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僕の異世界(?)見聞録  作者: ナカマヒロ
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フォロワーツ村 1

 翌朝、マキちゃんが合流するのを待ってからフォロワーツ村へ出発した。


 「マキ、魚もスキ!」


 マキちゃんは尻尾をフリフリ上機嫌で僕たちの数歩前を歩いている。中院家本宅は山頂近くなので必然的に山を下りている。迂闊に歩くスピードを上げると膝がガクガクしてしまいそうだ。マキちゃんは元気一杯でダウンしていたというのを聞いていなければいつもと全く変わらないように見える。それでも、急激に動いたら良くないのはないかと思うのだけれど、本人は魚一色で僕の心配は気に留めていないようだ。

 1時間くらい山道を歩くと拓けた場所に出てポツリポツリと木で出来た家が数軒見えてくる。

 フォロワーツ村は、湖の畔にある村で、公爵領に届ける魚と湖から流れる澄んだ水で作られる農作物や酒造の村らしい。長い村の名前はロゼ村のように略されそうになったこともあったが、良い略名が浮かばないと保留にされている間に領主が代替わりし、名称を変えることなく現在に残ったらしい。

 湖のすぐ近くにある木陰で一旦、休憩をすることになった。

 持って来たレジャーシートを敷いて、その上にお弁当等の荷物を置く。さすがにラズリィーは山道を下山するのは堪えたのか座って水筒からお茶を入れて一息ついている。

 マキちゃんは釣りスポットを探してくる!と飛び出して行って、僕は松田さんと一緒に釣竿の用意をする。


 「この湖は浅瀬が少なくないから湖岸からでも充分に釣れるけれど、ボートにするかい?」

 「うーん。ボートの上はちょっと不安ですね」


 陸ならどれだけ踏ん張ろうと歩き回ろうと陸だけれど、ボートの上ではあまり動くと湖に落ちる危険性がある。テレビで見たことのある釣り番組では釣竿がかなりしなっていて釣り人が踏ん張っているのを度々目にした。実際のところ、魚の大きさでも引きは違うのだろうけれど、自分の腕力に自信がないので引っ張られて湖にドボンとなりそうだな、と思った。


 「まあ、実際にやってみてからにしようか。ボートは後で彼女とゆっくり乗ってもいいしね」


 と、松田さんがラズリィーの方に目をやる。

 確かに、男たちが釣りをしているのを見ているだけではラズリィーも退屈だろう。後でボートに乗ってみるのも良いかもしれない。


 「まあ、竿はこんなものかな」


 松田さんに言われるがまま釣竿を組み立てて確認してもらう。この釣竿はこちらの世界の物ではなく、松田さんが日本の自宅から持って来た物だ。こうやって日本産の物を見ると自分が本当に異世界にいるのか自信が持てなくなる。実際、一緒にいる松田さんが日本人であることも関係しているだろう。


 「フブキー!はやくー!」


 遠くから小さくなって標準の猫くらいの大きさに見えるマキちゃんの声が響いてくる。


 うん、異世界だった。


 「お待ちかねだ。行こうか」

 「はい。ラズさんはどうする?」

 「私は少しここで休憩してるわ。がんばってね」


 ラズリィーは、思ったよりも疲れたようだ。松田さんと2人で釣具を持ってマキちゃんの方へ歩き出した。





 松田さんに投げ釣りのやり方を教えてもらいながら奮闘すること2時間弱。

 小さいながらも4匹の釣果を得た。

 釣った魚をクーラーボックスに入れて少し休憩する。


 「思ってたよりも魚の引きって強いですね」


 強い力で引っ張られて、これは大物か!と思っても実際に釣り上げると思っていた程の大きさはなかった。やはり水中は魚の住処であり、その場に住む者が釣り上げられまいと渾身の抵抗をすればそれなりのパワーを発揮するのだろう。


 「コツがわかってくればもう少し楽にあげれるようになるよ」


 と、松田さんはのんびりと釣竿を構えている。

 コツ云々以前に、どっしりと大地に足を下ろしている松田さんが魚の引きに引き寄せられるどころか、後退するところも一度も見ていない。恐ろしいほどの安定感。そして包容力。

 お父さんは揺るがない。

 マキちゃんは、暫くは僕たちの釣りを眺めていたり、僕から釣竿を奪ってみたりしていたけれど、今は遠く沖の方へ行って姿が見えない。時々、魚を咥えて湖面から上がってくる。釣りというよりも狩猟だ。

 ラズリィーは、木陰から動かないなと思っていたら、どうやら眠っているようだった。

 ただ見ているだけでは退屈だろうから昼食まではそっとしておくつもりだ。

 春の終わり、初夏へ向かう陽射しは日に日に強くなっていく。

 夏の祭典は、白の領地で行われるらしい。

 その時が、僕が初めて黒の領地の外へ行く時だ。今までは、良さんの庇護下でゆっくりとやってきたけれど、白の領地は礼儀作法にも厳しいと聞いている。上手くやっていけるだろうか。


 「松田さんからみて、白の領地はどんなところですか?」

 「ん?そうだねえ」


 松田さんは釣竿をユラユラと揺らしながら、


 「笈川くんは、職員室へ行ったことがあるだろう?」

 「学校のですか?それは何度か。日直の時とかに」

 「元気よく挨拶。目上の人の話はちゃんと聞く。それくらいで充分だよ。人としての礼節をわきまえていれば、あそこが良くも悪くも日本的だ。政治家の話は曖昧に笑って誤魔化しておけばいいよ」


 日本的。


 議会制民主主義という政治形態からも確かに黒の領地よりは日本的なのかもしれない。黒の領地が緩すぎるともいえる。


 「今の白の議会代表、あー、日本でいう総理大臣みたいな役職の人が、ちょっと堅物で融通の利かないタイプだから自分1人の時に結論を求められたら後程、って誤魔化して良さんに丸投げでいいと思うよ」

 「丸投げって・・・。そういえば、松田さんは、良さんのことを真王陛下って呼んだり名前で呼んだりしますね」

 「あー、他の人がいる場所では一応ね。良さんとは長い付き合いだし、本人の目の前では名前で呼ぶかな」

 「あ、僕も会ってすぐ、名前で呼ぶように言われました」

 「でしょ?まあ、大人の世界には建前ってものがあったりするんだよ」


 松田さんは苦笑していた。

 良さんはその建前をあっさり飛び越えて懐に殴りこんでくる感じだけどね。

 その後は、マキちゃんが空腹に負けて陸に上がってくるまでは松田さんと釣りをしながら良さんの数々の伝説を聞いた。


 聞いてはいけない話も聞いてしまった気がするけれど、これまでの甲斐さんの心労を思うと思わず合掌してしまいたいほどだった。本当に、お疲れ様です。


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