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僕の異世界(?)見聞録  作者: ナカマヒロ
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公爵たちとの夕食

 「まあ、夕食でも食べながら話そうか」


 良さんの言葉で部屋の隅で待機していた女性たちがそれぞれの前に食事を配り始める。

 僕が緊張で凍り付いている間にセッティングが終了して乾杯の音頭に慌ててグラスを持ち上げる。グラスには食前酒が入っていたけれどアルコールは強くなく甘かったので難なく飲むことが出来た。

 周囲の様子を見ながら恐る恐る食事を進めていると、


 「甲斐のことはよく知ってるだろうから省いてー、その隣から紹介するねー」


 良さんが僕の緊張など気にする風もなく話を進めていく。

 僕は手を止めて、甲斐さんの隣の緑色の髪をした青年に視線をやる。

 相手もこちらをみてニッコリと笑顔を向けてくれる。優しそうな感じだ。


 「こちらがー、平島ひらじま ゆう公爵。良ちゃんが即位する前はー、王位継承権3位だったのでー何度も暗殺しようとしてくれたドSだよー」

 「さりげなく昔の話を持ち出して少年を脅かさないでくださいよ」

 「えー。ちゃんと言っておかないと、表面上善人面してるから吹雪君が騙されたら可哀相じゃん?」

 「貴方が手元に置いてる人間を騙すほど怖いモノ知らずじゃないですよ」


 良さんと平島公爵のやりとりを唖然と見つめる。

 平島公爵は、良さんから何を言われても笑顔を崩さない。僕はなんとなく、


 あ、この人悪人だ。


 と、思った。笑顔で人を殺したり貶めたり出来るタイプの人だ、と思った。

 心のメモ帳に忘れないように書いておこう。


 「まあ、何か言われたら良ちゃんのところにくるといいよー」


 僕はどう答えたらいいのか困って頭だけ上下に動かした。


 「よろしくね、及川君。私は、今は白の領地に住んでいるから、あちらで困ったことがあれば訪ねてくればいいよ」

 「はい」


 魔族の公爵なのに別の領地に住むこともあるんだな。

 外交官みたいな感じだろうか?


 「そんでー、こっちのが、中院なかのいん 逸勢はやなり公爵。蒼記君のお父さんだよー」

 「あ、はじめまして。蒼記さんには仲良くしてもらってます」


 僕は慌てて頭を下げる。

 噂の中院公爵との初対面だ。殴られるようなことだけはないように礼儀正しくしておこうと背筋を伸ばす。中院公爵は、一瞬だけこちらを見たけれど、すぐに食事を再開した。僕にはまったく興味がないようだ。


 「あー、気にしないで。この人、人見知りさんなだけだか・・らっ」


 良さんが言い終わるよりも早く、中院公爵が持っていたナイフを投げつける。良さんに避けられてカシャーンとナイフが床に落ちた音が響いた。


 「もー。ナイフは投げちゃダメだよー」


 良さんはカラカラと笑っている。

 甲斐さんも平島さんも動じた様子はない。いつものことのようだ。マキちゃんは一心不乱に食事を食べている。こちらのことなど全く気が付いてないようだ。

 中院公爵は、自分の手元をジッとみていた。


 「ほらー。投げたらご飯食べれないでしょー。代わりを持ってきてあげてー」


 良さんが、奥にいる侍女さんに声をかける。直ぐに持ってきた侍女さんからナイフを受け取って、


 「食べる」


 と一言だけ言って食事を再開した。

 どうにも僕は不思議な気持ちで中院公爵を見つめた。

 乱暴モノだとは聞いていたけれど、確かに食事中にナイフを投げつけるなんて失礼な人なのだろうけれど、思っていたのとイメージが違うな。

 さっきの「食べる」は、「持ってきてくれてありがとう」のような気がした。

 中院公爵は、人見知りで、言葉足らず、上手く自己表現出来ないから手や足が出るのではないか、と推測した。良さんの態度からも、深刻な様子は感じられない。本当の意味で怖いのは、やはり平島公爵のほうではないのだろうか、とそっと隠れ見る。


 「次回は中院公爵領へ行くってことになってるから、面通しだよ。よろしくね。 逸勢さん」

 「え?なんで?」


 中院公爵が眉をひそめる。嫌がっていることを隠そうとも思わないらしい。


 「吹雪君は、蒼記君とかラズリィーと仲良しさんだからだよ。 本宅に泊める必要もないし、逸勢さんは引きこもってていいから」

 「ん」


 良さんの言葉に短く了解の意を示して頷く。

 良さんの話の持って行き方が上手なのか、思っていた以上に、中院公爵は大人しかった。借りてきた猫のように小さくなって食事をしている。


 「中院公爵領の後は、どうするか決めているんですか?」


 平島公爵が話題を振ってくる。


 「いえ。まだなにも決めていません」

 「そうですか。笈川君は、日本人だと聞いたけれど間違いないかい?」

 「ええ。そうです」

 「そうかい。なら、白の領地を訪れる際には是非、我が家へ立ち寄って欲しい。主人が日本が好きでね。畳もあるよ」

 「この世界にも畳ってあるんですね!是非、お伺いしたいです」


 魔族では、王族に継ぐ高い身分であるはずの公爵が主人という人物に検討が付かなかったが、日本が好きだというのなら不人情なことはしてこないだろう。この世界で未だ見たことがなかった和風建築が白の領地にはあるのかもしれない。そうだよね、議会制民主主義ってところも少し日本に近い感じがする。


 「畳どころの騒ぎじゃないよね。日本庭園完備だよ」


 良さんが笑いながら参加してくる。


 「ええ。お陰で庭の手入れには少しばかり手間がかかってますよ」

 「池まで作って鯉飼い出した時は良ちゃんも驚いたよー」


 思ったよりも完全な日本家屋が存在していそうだ。

 日本でも庭で鯉を飼うのは少数派だと思うけれど、自分の常識が間違っているのだろうか。

 その後もほとんどを聞き役になりながら時々、質問に答えつつ食事を勧めた。

 デザートの時には、マキちゃんが中院公爵の分も齧ろうとしてカップソーサーを投げつけられる一幕もあったが、良さんが1人と1匹にたくさんのデザートを用意して沈静化した。


 自室に戻った後は気疲れしたのか気が付いたら眠っていた。夜中に寝苦しくて目がさめたら柴犬たちに囲まれていた。普段は、大人しく部屋の所定の位置にいるのに、今夜は僕が倒れるように眠ったから心配したのだろうか、それぞれを撫でてやったら寝床へ戻っていった。

 そういえば、良さんに迷宮ダンジョン行きについての相談をしそびれたな、と思いながら再度眠りについた。


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