ロゼ村 4
花畑に取り残された僕とラズリィーは、午後からもゆっくりと村を見て回ることにした。
いきなり1日であれこれしなければいけないほど急いでいるわけでもない。
夏の祭典まで余裕もある。
午前中と同様に畑仕事を手伝わせてもらったり、村の子供に遊んでもらったりして過ごした。
子供の遊びは、どこの世界でも大差はない。
山村なので自然を利用して遊ぶ。王都の子供なら、もしかしたらテレビゲームで遊ぶこともあるのかもしれない。ラズリィーに聞くとテレビゲームの類は存在するらしいがした事がないと言われた。確かに、ラズリィーがテレビゲームを夢中で遊んでいる姿は想像出来ない。
「そういえば、村の子供は学校にはいかないの?」
「学校ですか?本人が必要と思うなら行くんじゃないかな?」
そういえば、ここは自由の幅が広い世界だった。
日本の義務教育で考えてしまっていた。
「えーと、じゃあ、大人になって行きたくなったら小学校に行くの?」
「そうね。まず試験をしてみて、その人にあった学年から始めることが多いわ。家庭教師だけで済ませる人もいるわ。士官学校だけは別ね。軍人には強さだけじゃなくて協調性が求められるから全寮制での団体生活をするらしいわ」
「へー」
確かに、知識だけなら自宅学習でも間に合う。この世界は学歴社会ではないようだし。軍人は、ただ強くても意味がない。仲間との連携が大切だというのも理解できる。
「じゃあ、僕も学校に通えるのかな」
「え、吹雪さん。何か習いたいことがあるの?」
「そりゃあ、色々あるよ?日本では高校入ったばかりだったし、この世界のことは知らないことばっかりだもん」
毎日学校に通って勉強して部活して、恋愛なんかもしてみたりして。そんな青春を一度くらいしてみたい。以前の僕は、通える時にまとめて補習補習で部活なんか遠い存在だった。今なら、普通の高校生が出来る程度には安定している。
「そうなんだ。でも、すぐじゃないのよね?」
「そりゃそうだよー。冬の巫女姫を見つけるのが一番先だもの」
「そうよね」
ラズリィーは何事か考え込んでいるようだった。
彼女は勉強があまり好きではないのだろうか?僕は異世界の学校にちょっとどころか、かなり興味が湧いてきた。魔法学科とかあれば能力についての詳しい話がもっと聞けたりするんだろうか?士官学校は、寮生活に興味はあるけれど、なんだか規則が厳しそうで少し不安だ。
やっぱり無難に普通科みたいにオールマイティーに学べるところがあればいいな。
帰ったら良さんに一度聞いてみよう。
たっぷりとロゼ村内を満喫してからコテージの前まで戻ると蒼記さんが来ていた。
「蒼記様!」
ラズリィーが笑顔で走り寄る。蒼記さんが気がついて軽く手を上げる。
「公務は終わったんですか?」
「まあ、さほど立て込んだ案件でもなかったしね。お客様も来ていることだし、夕食でも一緒にと思って戻って来たんだ」
蒼記さんがラズリィーの肩にかかっていた髪を一房掴んで弄ぶ。
「本当ですか!どうしましょう。本宅で?それともこちらで?」
ラズリィーは心から嬉しそうだ。
美少女にしか見えない蒼記さんと正真正銘美少女のラズリィーが仲睦まじくしている様子は、それはそれは絵になっていたけれど、なぜだか少し寂しい気持ちになった。
蒼記さんは僕の方を見て、
「どうしようかねえ。笈川くん、本宅に行けば父と一緒に食事をすることになるけど、どっちがいい?」
父。
蒼記さんの父親である中院 逸勢公爵のことを思い出してみる。薄い灰色の髪をした寡黙そうな紳士。マキちゃんとデザートの取り合いで若干血を見るような展開になりそうな場面もあったけれど、うん、平気かな。
「僕は、こちらにお邪魔させてもらっているわけだし。挨拶も兼ねて招待をお受けしようと思います」
「あは。本当に、キミは面白いね。ボク、気に入っちゃったな」
蒼記さんが悪戯っ子のような瞳で僕を見つめた。真っ直ぐに見つめられて心臓が強く鼓動するのを感じた。
これはヤバイ。
同性だと聞いているのに。わかっているはずなのに見つめられた瞳から目をそらすことが出来ない。
魅了の魔法があるとすれば、まさに今、体験しているこれだ。呼吸をするのを忘れてしまいそうになっていると急に右手をグイッと引っ張られて現実へ引き戻された。
「駄目です!蒼記様、吹雪さんを誘惑しないで下さい!」
ラズリィーだった。
「いやだなあ、ラズ。だたちょっと見つめただけじゃないか」
「蒼記様。世の男性というのは蒼記様のような美しい方に見つめられたら心揺らぐこともあるんですっ」
「ははは。笈川くんはボクよりもラズの方がスキだよねえ?」
そう言いながらラズリィーとは逆、左側の腕に腕を絡めて耳元に口を寄せてきた。
「それとも、2人とも欲しい?」
甘えるような声で囁かれた。
両腕を取られて二人の体温を感じる。
非常にマズイ。
僕の恋愛経験値を大幅に超えている。
落ち着け、落ち着け。
蒼記さんにからかわれているだけだ。男性にドキドキしている僕の方が失礼なことをしているのだから、ここは冷静になれ。普通に対応できるようになれ。頑張れ、僕、根性を見せるんだ。
「ふっ2人とも、ぼ、僕っきが着替えてきますっ!!」
裏返りながらも必死に声を絞り出してコテージへと入る。そのまま2階の自分の部屋へ直行して扉を閉めたところで座り込んだ。
心臓の鼓動が物凄く力強く響いている。風邪をひいた時のように頬と耳が熱い。きっと真っ赤な顔をしているだろう。
落ち着こう。とにかく、落ち着こう。
そうだ、服を着替えよう。村の子供達と遊んで埃だらけだから着替えなきゃ、とボタンに手をかけるが上手く外せない。
「あれっ・・・なんだよ・・・もうっ」
指が自分の物ではないみたいに自由が利かない。
こみ上げてくる恥ずかしさで余計に思考が纏まらない。
神様、ハーレム展開がないなんて思ってゴメンナサイ。
無理でした。普通に無理です。綺麗な人に見つめられただけでこんなに動揺している程度の僕には無理でした。これ以上の刺激はいいです。普通に心穏やかに生活したいです。助けて下さい。
その後、コテージに飛び込んで来た僕を不審に思ったマキちゃんに肉球パンチを数発くらうまで僕は床で見たこともない神様に懺悔していた。




