野生的な晩餐
テーブルの上に置かれた料理をじっと見つめる。
鳥のササミの蒸し物。
鳥のモツ煮込み。
鳥胸肉のから揚げ。
鳥の手羽が入った野菜スープ。
モグラの竜田揚げ。
モグラのシチュー。
自分がどういう料理か見た目で判別できただけでこれだけのメニューが並んでいる。
他にも野菜を使った料理や、果物を使ったデザートがある。
よくもまあ、これだけの料理を自分と良さんが話している間に作りこんだものだ、と圧倒される。
今日、狩ってきたばかりのモンスターを解体するところから始めるわけだから、予想以上のスピードであることは間違いない。
「少し寝かせておいた方がいい料理の仕込みはしたから後日に食べるといいよ。台所で説明はしておいたから」
「ありがとう、助かるわー」
「すごく美味しそうです」
「おまたせ。口にあえばいいけど、召し上がれ」
暮さんがそう言って取り皿を渡してくれる。
「いただきます」
「いただきー」
まずは、いきなり重量級の肉系にいくと疲れそうだったので手羽野菜スープに手をつける。
アッサリとしたスープに鳥の旨みと野菜の甘味が染みていて口の中がホッとする。
そして、次は味のわかりやすいから揚げに齧りつく。カラッと揚がった外側の食感と噛んだ時に肉汁を溢れさせながら弾力を感じる食べ応えに満足して、おそるおそる竜田揚げに箸を伸ばす。
元々、肉質が鳥に比べて硬く筋張っているのだろうモグラの肉を生姜と酒で下味をつけて食べやすいように少し手を入れてあるのだろう想像よりも容易に口の中で解けた。レバーのような甘味に似た旨みを感じる。少しピリ辛に仕上がっているのは酒のつまみにするためかもしれない。
口の中をスープで潤してから蒸し物を食べる。ササミを薄めにスライスしてアサリのような貝と一緒に酒蒸しにされている。貝の匂いがササミに染みこんでいて美味い。
「美味しい」
我知らず呟いていた。
モグモグと咀嚼しながら次はどれを食べようか、と目で追う。
鳥のモツ煮込みとモグラのシチュー。
どちらも濃厚な味をしていそうだ。
日本にいた頃からモツを食べたことがなかった。父親や晩酌のつまみに食べているのを時々みたことがあるくらいだ。大人の食べる物、と思い込んでいた。しかし、今は自分の為に用意されているのだ。そっと口に運ぶ。コリップリッっとした不思議だ弾力を感じて噛み続けるとふんわりと優しい味噌の風味が鼻腔に広がった。初めての食感が面白くて箸が進む。
夢中になって食べているとあっという間にテーブルの上の皿が空になっていた。
「ごちそうさまでしたっ」
手をあわせて食事終了すると、
「はい。おそまつさまでした」
暮さんが食後のお茶を渡してくれた。
「僕、迷宮のモンスターの肉って初めて食べました」
予想を大きく裏切った美味しさに感嘆する。
「まあ、狩りに行くのは危険だから滅多に食卓には並ばないよ。まあ、美味しいのは暮さんの腕前のおおかげでもあるよ。ラッキーだったねー、吹雪君」
良さんがワイングラスを傾けながら話しかけてくる。
「これも趣味の内だからね。また機会あれば持ってくるよ」
「それとは関係なく遊びに来て欲しいなー。随分と御無沙汰だったよ?どっか行ってたの?」
「いや。割と毎日迷宮で狩りをしてたよ」
「えー。なにそれー」
僕も、ここ数日は迷宮に通っていたけれど全く気が付かなかった。違う階層だったのだろうか。
「あそこは多様な食材の宝庫だからね。あまり人もいなくて寛げるし」
「そりゃ人は少ないだろうけど。良ちゃんとも遊んでよねー」
「気が向けば」
「えー、けちんぼー」
2人の会話を聞いていると色々つっこみどころはあるが仲はよさそうだ。
ただ、良さんの方が身分的に上な気がするのに、シノハラさんに対しても暮さんに対しても、少しだけ良さんが気をつかっているような気がする。やっぱり能力のせいだろうか。
「明日も迷宮行くの?」
「まだ決めてないよ」
「ふーん。今日は、もう遅いし泊まって行く?」
「帰るよ。生憎と、留守をすると平気で食事を忘れるヤツがいるからね」
「そっかー」
良さんのセリフを聞いて時計を確認すると午後9時を少し過ぎたところだった。
「そろそろ、お暇するよ。笈川君、またどこかで会えるといいね」
「はい。今日はありがとうございました。食事も、ごちそうさまでした」
見送りはいいよ、と暮さんは部屋を出て行った。
僕はテーブルの上の皿を片付ける。といっても大きさを揃えてまとめるだけだ。もうしばらくすればアマリカさんがやってきて下げていくだろう。
良さんは残ったワインを飲みながら柴犬たちと遊び始めた。
特に、足元の毛が伸びた火山が気にいったらしく執拗にモシャモシャと撫で回している。
迷宮には食べられる物が沢山あるんだなあ。
今までは荷物になるから持って帰ることはなかったけれど、ためしに持って帰ってみようかな。もしかしたら未知な味があるのかもしれない。出来れば自分で調理できればいいんだけれど生憎と僕にはお米を炊くくらいしか出来ない。それも、この世界に日本と同じ炊飯ジャーがあれば、の話だ。
料理が出来ればキャンプとかも出来るよね。
ふとした思い付きだけれど、魅力的だった。
迷宮で食べれそうな物を持って帰ったり、城下街で食材を買って料理の勉強もしてみようかな。自分の身を守れるくらいに能力を自在に使えるようになって自分で食材を手に入れて調理する。あとは、自分自身で手に入れた住居があれば自立していると言えるのではないだろうか?
能力の使い方がわかってから、自分でも前向きになれたのがハッキリとわかる。
日本にいたころ、涼しい部屋で小さくなってばかりだった頃は、どうせ自分は何も出来ないのだと悲観的な部分もあった。それが今、こんなにもやりたいこと、やってみたいことが溢れていて毎日が楽しくて前向きな気持ちでいられる。
両親のことを思うと、心が少し軋むけれど、これでよかったんだ。
あのまま日本で引きこもっているよりも、僕は生きていると感じられる。
楽しい未来は自分の気持ちで掴み取っていくものなんだ。




