中院公爵家本宅 3
妖精の羽を持つ神魔族。
興味をひかれないといったら嘘になる。
「王都の城下街にも少しいたよね?」
確か、幾つかの種類の羽の生えた種族がいたと思う。
「血統が薄いヤツと羽の美しさが違うぞ!」
「へえ」
羽の美しさの基準がわからないが、多少違うらしい。
「むぅ。フブキは羽にキョーミないか」
「そうは言われても・・・身近に羽の生えた人がいないし」
良さんも甲斐さんもシノハラさんにだって生えてない。
身近にいたら触らせてもらえないかな?くらいは考えると思う。
「フブキ?何を言っている?」
「うん?」
マキちゃんの言葉に首を傾げていると、
「吹雪さん、羽なら魔族の者なら大抵は生えているはずですよ?」
とラズリィーが教えてくれる。
「え?そうなの?見たこと無いけど、小さいの?」
驚いている僕に、
「普段は、使わないから隠しているし、気が付かないのも無理はないかもね」
と、俊成さんが言うとバサッと音がして、その背中に大きな翼を広げた。純白の鳥のような翼だ。
「ええええ。そんなの、どこに収納してたんですかっ」
「体内に?」
しまっていた本人も正確には理解していないらしい。どうやって呼吸しているんですかと問うようなものなのだろう。
「え、じゃあ、良さんや皆さんにもあるんですか?」
「まあ、王族やそれに近い血統の上級魔族なら普通だろうねえ」
僕はもの凄く吃驚した。
蒼記さんが男性だって聞いた時と同じくらい驚いていると思う。
触ってみたいけれど、さすがにそこまで不躾なお願いは出来ない。
「まあ、神魔族の羽が特殊で美しいのは事実だよ」
そう言いながら俊成さんは羽を隠してしまった。残念。後ろがどうなっているのか見てみたかったけれど、座ったままでは確認できなかった。
良さんなら頼めば見せてくれるだろうか。
「そうなんですか」
「ヨシ、フブキ、次は決まりだな!」
「う、うーん。良さんがOKしてくれたらね」
「ヤッター!」
マキちゃんは大喜びだ。
でも、マキちゃん、次の旅もついてきていいの?甲斐さんに駄目って言われたらどうするんだろう。
「おじゃましました」
デザートを食べて世間話をした後、午後9時過ぎに僕とマキちゃんはコテージに帰ることになった。
明日は違う村を見に行くつもりだ。
中院家の皆さんとラズリィーに挨拶をした後、マキちゃんに連れて帰ってもらう。
瞬間移動の練習も忘れずにしなければいけないね。
コテージに戻って昨夜と同じように露天風呂に入っている時にふいに思いついた。
蒼記さんが羽出したら天使みたいじゃない!?
俊成さんの真っ白な鳥の羽のような翼を思い出す。
親戚ならば同じような翼である可能性が高い。その翼を出している蒼記さんを想像してみると、間違いなく神々しい天使の姿そのものではないだろうか。
涼やかに輝く青銀の髪、白い透き通った肌。少女にしかみえない神秘性。
でも、魔族なんだよね。
自分の思いつきに自分で突っ込みを入れる。
この世界の魔族はやっぱり自分の知っている魔族とずれている。
そういえば、魔族がいるのだから天使もいるのだろうか?
気になると確かめずにはいられなくなって手早く入浴を済ませてマキちゃんの部屋へ行く。
「ねぇねぇ、マキちゃん」
「ンニャ?」
ベッドでウトウトしていたらしいマキちゃんが可愛い声を出してこちらを振り返る。
「この世界に天使っているの!?」
「ンニュ・・・テンシ?天使か。いるよ」
「いるんだ!」
さすが異世界。竜だっているんだから何でもアリだよね!
僕が内心で喜びをかみ締めていると、
「オマエ、講義ちゃんと聞いてたか?黒の領民が魔族なんだから、白の領民が天使に決まってるだろ」
呆れたようなマキちゃんの声が聞こえる。
えーと、確か、白は、魔族とは違い、聖なる魔力を持つ民族。あ、本当だ。聖なる魔力を持つってそういうことか。と、いうことは、
「え?ラズリィーって天使だった?」
確かに、あの自愛に満ちた癒しの気配。春を司る巫女姫様だものな。うん、天使に違いない。
「まー、そうなるな。といっても純血の白の民は絶滅寸前だから、落ち人の言う『天使』といえる程の者は余りいない。神聖魔法が得意な民族って感じだな」
「ふーん?純血の白の民だと何か違うの?」
神聖魔法の強さとかだろうか。
「んー、ナンだっけ?純血種だと何か輪っか持ってる」
「輪っか?」
「光っててー頭の上に浮いたりしてるヤツ」
頭の上で浮いていて光る輪、天使の輪のことだろうか。
「それくらいしか知らない。ムツカシイことは甲斐に聞いて。マキ、寝る」
そう言ってマキちゃんはベッドの上で丸まった。
「おやすみなさい」
そう言って自分の部屋へ戻ってベッドに腰掛ける。
天使かぁ。
次は白の領地に行ってみるのもいいなあ。
そう考えて、平島公爵の事を思い出す。遊びにおいで、と言ってくれていたけれど大丈夫だろうか。
日本庭園にも興味はある。良さんも駄目だとは言っていなかったけれど、どうしても平島公爵を信用しきれない自分がいる。中院公爵よりも、彼は危険だと思う。特に何かされたわけでもないのに。
そうだ。
明日、ラズリィーに聞いてみよう。
自分の出身地のことだから知っていることも多いだろう。
色々、知りたいこと、やりたいことが増えて頭が冴えてきて眠れそうにない。
少し、実験でもしようかな。
僕は風呂上りに着ていた寝巻きを脱いでTシャツと半ズボンをはくと外に出た。
確か、瞬間移動の時、身体というか精神が上に引っ張られるような感覚があったな。
目を閉じて、王城の自分の部屋を思い出してみる。
柴犬たちは良い子でお留守番しているかな?
頭の中で出来るだけ正確に部屋のことを思い出す。
行く。
僕は、部屋へ行く。
ふわっと身体に浮遊感を感じた後に目を開けると、真っ暗な部屋の中にいた。
「クゥーン?」
柴犬たちが近寄ってきて手の平を舐めたり靴の匂いをかいでいる。
「ただい、ま?おお、出来た!って靴っ」
僕は慌てて靴を脱いだ。
一度で成功出来た。やはりイメージ力は大切なようだ。
ひとしきり喜びをかみ締めながら柴犬たちを戯れてコテージに戻ろうとしてつまづいた。
戻れない。
慣れ親しんだ王都の自分の部屋だから成功出来ただけで、昨日初めてみたコテージへのイメージが上手に固定出来なくて何度挑戦してもコテージに戻ることは出来なかった。




