迷宮での出会い
僕は足元に落ちた属性結晶を拾い上げる。
「ワォン」
少し離れた所から、火の属性獣、火山が駆けてくる。その口には、萎れたファイアーフラワーが銜えられている。
数ヶ月ぶりの迷宮だ。
良さんに正式に許可を貰ってこの数日潜っている。ただし、条件付だ。
1つ、属性獣を1匹は連れていくこと。
2つ、夕方までには戻ること。5階層ごとの転移陣に到達できなくても、緊急脱出用のゲートを使って必ず戻ること。(使い方は教えてもらった)
3つ、もし知らない人物と遭遇した場合は能力を1種類しか使用しないこと。
4つ、食べれそうでもその場で食べずに持ち帰ること。
正直、4番は過保護だと思っている。
迷宮にある食べ物をその場で食べるほど、現代日本の高校生は野生的ではない。お弁当も持たせてもらっているので空腹の心配もない。
とりあえずは順調に迷宮探索を進めている。前回と違って能力で出来ることも格段に増えたし1~5階層は問題なく通過できるようになった。4階層に初めて下りた時は、シノハラさんに討伐されていた白虎のような獣に警戒していたのだけれど、能力と属性獣の力で押し通った。
「火山、その花は食べ物じゃないから、ペっしなさい」
僕がそう言うと火山は素直に口から離した。目の前にいる火山を見ると足首の毛が腕輪のように膨らんでいるのに気が付いた。抜け毛か足元に絡まってるのだろうか、と屈んで触ってみたら、その部分だけ増毛していた。毛先が少しだけ赤く色づいている。
「進化したのかな?」
「ワンッ」
僕の疑問に火山が誇らしげに尻尾を揺らす。
進化すると外見が変化するらしいし、見た目の区別が明確につくようになるのは良いことに思えた。飼い主としては頼りない話だが、5匹はほとんど見た目の違いがなかったので首輪の色か、自分に対する仕種で見分けるしかなかったので、外見的進化は歓迎だ。
腕時計を見ると午後3時。後2時間は探索を続行してもよさそうだ。
現在地は、8階層の中ほどだ。大森林地帯だが、出てくるモンスターは鳥類がほとんどだった。生い茂る木々の隙間からトンビのような鳥が襲いかかってくる。しかし、事前に索敵と防御結界の能力を発動しているのでフイをつかれたり怪我をするようなことはない。4階層で大量の獣系モンスターに囲まれた時にひらめいた能力だ。索敵を使うと左上の空間に丸いレーダーのような表示が浮かび上がる。そこに点が表示されれば、それはモンスターだ。こればかりは、引きこもりがちでゲームをよくやっていた過去の自分を褒めてあげたい。自分の中にすでに概念としてある事柄を能力として使うことは難しくなかった。ただ、他の事に気を取られたり迷いが生じると上手く発動しない。その最たるモノの代表が変身だ。他人の姿を真似たり、性別を偽るという能力を想像することは容易だったのだけれど、いざ人前で実験しようとすると、恥ずかしさと躊躇いで能力解除されてしまうのだ。開き直って堂々と出来る心臓の強さが欲しいなと思う今日この頃だ。
出来れば10階層まで到達して置きたいけれど能力を過信出来るほどの熟練度はないと思うので慎重に進む。
索敵に1体引っかかったのを感じて身構える。
自分から前方200メートルほど上空のようだ。相手に気が付かれる前に補助アイテムで作った弓で仕留めたい。この階層にきてからは、槍ではなく弓にして使っている。自分の気持ちに躊躇いがなければ弓は確実に当たってくれる。いずれは補助アイテムではない普通の弓でもそうなれるようになりたいが、一度、甲斐さんに試しに触らせてもらった弓を引くのに苦労したことを思うともう少し筋肉トレーニングをしてからの方がいいだろうと判断した。無理はせず、一歩一歩だ。
弓を構えて相手が視界に入るのを待っていると、唐突にその姿が索敵のマップから消えた。
