王都への道筋
朝食は、焼き魚定食でした。
お米(間違いなく米)
魚(鯖と鰯の中間のような味)
漬物(コリコリした大根のような食感。薄紅色)
出し巻き卵(濃厚な味)
汁物(澄し汁。味噌ではなかった)
素材は多少、違いがあっても、普段、家事は皿洗い程度の男子高校生からすれば、普通に日本の朝食でした。
マキちゃんは、器用に箸で魚の身を解して食べていました。
食文化が、普通過ぎて、僕の中で、異世界要素はもはや、マキちゃんが猫ではなかったら、大掛かりなドッキリレベルな程度だ。
夕食、朝食と、普通(女子力は高かったけれど)だったので、知らない土地への不安感が薄れている気がする。
もう、昼には、家に帰って日常に戻っててもいいくらいに平穏だ。
元々、体質のせいで、外で遊んだ経験も少なくて、安全な箱入り息子だった僕の、錆付いた野生などはアテにならない。油断してはいけない。
魔王への生贄にされるかも、くらいの気持ちでいないと!
決意を新たにしながら、マキちゃんの毛並みを撫でてマッタリしたり、取り留めのない会話をして過ごしていると、甲斐さんが訪問してきた。
昨日とは違って、リボンタイをして、紺色のシックなスーツ姿でした。
普通にサラリーマンっぽいです。
ぽいだけで、襟の部分にエンブレムのような飾りが幾つかついていて、日本の会社員とは微妙な違いがある。
「一応、王都に行くから、普段着ってわけにはいかないよ」
と、甲斐さんが僕にも着替えるように促してきた。
僕の体質を考慮して上着は半袖。でも、下は、黒いシンプルなパンツだった。
家着の半ズボンってわけにはいかないから、仕方ないよね。
マキちゃんは、自前の毛皮オンリーだった。
よく考えたら、これって全裸扱いなのかな・・・?
王都への道は、馬車だった。
着替えて、家を出たら、白い馬二頭と映画でみたことがある人が乗れる箱(正式な名称を知らない)と御者さんがいた。
中は思ったより広くて、電車の向かい合わせの席みたいに、前方にマキちゃんが寝そべり、僕が後方右側、甲斐さんがその隣に座った。
本当は、他にも移動手段があるが、僕に土地勘がないことと、道中に今日の予定などを話す為に馬車を選択したそうだ。
「とりあえず、吹雪君に、これを」
甲斐さんが、小さな銀色の10センチくらいの輪を差し出してきた。
受け取って裏表確認しても、なんの変哲もない輪だった。硬いけれど、重さは全く感じないくらい軽い。
「王都は、ここよりは気温が高いから、それを身に着けておくといいよ」
「え、どのくらい高いんですか?」
「今日は、10℃くらいじゃないかな。今の日本の気候よりは涼しいだろうけれど」
10℃。
確かに、日本よりは涼しいね。春先くらい?外出は出来るけれど、体育の授業に参加したら汗だくになるくらいだ。
「これって、何ですか?」
「それは、君みたいに、自分の能力が制御できない人や、小さい子供が、制御の勉強をする時に使う補助アイテムだよ。それを身に着けて、自分の状態を思い浮かべてごらん?ここは、暑くない、とか。キチンと集中して発動できれば、夏でも涼しく過ごせるようになるよ」
なんという便利アイテム!
ただし、発動できれば。
王都に着くまでになんとか使いこなしたい!
というか、これが貰って帰れないのかな?
日本円で購入出来たりしないんだろうか。
「それは、あくまで補助アイテムだから、それに頼らずに自分で制御できるようにしようね」
僕の、甘えた願望を、甲斐さんがニッコリと打ち砕いてきた。
努力は大事だよね、うん。
「これ、腕にはめればいいんですか?」
僕は、輪を左手に通してみようとするけれど、少し小さくて入らない。
「腕でも、指でも、君が着けたい場所を考えて、使ってみるようにしてごらん?形が変わるから」
え、これ、変形するんだ。
僕は少し考えて、左手人差し指に指輪をはめるようなつもりで輪を通した。
輪が、すっと指にはまった。
僕は、一度外して、今度は腕輪をイメージする。
大きくなった。
面白くなって大小を繰り返しながら、
「凄い!これって魔法ですか?」
「科学だよ?」
またしてもハイテク。
「初めてで、そこまで柔軟に使いこなせれば、きっとすぐ制御出来るようになるよ。緊急事態には、武器にも変化できるから、ちゃんと身につけておくんだよ?」
「わかりました」
僕は、最初にしたように指輪にして見に着けておく。
さらっと、緊急事態、とか、武器とか言ってたけど、やっぱり覚悟はしておくべきだよね。
魔王の生贄とか?
あ、その場合、甲斐さんが僕に武器を与えたら裏切り行為になるんじゃないかな?
この場合、魔王を倒しにきた勇者・・・は、いないんだった。
まあ、出来るだけ穏便に過ごしたいね。
お昼ご飯は、王都で食べるのかな?
楽しみだなあ、大きい街の食事ってどんなものだろう。
異世界グルメ旅行記を夏休みの自由研究にしたくなってきたね。
そんなことを考えながら、馬車で揺られていく僕だった。