戻ってきた。台所に顔を出して開口一番、


 「暮、何してんの?」


 実際に実力のほどを確かめたわけではないけれど、恐らく上位者である暮さんに向かって実篤さんの乱暴な口調に僕は背筋に緊張が走った。


 「やあ、実篤君。おじゃましてるよ。松田さんに頼まれて料理を手伝いにきたんだよ」


 僕の緊張とは裏腹に暮さんは穏やかに応じる。大人のスルー力なんだろうか。


 「ふーん。それ終わったら遊んでくれよ」

 「食後ならいいよ。皆、お腹空かせているだろうからね」

 「そうだな。それでいいわ。ついでに松田もさっきの続きしようぜ」

 「それはいいけど、笈川くんには刺激が強いから刀はナシでお願いするよ」


 松田さんがアッサリと再戦を了承する。刀のあるなしは問題じゃないような気がするのだけれど。

 実篤さんはチラリと僕の方をみて、


 「コイツ、さっきさぁ、槍で攻撃してなかった?」


 ドキリ。

 僕は嫌な予感がして唇を軽く噛んだ。


 「補助アイテムだよ」


 松田さんが補足する。


 「あれって魔力発動用だよなあ。コイツ、見た感じ氷の能力スキル持ちっぽいけど、ホオグロ鳥が焼けてたのは何で?」


 どうやら実篤さんが村へおすそ分けした中にも丸焼きの刑にしたホオグロ鳥が混ざっていたようだ。

 松田さんも暮さんもいるこの状況で質問されるとは、一番最悪なパターンな気がする。

 さて、どうする。

 はぐらかすと納得するまで攻撃してきそうな気がする。

 かといって暮さんの前で異端ディザスターの話題は避けたい。

 松田さんには氷の能力スキルのことしか話していなかったわけで。


 ええい、もう腹をくくるしかないか。


 「僕もよくわからないんですけど、火の能力スキルも使えるみたいなんですよ」


 嘘は言っていない。

 そもそも、自分に能力スキルがあることさえ、この世界にくるまでは知らなかったのだから。


 「へー。氷と火って珍しい組み合わせだな。対比型の異能ギフトかな。何の役に立つんだ?それ?」


 実篤さんは素直に言葉通りに受け取ってくれたようだ。行間を読むというか、他人の思惑について深く考えない性格のようだ。さすが戦闘狂?異能ギフトだと思ってもらえたのは幸運だった。


 「さあ?僕にもよくわからないですね。自分の意思で自在に使えるわけでもないですし」

 「ふーん。だから、松田が子守してるのか」


 実篤さんは勝手に納得してくれたようだ。確かにこの場所では一番若いけれど子守といわれるほど幼くはないよ!と苦情を言いたいけれど面倒なことになりそうだからのみ込んだ。

 松田さんと暮さんも特に何か言ってくる様子はない。

 これは、誤魔化せた?

 そうだよね、2種類の属性までなら異能ギフトってことに出来るみたいだ、そういう人はそれなりに存在しているようだし、普段から人前では氷と火だけ使うようにすれば今後も何とかやっていけそうな気がする。

 ただ、暮さんは王城の部屋で属性獣である柴犬たちを見ているので本当は気が付いているのだろうな、と思う。でも、こちらから話題を出したりしなければ見逃してくれるようだ。藪は突くまい。

 なんとか焼き鳥の言い訳をすませたことで安堵していた僕に向かって実篤さんが、


 「じゃあ、後でお前も遊ぼうぜ。補助アイテム使っていいし、全力でこいよ」


 と、女性なら腰を抜かしそうな爽やかな笑顔で言った。

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