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僕の異世界(?)見聞録  作者: ナカマヒロ
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中院公爵家本宅 2

 特別何事も起こらず平穏に夕食を食べることが出来た。

 作ったのは蒼記さんとラズリィーだ。

 蒼記さんがラズリィーのことを手伝うために席を外している間も、俊成さんが積極的に話しかけてくれたので非常に助かった。俊成さんは甲斐さんのように穏やかで落ち着いた性格の男性であることがわかってくるにつれ、僕の中には様々な疑問が生まれた。

 『貴族社会の問題児』として、中院家は、王家にも容赦なく攻撃をしかけてくる好戦的な貴族の代名詞。機嫌を損ねたら世界征服さえもしかねない一族、のはずだ。

 そう教えられたし王城内外の噂話でもそういう話を幾度か耳にした。

 蒼記さんは、驚くほどの美少年。ちょっと僕をからかっている風ではあるけれど恐怖を感じない。

 逸勢さんは、ちょっと寡黙で人見知りっぽい。でも、積極的に敵意を向けてくる様子はない。

 俊成さんに至っては、もう人の良さしか見えない。僕と逸勢さんが会話に参加出来るように適度に話を振ってくれるし、間に入ってくれている。

 

 もしかしたら世間は何か彼等のことを誤解しているのではないだろうか?


 そんな気持ちになってきて、ふと山の中で遭遇したらマキちゃんが戦って僕が見守ることになった話を思い出す。しかし、さすがに『山の中で襲ってくるのは貴方たちですか?』とは聞けない。

 他に暴れん坊な一族の者がいるのかもしれない。

 蒼記さんも、刺激しないで大人しくしていれば噛み付かないと出会った時に言っていた。

 何か怒らせるツボでもあるのかもしれない。


 「さて、食後のお茶にでもするかい?蒼記君、お茶菓子は俺が持ってきたのをどうぞ」


 俊成さんがそう蒼記さんに声をかける。


 「ヤッター!マキ、紅茶ー!」

 「そうだね。紅茶が合うかもね。笈川君もそれでいいかな?」


 マキちゃんは、飛び上がらんばかりに上機嫌だ。やはり美味しいお菓子の予感は俊成さんだったらしい。


 「はい。お任せします」


 紅茶が合うというのだから、紅茶で良いだろう。

 僕の返事を聞いて蒼記さんは頷くと、


 「はーい。俊成さんはいつもの?」

 「うん。頼むよ」

 「任されました。ラズ、行くよ」

 「はい。蒼記様」


 ラズリィーと2人で夕食の食器を下げつつ出て行った。

 あ、夕食はメンチカツでした。何の肉かは聞いてないのでわからないけれど、牛っぽい味がした。添え物はロゼ村の畑で収穫したマゴットという名前の野菜で、紫キャベツのような色と食感だった。

 これくらいなら、僕にも挑戦出来るかもしれない。

 後でラズリィーにレシピを聞いておこうと思う。

 暫くするとワゴンにお茶とお菓子を載せて2人が戻ってきた。手早く皆の前に配られる。

 僕は自分の目の前にあるお菓子を見つめる。

 鳥かごのような容器の下段にカットケーキが3種類、中段にマカロンのような焼き菓子、上段には小さなガラス容器に入ったプリンの上に飴細工が施されて粉砂糖がふりかけてあるものが載っていた。


 「あの、これは1人分、ですか?」


 思わず確認してしまう。

 サンドイッチこそないけれど、アフタヌーンティーセットというやつではないだろうか。紅茶もティーカップ1杯分づつではなくポットごと目の前に置かれている。


 「そうだよ?おかわりもあるから遠慮なくどうぞ」

 「ヤッター!」


 俊成さんがにこやかに答える。マキちゃんの喜びの声も聞こえる。

 僕は改めて目の前のデザートを見る。どこから手をつけたらいいのか。

 他の皆は戸惑う風もなく食べ初めている。夕食の後でこの量を食べれるのか、僕には自信がない。食前にマキちゃんが欲しいと言っていたからギリギリまで頑張って残りは食べてもらおう。そう決めてから下段のケーキに手を伸ばす。チョコレートとショートケーキとチーズケーキっぽい。夕食の味が濃い目だったのでチーズケーキから攻略を始める。


 美味しい。


 この世界に来て幾度かチーズケーキを食べたことがあるけれど、これは今までで一番美味しかった。チーズの爽やかな酸味と口の中でホロリとほどけて消える食感。あっという間になくなってしまった。

 マキちゃんがソワソワするだけの価値があるお菓子だ。もしかしたら、貴族様御用達の有名パテシィエが作ったのかもしれない。と、なると次はケーキを辞めてマカロンにしてみよう。

 実は僕はマカロンは嫌いではないけれど、得意ではない。

 独特の鮮やかな色と少し硬くて、しかしクッキーのようなサクサク感があるわけでもなく食べにくい。それが好きな人もいるのだろうけれど、僕は同じクリームを挟んだ焼き菓子ならドラ焼きの方が好きだった。そもそも、この世界にくるまで手作りのお菓子を食べる機会も度々あったわけでもない。スナック菓子に慣れ親しんでいる僕はお洒落っぽい見た目の物にも少し気恥ずかしさと抵抗がある。

 僕は、恐々と薄紅色をしかマカロンを齧ってみる。


 お、美味しい。


 想像していた以上に軽い歯触りで、噛むと口の中で生地に含まれているらしいフルーツの甘酸っぱい酸味と挟んであるクリームの程よい甘さで食べやすい。今まで食べたマカロンとは全く別物のように感じだ。

 マキちゃんがあれほど期待するのも納得の味だ。

 僕は、難なく残りのケーキとプリンもすべて完食した。

 マキちゃんと逸勢さんは黙々と食べ進み、ラズリィーが気を利かせて持ってきたおかわりも競うように消化し始めている。

 僕は、紅茶を飲んでホッっと息をつく。


 「すごく、美味しかったです。これは有名なお店のお菓子なんですか?」

 「うん?これは市販品じゃないよ。知人が趣味で作ってるんだ」


 なんと、売り物ではないらしい。あれほどの出来ばえなら店を開けるくらいなのに。


 「吹雪さん、これを作ったのは先代、冬の巫女姫のお兄様ですよ」


 ラズリィーが教えてくれる。

 先代の冬の巫女姫。立野さんの姪である昔出会ったことのある女性を思い出す。


 「そうすると、落ち人の方ですか?」

 「いいえ。お兄様は、こちらでずっと生活されています。お姉さまだけ立野さまがお引取りになったと聞いてます」

 「えーと、立野さんの妹さんがこちらに嫁いだんだっけ」

 「そうです。水川伯爵家のご長男がお兄様になります」


 講義の内容をフル回転で呼び起こす。

 確か、水川伯爵家は、魔族の中でも少し変わっていて、魔力と神聖の両方を併せ持つ神魔しんま族という特殊な種族で、なんだっけ・・・


 「フブキ、次は神魔の領地へ行こう!」


 マキちゃんが催促してくる。


 「う、うーん。まだ何も決めてなかったからなあ」


 候補にあげるとしても、良さんや甲斐さんとも相談しなくてはいけない。

 確かにお菓子は魅力的なんだけれども。

 あまり乗り気ではない僕にマキちゃんがアピールしてくる。


 「アイツラは珍しい妖精羽だぞ!キラッキラッだぞ!」


 妖精の羽がキラッキラッ。

 マキちゃんからもたらされた情報に僕の心はかなり動かされた。


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