再出発と新しい旅の仲間
午後1時、僕は城下町の役所に向かって歩いている。
翌日の朝にはすっかり微熱も引いて体調は元に戻った。
だけど、甲斐さんにもう一日は能力を使ってはいけないよ、と念を押された。
マキちゃんが瞬間移動で迎えにくる案もあがったけれど、瞬間移動の不発の負担でダウンした後なので転送陣の方が良いだろうと結論が出て、僕は城下町の役所の転送陣を借りて移動することになった。
「良ちゃん、お見送りするねー」
と、良さんが心配する甲斐さんから僕を役所に連れて行く役を取り上げて今、僕の横を歩いている。
「甲斐はー、身体は大きいのに気が小さいからねー。心配しすぎだよ。良ちゃんなんか、吹雪くんの歳には家出して嫁さん見つけて帰ってきたくらいだよー」
「え、王族が家出していいんですか?」
「んー。あとで爺に怒られたわー。まー、子供は押さえつけても仕方ないよねー。上からガミガミ言われたら反抗したくなっちゃうじゃない?」
「あー、まあ、そうですね」
良さんはいつでも飛びぬけている。
王族が家出した上に、勝手にお嫁さん連れて帰ってきたら、それはそれは家臣の皆様は気が気じゃなかっただろう。甲斐さんの心配性の一部は良さんが原因な気がする。
「だからね、吹雪君も、自分の思うようにやっていいんだよ。まあ、あまりに目に余ったら強制的に本気で力づくで止めるからね?」
「そんなに心配されるほどのことはしませんよ」
今の自分の実力で元魔王様の本気をぶつけられたら何回か死ぬかもしれない。出来れば、一度も死にたくない。そういえば、甲斐さんとは訓練で何度か手合わせ(といっても手加減してもらってる)したけれど、良さんとは一度も戦ったことはなかったな、と思い出した。
「今度、いつでもいいんで、訓練につきあってもらってもいいですか?」
「うん?いいよぉ。そういえば、立野さんから宝剣見せてあげてって言われてたわー。良ちゃんに勝ったらご褒美に宝物殿につれていってあげるよー」
宝剣。
そういえば、アルクスアの工場でそんな話をしたな。
魔王城の宝物殿、どんなお宝があるんだろう。
「是非、よろしくおねがいします」
「りょーかい」
そんな会話をしていたら役所の建物が見えてきた。
「あ、そうそう。言い忘れてた」
良さんが手を左手の平にポンっと拳をのせながら、
「甲斐が、マキちゃんだけじゃ心配だってしつこいから引率を1人増やしました」
「え、と。そんなに心配しなくてもロゼ村は平和そうでしたよ?」
アルクスアのような大都市なわけでもなく、今回の騒動は、自分の限界の見極めを見誤った僕の落ち度でしかないのだが、甲斐さんを心配させてしまったようだ。
良さんも、そうなんだよね、といいながら、
「甲斐が自分が行くって言い出しかねないから、とりあえず、無難な人にしておいたから。確か、吹雪君もアルクスアで顔を合わせてるはずだよ?」
と、役所の前を指差した。
そこに居たのは、
「お父さん」
「クッ、アハッ、アハハハハ!」
思わず口から出たセリフに自分で驚くよりも早く良さんが盛大に笑った。僕の背中をバシバシ叩いて大爆笑である。お父さんと言われた本人は苦笑を浮かべている。僕は、穴があったら入りたい。きっと顔は真っ赤だろう。
お父さん、と呼ばれた松田さんは、
「良さん、そんなに笑っちゃ笈川くんが可哀想だよ」
「いや、うん。ゴメンゴメン。松田さんは一体、何人のお父さんになれば気がすむのかなあ、アハハ」
まだ、笑いが収まりきっていないようで額に手をやって全身が小刻みに震えている。
「あの、ごめんなさいっ。無意識でっついっ」
授業中に寝ぼけて先生を『お母さん』って呼んだという小話を聞いたことはあったけれど、まさか自分がやってしまうとは思わなかった。それほど、アルクスアでの松田さんのイメージが強かったということだろうか。
「気にしなくていいよ。わりとよくあるんだ」
松田さんは気分を害している風もない。それどころか、よくあることらしい。違和感はない。納得だ。
「あー、久々にヒットしたわ。そんなわけで、松田さんに引率を頼みました」
笑いの収まってきた良さんに改めて松田さんを紹介される。
「改めまして。松田です。よろしくね」
「こちらこそ、よろしくおねがいします」
僕と松田さんはお互いに頭を下げあった。3人で役所の中に入って転送陣の間まで行く。
転送陣っと名称だけ聞くと床に大きな魔方陣が描かれていそうなイメージだったけれど、シンプルに丸いお立ち台は1つあるだけの部屋だった。そこに乗った人を特定の位置へ転送する制御盤は他の部屋にあるらしい。この辺りも迷宮の転送陣とは違う。あちらが神の遺産ならば、こちらは異世界人の科学。魔法ではなく科学で稼動しているなんて、この世界の技術は本当に凄い。
「じゃあ、松田さんよろしくね。吹雪君も無理しない程度に楽しんでおいでー」
「はい、任されました。いってきます」
「いってきます」
挨拶もそこそこに転送陣が起動して一瞬、周囲が眩しく感じて目を閉じて開いたら移動が完了していた。瞬間移動が上へ引っ張られるような感覚なのと違って転送陣は全身を霧に飲み込まれたような感覚がした。迷宮の転送陣は何も感覚を伴わなかったので、その辺りも何か意味があるのだろう。
「吹雪さん!」
眩しさと見慣れない部屋に気をとられていると、部屋の扉が開いてラズリィーが飛び込んできてギュッと抱きしめられた。
「よかった!よかった!」
柔らかく暖かい感触を主に前半身に感じる。
女の子ってふわふわだー、と想像していた以上の柔らかい女性の感触にぼんやりと身を委ねていると、
「ラズ、そんなに飛びついたら笈川君が動けないよ」
「あっ、きゃっごめんなさいっ」
後ろからやってきた蒼記さんに声をかけられて我にかえったラズリィーは顔を赤くして飛びのいた。
「おかえり、ここはボクの家の離れだよ。松田さんも、お久しぶり」
「蒼記くん、お久しぶり。ラズリィーさんも、お元気そうでなによりです」
「ただいま。あの、この度はお騒がせしましたっ」
僕は2人に頭を下げた。
「気にしないで、と言いたいところだけど、ラズリィーが心配して大変だったんだからね?その分は貸しにしとくよ?」
「蒼記様っもうっ!」
悪戯っ子のような微笑を浮かべた蒼記さんにラズリィーがプウッと頬を膨らませる。その様子をみているとやっと戻ってきたという実感が出てきた。
しかし、貸しか。返せる日がくるんだろうか。
「うん。ご心配おかけしました。ラズさんも、ごめんね?」
「まあ、そのくらいにして場所をかえようか。いつまでも立ち話していても疲れるだけだし」
蒼記さんに促されて歩きだしてから違和感に気がついた。
「そういえば、マキちゃんはどうしているの?」




