ロゼ村 3
僕とラズリィー、そしてマキちゃんの2人と1匹で村を散策する。
人口こそ少ないけれど村はかなりの広さだ。
時折出会う村人がラズリィーを見て挨拶をしてくる。
春の巫女姫様であり領主である公爵家の婚約者なのだから当然といえば当然だ。
野菜を分けてもらったり、家畜の世話をさせてもらったりと課外学習のような時間を過ごした。
「村の住人には一通り出会ったと思うけど、どうするの?領内のほかの村も行くでしょう?」
村の中にある花畑(村の子供たちの遊び場らしい)の片隅でレジャーシートを敷いて昼食を食べている。コテージを出る前にラズリィーと2人で作ったサンドイッチだ。と、いってもラズリィーの指示通りに野菜を千切ったりパンにバターを塗ったりしただけで考えたのも完成させたのもほとんどラズリィーだ。
厚めに焼いた卵焼きがボリューム感を出していて食べ応えがある。
「他の村も同じような感じ?」
「そうねえ。かなり山頂近くへ行くと農民じゃなく狩人の村が1つあるくらいで他は余りロゼ村とかわらないわ」
狩人!なんか強そうでカッコイイ!
「狩人って何を狩るの?モンスター?」
やっぱり異世界定番の猛獣型モンスターとかドラゴンがいるのだろうか。
意気込んで聞く僕に、
「吹雪さん、モンスターなんて滅多に出現しないわよ?山には、そうねぇ・・・熊とか猪が多いかな」
ラズリィーが呆れたように返事をする。
そういえば、アルクスアの武器屋でもそのような話を聞いていたような気がする。
「そっかー。竜とかいたら凄いのになあ」
「フブキ、竜みたいのか?」
マキちゃんが食後のお茶を飲みながら聞いてくる。水筒のカップを片手で器用に持っている。一体、どうやって掴んでいるんだろう、力点が難しそうだ。
「そりゃ、興味あるよ」
興味はあるけれど、攻撃はされたくない。出来れば友好的な竜と友達になって空の旅なんて出来たらいいな。
「クレに見せてもらえば?あいつ、1匹従魔にしてるぞ」
「え?」
「あ、私も聞いたことがあるわ。確か大型種だから、普段は迷宮に住まわせているとか」
ラズリィーも同意してくる。
「え?迷宮って竜出現するの!?」
全然聞いてなかったよ!?そんな大事な話!
「普通にいると思うけど。50階層越えないとダメだから、フブキはまだまだお預けだな」
50階層。この間、やっと10階層に到達したところだから先は長そうだ。
「じゃあ、暮さんって何階層まで踏破してるんだろう。やっぱり竜も襲ってくるんだよね?」
「当然だな。迷宮のモンスターはほとんどが凶暴だし、知性が低い」
「さすがに竜種となると攻撃性も高いけれど、知性も高い個体もいるから従魔になることも稀にあるらしいわ」
「今、竜を従魔にしているのはクレしか、マキ知らない」
「そうね。私も」
2人は淡々としている。
竜だよ?いいの?個人で従魔にしているのは問題じゃないの?
僕が余程釈然としない表情をしていたのだろう、マキちゃんが、
「クレなら問題ない。シノハラだと平気で外で放し飼いにしそうだから全力で止める」
「そういう問題なの?」
確かに、シノハラさんは何をするかわからない。
どうにも世間の評判は息子さんである暮さんの方が高いようだ。
「暮さんの迷宮踏破階数は確か・・・218。公式にはそうなっていたと思うけど」
「218!?あそこ、そんなに深いの!?」
10階層に行けて喜んでた自分が少し物悲しくなってくる数字だ。
「確か、公式発表では350階層までは確認されていたはずだけれど」
ラズリィーの言葉に軽い絶望感を感じる。
350階層なんてどうやったら行き着くんだ。確かに5階層毎に転送陣というセーブポイントがあるけれど、出てくるモンスターの難易度も350階相当なんだよね?
「さすがに、そこまで到達できるのは異端だけだろ」
「え?」
「350到達者は異端だったそうよ」
マキちゃんとラズリィーの顔を交互に見る。
「え?その人は、今、どうしてるの?」
シノハラさんは、異端の力を持つ者は自分と息子しか知らないと言っていたけれど、他にも居るのだろうか。
「お亡くなりになったわ。その方は異端ではあったけれど、自分の能力を受け止めるほどの器がなかったそうよ。当然ね、異能でも負担が大きいのに異端だもの。普通の人の寿命を全うできるような異端は未だ確認されたことがないわ」
「そうなんだ」
確かに、異能でも負担が大きいのは事実で、僕も異端の負担が大きくて一度死んでしまったのだ。そして、対応できる肉体を構成して生き返ったらしいのだけれど。
つまり、350階層到達者であった異端もまた生き返る可能性があるのではないだろうか。もしかしたら、すでに生き返っている可能性もある。今度、シノハラさんに確認してみよう。
そんなことを考えているとラズリィーが心配そうに僕を見ていた。
「どうしたの?」
「なんでもない、の」
「そう?」
それきり、ラズリィーからは何も言ってこなかった。
もしかしたら過去の異端が亡くなったことで僕の事を心配してくれているのかもしれない。今度、2人きりになれる機会があれば、僕は死ねないらしいという話をしてあげよう。他の人には話せないけれど、ラズリィーには話しても問題ないだろう。
「まあ、竜はムリだとしても、クマなら狩りに行ってもいいかもな。肉、食べたいし」
マキちゃんが山を見上げながら言った。
どこまでも食欲、だ。
ふと悪戯心が湧いてくる。
「ねえ、マキちゃん。もし竜の肉が美味しかったら頑張って狩りにいくの?」
「当然だ!」
力強い返事が返ってきた。
「えぇ。竜って食べられるのかしら?」
「どうなんだろうね。誰か知ってるかなあ?」
「マキ、甲斐に連絡して聞いてくるっ」
マキちゃんはスッと立ち上がると物凄いスピードでコテージの方へ走っていった。
本当に、どこまでも食欲だなあ。




