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僕の異世界(?)見聞録  作者: ナカマヒロ
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中院公爵家本宅 1

 マキちゃんの猫パンチで幾分か冷静になり着替えることが出来た僕は2人を待たせているので慌てて外で出た。


 「お待たせしました」

 「おかえり。ゴメンゴメン。ちょっと刺激が強すぎた?」

 「蒼記様、当たり前です。もう少しお控えになってください!」

 「そうは言っても、ラズ。ボクは自然にしているだけなんだけど」

 「もうっ」


 もはや2人の会話に割り込む勇気はない。うっかり飛び火してきたら大ダメージになりそうだ。


 「フブキ、マキ、忠告したよな?」


 マキちゃんが尻尾で僕の足をピシリと叩いてくる。


 わかってるよ?

 そもそも、蒼記さんが女性だったとしても僕には抗う術もない。手の平で転がされるだけだ。

 まず、恋愛云々の話以前の問題だよ。

 透き通るような美貌の美少女改め美少年と、癒し系ほわほわの美少女の2人に挟まれて平常心でいられるほど、僕のレベルは高くないのだ。


 ラズリィーと2人だけなら、ここまで緊張しないのになあ。


 アルクスアでの探索を思い出す。

 うん、普通だ。普通に楽しかった。


 「さて、そろそろ行こうか。日が暮れてしまいそうだ」


 思い出に浸っている内に2人の話し合いも落ち着いたらしい。


 「ここから、本宅ってどのくらいの距離があるんですか?」

 「うーん、徒歩なら2時間強かな。登りだからもう少しかかるかも?」


 腕時計を確認する。

 夕方の6時手前だ。これから2時間強の登山となると夕食時間はかなり遅くなる。


 「勿論、徒歩ではいかないよ。笈川くんとラズはボクが。マキちゃんは自分でいけるね?」


 蒼記さんがマキちゃんを見る。


 「おう。本宅の方な。リョーカイ」


 マキちゃんは、そう言って目の前から掻き消えた。


 「え?」


 キョロキョロしている僕の手を蒼記さんが掴んで、


 「ボクたちも行くよ」


 と言った瞬間に、身体が上に引っ張り上げられるような浮遊感を感じた。


 「はい、到着。ようこそ、我が家へ」


 そう言った蒼記さんの背中の向こうにはお城のような大きな屋敷があった。

 さすがに王城ほどの大きさではないけれど、マキちゃんの家よりは確実に広い。造りは西洋風だ。夜中に山で迷子になった時にこの屋敷を見つけたら回れ右して帰るかもしれない。それくらい山にあるのが不自然な立派な屋敷だった。


 「え?今の瞬間移動テレポートですか?」

 「そうよ。今は探索とは関係なく、夕食を食べるだけだもの。この方が早いわ」

 「フブキー!メシー!早くー!」


 瞬間移動テレポートの衝撃にうろたえているのは僕だけだった。

 移動にかかったのは本当に一瞬だった。

 僕にも出来るだろうか?やはり行ったことのある場所限定なのだろうか?

 後で1人で練習してみよう。

 新しい可能性の発見にワクワクしながら、蒼記さんたちの後に続いた。


 屋敷の中は静かだった。

 僕はてっきり、扉をあけたら『お帰りなさいませ』って執事さんや侍女さんがお出迎えしてくれると思って緊張していたのに肩透かしを食らった気分だ。


 「ここは、使用人さんは少ないの?」


 玄関を抜けて長い廊下の途中、隣を歩くラズリィーに小声で問いかける。


 「いないわよ?中院公爵は他人を家にいれるのがお好きではないの」

 「そうなんだ」


 公爵に始めて会った時、人見知りだからと良さんが言っていたけれど、この規模の屋敷の維持を家族だけでするのは大変ではないだろうか。そんな心配をしている間に、広い応接間に案内されてソファーに座る。蒼記さんは父親を呼びに、ラズリィーは夕食の準備をしてくると言って部屋を出て行った。