不思議に思って索敵ではなく周辺マップの捜査に切り替えてみると、調度、モンスターが居ただろうあたりの真下に人がいると表示された。どうやら自分以外に誰かいるらしい。この数日、迷宮内で自分以外の人に遭遇したことがなかったので少し驚いた。
ラズリィーの話だとこの迷宮の難易度は高そうな雰囲気だったので少しばかり緊張する。
ここにいるということは、それなりの戦闘力を持っているということなのだから。
だからといって逃げ出すようなマネをして敵だと認識されて攻撃されてもイヤだったので登山愛好家よろしく挨拶をしようとレーダーの示した方向へ進むと大きな鳥型のモンスターを拾い上げている男性を見つけた。
「こんにちは」
相手は、カジュアルなシャツとパンツの軽装で武器の類は持っていなかった。短髪だが少し白髪が混じっている初老の男性だ。相手はこちらに気が付くと鳥を持ち上げながら、
「やあ。君も狩りかい?良い犬をつれているね」
火山を見ながらそう言った。
今日は、火山を連れている以上、僕は火の能力持ちだと相手は認識しただろう。ウッカリしないように注意しよう。
「ありがとうございます。えと、僕は笈川 吹雪っていいます」
「ああ、君が。私は、クレ ヨウイチロウ。日が暮れる、の暮に、洋風の洋とよくある一郎の字で暮 洋一郎って書くんだよ。真王陛下から君の事は少し聞いているよ」
差し出された鳥を持っていない方の手を握り返しながら、はて、クレという名前どこかで聞いたな、と首をかしげた。
「父が迷惑をかけてないかい?」
「父・・・・あ・・・ああっシノハラさんの息子・・・さん?」
てっきりクレは下の名前だと思っていた。それに、あきらかに暮さんの方がシノハラさんよりも年長者に見えた。シノハラは苗字だと思っていたけれど名前だったのだろうか?親子で苗字が別々だとすれば複雑な家庭事情なので迂闊に質問しずらい。
「そうだよ。ああ、父はしばらく死んでいたから、その間に私が年齢を追い抜いてしまったんだよ」
「あ、そういえば、そんな話をききました」
『昔、刺されて死んだ時に、なんとなく時間を空けようと思ったら出来たから。なんでと言われても困るなあ。そういう能力スキルのヤツがどこかにいるせいじゃないか?』
確かにそのような話をしていたけれど、息子さんに年齢を追い抜かれるほど死んだままって一体何年死んでたんだろう、シノハラさん。
毎度のことながら、シノハラさんは奇想天外だ。
「まあ、父のことはあまり気にしないで欲しい。及川君は、鳥を狩りに来たのかい?」
弓以外にはパッと見た感じ荷物を持っていない僕へ質問してくる。
「僕は、修行です。迷宮の食べ物は食べないで持ち帰るように良さんに言われてて、どれが食べれるのかわからないので属性結晶だけ持ち帰ってます」
「なるほどね。私は久しぶりにコレが食べたくなって狩りにきたんだ。よければ一緒に食べるかい?調理は王城の台所を借りようか。そうすると、もう少し狩って帰った方がいいかな。真王陛下にもお土産が必要だろう」
なんと鳥型のモンスターは食肉として使用できるようだった。
「あ、じゃあ、微力ながらお手伝いします。っていってもコレしかないですけど」
と、補助アイテムで作った弓を見せる。
「じゃあ、ゆっくりと10階層まで進みながら行こうか。夕方に脱出するくらいでいいのかな?」
「はい」
僕は、暮さんと一緒に歩きながら索敵を始めようとしてやめた。シノハラさんや僕と同じ異端だけれど、彼はその能力を否定しているという話だ。むやみに能力を使って敵対行動と認識される危険性を考えたからだ。
シノハラさんと互角に戦うというこの男性に今の自分が勝てるわけがない。
今は、上級者の戦い方を勉強させてもらう時だ。そう決めた。




