フォロワーツ村 2
昼食後はフォロワーツ村を散策してコテージに戻る予定だ。
ラズリィーは、明日は蒼記さんと出掛ける予定があると本宅へ戻っていった。彼女が去った後、松田さんから『明日山に行くから予定いれてもらったよ』と言われた。こちらの登山の予定で会えないのではなく、蒼記さんの予定で会えない方が彼女も納得しやすいだろうから、と。いつの間にそんな計画を立てられていたのか、僕は全く気が付かなかった。これが大人というものだろうか。
釣れた魚には、すぐ食べても問題ないものと、日を置いて泥を吐かせなければならないものがいるらしく、松田さんに教えられながらクーラーボックスの中身を選別した。釣竿のしまい方も習う。実の父親とこういう時間を過ごしたことがなかったけれど(主に僕の体質のせいで)松田さんと過ごすこの穏やかな時間が楽しい。
「せっかくだから、今夜はこの魚を食べようか」
「マキ、食べるー!」
「あ、僕、魚を料理したことないです」
料理初心者に魚は難易度が高い。勿論、肉だって自分で解体からやれと言われたら無理なわけだけれど。
「ああ、そういえば自炊の練習中だったね。俺もどちらかというと食べる方が得意だけどね。一緒に頑張ろうか」
「はい」
「たまにはこういうのもいいねえ」
松田さんがしみじみしている。
「松田さんは家で自炊しないんですか?」
「うーん、働いていた時は外食が多かったし、今は同居人がほとんどやってくれるからねえ」
「同居人?」
普通、家族のことを同居人とはあまり表現しないだろう。それでも言葉の響きから松田さんが相手に不快な想いをしていないことは感じ取れた。
「甥と住んでるんだよ」
「あれ、じゃあ、僕の相手をするために留守にしちゃ不味かったんじゃ・・・」
「大丈夫。あの子も県外だ海外だーって外泊が多いから」
「そうなんですか」
松田さんの甥っこさんってことはまだ現役世代だろう。そんなに色んな場所に行くなんて随分と忙しい仕事をしているのだな、と思った。
「早く戻って魚食べよー」
マキちゃんが尻尾をブンブンと振りながら急かしてくる。その背中には器用に魚の入ったクーラーボックスが背負われている。
「そうだねえ。折角、フォロワーツ村まで来たのだから米を分けて貰おうかな」
「お米?」
「そうだよ、ここの米のお米は美味しいよ」
ここは有名なお米の産地の一つで、ついでに米で作られたお酒でも有名らしい。当然だけど、僕はお酒には詳しくない。お米=米焼酎?くらいしか思い浮かばない。興味はある、でも飲酒すると身体が火照ったりするんでしょ?(漫画で得た知識)だから、未成年だからという理由ではなく仕方なく避けていた部分もある。これからは機会があれば挑戦してみてもいいかもしれない。少なくとも食前酒は美味しく飲めたのだから下戸ってわけでもないだろう。
僕が格好良くお酒を嗜む未来に想いを馳せている間に松田さんが出会った村人と交渉してお米を分けてもらっていた。
流れるような自然な交渉スキル、これが大人の包容力。カッコイイ!
コテージに向かって歩きながら、
「松田さんは、堂々としてて格好いいですね」
「うん?それはありがとう。長い間、営業生活だったからね、人と話すのは嫌いじゃないかな」
この世に数多のサラリーマンの営業さんが存在していても、その全てが人慣れしているわけだと勘違いしてはいけないと思う。実は、僕の父親も営業畑だったけれど、割と頻繁に取引先の愚痴とかあの言い方間違えたと頭を抱えているところを見てきた。これは、本人の弛まぬ努力の結果なのか、はたまた天然の愛されキャラなのか。計算で行動しているような人には見えないけれど、本当の所は本人にしかわからないものなのだろう。誰だって何かしら抱えて本人なりには努力しているはずだ。他人から見たら僕なんか頼りない貧弱な子供なのだろうけれど、これでも僕なりには努力しているんだよ?
「さて、お米も手に入ったし暗くなる前に帰ろうか。明日は山に入るし、早めに眠らないとね」
「そうですね」
空を見上げると山に日が隠れようとしている。さすがに平地と違って日が暮れるのが少し早いみたいだ。僕たちはコテージへと急いだ。
コテージに到着した後、僕とマキちゃんの部屋の間、1つだけ空き部屋になっていた部屋に松田さんに泊まってもらうことにした。彼が自分の部屋を確認に2階へ上がっている間にまずお米を洗って炊飯器にセットする。もしかしたら日本とは洗い方や水加減が違うかもしれないが、そこは文明の利器、炊飯器先生がなんとなく良い感じに仕上げてくれることを期待する。
その後、魚をクーラーボックスから取り出してシンクの中で水洗いする。手頃そうな大きさの魚を1匹まな板にのせてみる。
確か、ウロコを取るんだよね?
料理教本に書いてあった内容を思い出しながら慎重に包丁の背でウロコを落としてみる。最初は力加減がわからなくて多少不恰好に身が引き攣れたりもしたが、初めてにしては良く出来た方だと自分を褒めていると松田さんが降りてきた。
「お、早速やってるね。じゃあ、俺は他のオカズでも作ろうかね」
と、まな板と僕を見た後、冷蔵庫を開けて材料の物色を始めた。
1人ならば充分な広さのある台所だけれど、体格の良い松田さんと男2人だと手狭に感じなくはなかったけれど、楽しい。時々、お互いに調理過程を見せながら、ああでもないこうでもないと台所で奮闘していると不思議な充実感を感じた。思えば、いつも誰かが作ってくれた料理を待つ役で、母親の料理の手伝いもしたことがなかった。
一緒にやってみたらよかったな。
今更どうしようもない後悔を少し感じながらも、僕と松田さんは夕食の用意に全力を尽くした。
え?マキちゃん?リビングのソファーの上で丸くなってるんじゃないかな?
その日の夕食は、男だけだけの、若干不恰好な料理がテーブルに並んだけれど、この世界にきて一番のご馳走に僕は思えた。