 20畳以上はありそうな部屋は、全体的に茶色が主流で落ち着いた調度品で構成されている。見上げればシャンデリア。窓枠には少女漫画に出てきそうなヒラヒラのレースのカーテンが付いている。足元の絨毯もフカフカで、どこをみてもお金がかかっていそうだ。

 お城での僕の部屋よりはあきらかに高級感がある。別に、お城の部屋に不満があるわけじゃない。恐らく落ち人である僕にあわせたのだろう、少し日本的なホテルみたいな部屋なので、この応接間みたいに洋画に出てきそうな異国の家具が物珍しい。


 「フブキ」

 「うん?」


 マキちゃんの声音が少し硬い。何かあるのだろうか、と隣のソファーに座るマキちゃんを見ると、


 「もし、デザート余ったらマキにちょーだい」

 「はぁ?あ、うん、デザートね。うん、余ったらね」


 真剣な声で何を言い出すのやら。

 マキちゃんのお菓子好きは相当なものだ。


 「ヤクソクだぞ!」

 「はいはい、余ったらね」


 実際に食べてみないとどうなるのかわからない。

 フルコースが出てきたらデザートを食べる余裕はないかも知れないけれど、招待された家で残すのは心苦しい。マキちゃんのお菓子好きはラズリィーも知っているし、心配しなくても潤沢に用意してくれると思うけれど、もしかしたら、


 「中院公爵も、お菓子相当好きなの?」

 「マキほどじゃないけどな!」


 マキちゃんが猫背を反らして胸を張る。

 そこは自慢できるところなのだろうか。


 「今日、多分、お菓子ある。マキ、予感する。美味しい」

 「うん?いつもどこでも食べてるじゃない?」

 「違う。今日、この家に美味しいお菓子の気配する」

 「そ、そうなんだ」


 お菓子の気配ってなんだろう。

 お菓子好きも熟練度をあげるとお菓子の気配がわかるようになるの?

 僕が不思議に思っていると、蒼記さんが逸勢さんを連れて戻ってきた。あと、もう1人男性を連れている。まず僕は立ち上がって挨拶をする。


 「公爵様、こんばんは。おじゃましています。お久しぶりです」

 「うん。こんばんは」


 逸勢さんがポツリと返事を返した。

 大丈夫、言葉にトゲは感じない。


 「笈川くん、紹介するよ。こちらはボクの伯父。中院 俊成としなり。俊成さん、彼が笈川 吹雪くんです」

 「はじめまして。よろしくおねがいします」


 僕は、俊成さんに向かって頭を下げる。

 新しい中院一族の登場に少し緊張する。

 くるか、とうとう、問題児中院一族の名に恥じない凶暴なキャラ、きちゃうのか?


 「よろしくねー。蒼記が紹介してくれた通り、俺は逸勢の兄、俊成です」


 にこやかに手を差し出してきたので失礼がないようにすばやく握り返す。


 「まぁ、座って話でもしようよ」


 俊成さんに促されて全員がソファーに腰を落ち着ける。

 想像以上にフレンドリーかつ優しそうな俊成さんに驚きつつ、油断はすまいとそっと彼を観察する。

 薄い灰色の髪の父親と青銀髪の息子、これは系統が似ているからわかる。公爵親子と違って俊成さんは真っ黒は髪をしていた。そして完全なストレートだ。公爵親子は少しウエーブのかかった髪質なので黙っていたら親戚だとわからないかもしれない。

 年齢は、兄、と自己紹介した通り逸勢さんよりは若干年上に見える。

 この家族に共通点があるとするならば、全員、どこか中性的という点だろうか。

 蒼記さんほどではないけれど、逸勢さんも俊成さんも男くさいとは言い難い。彫りも深いし色白だから余計に中世的に見えるのかもしれない。

 ふと、マキちゃんに視線をやると、ご機嫌な様子で尻尾を揺らしながら俊成さんを見ていた。


 もしかして、美味しいお菓子の気配は、俊成さんの気配なのかな?


 

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