貿易都市 アルクスア 21
部屋に戻ると、立野さんがベッドに転がってテレビを見ていた。
「お風呂で松田さんに会いましたよ。明日の朝イチで神殿に戻るらしいです」
「へー。あのウルサイのと神殿まで一緒なんてコグマちゃんはすごいなぁ」
内心、同意だが口に出すのは憚られた。
今後、一緒にどこかへ行くだろう少女の攻略法を聞いておくべきだったか。
松田さんのあの父性は、到底真似できるものではない。うん、気長に頑張ろう。子供相手に切れたら負けだ。おおらかな気持ちで挑もう。
「ここから神殿までってどのくらいかかるんですか?」
「んー、車なら3日ってところかなあ。まあ、領主の館経由で来ただろうから正味3時間程度だろうけど」
「?そんなに短縮できるんですか?」
「コグマちゃんだけなら瞬時に移動できるだろうけど、人を連れてなら転移門の使用許可が必要だろうから、そんなもんだろ」
そういえば、瞬間移動的な移動手段があるらしきことを出発前に聞いていたのを失念していた。
「松田さんだけだと、なんで早いんですか?2人だと転移門の起動に時間がかかるとか?」
「いや、普通のヤツは、転移門のある施設まで行く時間があるからだよ。コグマちゃんは単体で飛べるし」
「え?瞬間移動的な能力があるんですか!?」
なにそれ、うらやましい。
「不思議そうにしてるけど、お前も多分出来るからな?普通、落ち人は次元を越えてここまで移動してきてるんだ。この世界の中での移動なんてたいした距離じゃないぜ?」
立野さんの言葉に驚く。
「え?じゃあ、立野さんも出来るんですか?」
「お前なあ。毎日仕事帰りに移動時間かけなきゃ来れないんなら、こっちでも仕事したりしてねえよ」
「はー・・・。そうですよねえ」
思っているよりも落ち人はチートな存在なのかもしれない。
だからこそ、不可侵であり、保護対象なのかも。そんなことも思った。
「おっきーは、なんで制御出来ないんだろうなあ。純粋に事故で、落ちたヤツなら魔力そのものを持ってないこともあるからわかるけど、お前くらいの素質があれば本能で使い方を知ってそうなんだけどなあ」
「そういわれても。たとえば、移動能力って、上級者なら人を連れていくこともできるんですか?」
「不可能ではないな、俺も2人くらいまでなら出来なくはない。今回車なのは、あくまで捜索だからだし」
「あー、確かに飛んでしまったら見落としする場所が出てきますよね」
「見落としといえば、風俗とかはスルーしたけどよかったの?」
「一応、未成年なんで・・・それに巫女姫が風俗嬢ってナイでしょ」
「え?なんで?」
立野さんが不思議そうな顔をする。
「なんでって、巫女ってその・・・」
「ああ!」
言いよどんでいると察してくれたらしい。
「この世界の巫女って、あくまで強い能力持ちって意味だぜ?純潔を重んじるなら、男は神官とかになるだろ。単純にそれだけで、別にヤっても能力消えたりしたいからな」
「え、そうなんですか?」
「じゃなきゃ、自分の寿命蝕むような能力、一回のセックスでなかったことに出来るなら、この世界から巫女姫が絶滅しちゃうだろ」
「そうですね」
確かに、解決方法があるなら無理に巫女姫として生きていく必要もない。
「だから、らずっちと仲良くしても誰も怒らないよ?」
立野さんがからかうように笑う。
「もう。からかわないでくださいよ!」
「別にー。お年頃だから、何かあっても不思議じゃないからねー」
「もうっ。明日も出かけるんだから、もう寝ましょうね!おやすみなさいっ」
僕は、自分のベッドにもぐりこんで布団を頭から被った。
しばらく立野さんの笑い声が聞こえていたけれど無視して目を閉じているうちに眠ってしまった。
朝食を済ませて、工業地域を見学する。
たくさんの倉庫や工場の立ち並ぶ様は圧巻だった。あちこちから火花や何かを加工する音が響いてきて普通の声量だと会話するのも難しいくらいだった。
話題にあがっていた魔石の加工工場に今、来ている。
大小様々な宝石が加工されていく様子は、少なからず心躍る風景だったし、磨かれただけの裸石はとても美しくてラズリィーも女の子らしくキラキラした目で見つめている。
僕は、少し離れたところで休憩している立野さんの方へ行く。
立野さんは、単純に保護者として来ているだけで工場に興味がないらしく、最初から休憩所で座って休んでいる。
「立野さん、あの魔石って、一番小さい石でおいくらくらいするんですか?」
「ん?どれでもいいなら、10万くらいか」
やはり、特別な石なだけあって安くはない。
「まあ、どうしても欲しいなら自力で採掘するという手もあるけど。もしかして、らずっちに買ってあげたいの?」
図星をつかれて少し頬が紅潮するのを感じながら、
「ええ、まあ、あんなに見入ってるし」
「女性は、光り物好きなことが多いからなあ。でも、魔石はやめときな」
「どうしてですか?」
やはり、友人に贈るには高級すぎるのだろうか?
「どうしてって。らずっちは白の民だからな。相性が悪い。聖石にしときな」
「あ!え、じゃあ、ここに連れてきたら拙かったんでは・・・」
「見るだけなら問題ない。日常身に着けると能力不和を起こして暴走したりするから危険だ」
「そうですか」
先に質問しにきて正解だった。やはり、知らないということは危険なのだな、と実感する。
「おっきー、美術の授業は得意だった?」
ふいの質問の意図に戸惑いながら答える。
「得意かと言われると自信はないですけど、模写は得意でした。オリジナリティは皆無ですけど」
「よし、なら試してみるか」
立野さんは、立ち上がって受付へ向かう。受付のお姉さんと何かを交渉したあとに僕を連れて加工所の一角へと手招きする。恐る恐る中に入ると、作業台に丸い拳大の石が1つ置いてあった。促されて石が真正面にくる場所へ腰掛ける。
「この石、こうみえて粘土みたいに柔らかくて加工しやすいんだ。これで、コレつくってみたら?最後の焼きはプロに任せるとして、出来そうか?」
立野さんが、可愛らしい花のモチーフのペンダントトップの写真を見せてくる。
「らずっちに似合いそうだろ?この石は、魔石じゃなくて属性石の一種で、この素の状態のままだと完全な無属性なんだ。あとは作り手の素養次第で強弱は出るが、健康祈願とか、恋愛成就とか、念を籠めながら作ると簡易的なお守りになる。どうよ?」
「やってみます」
立野さんの素敵な提案に驚きつつも、感謝する。上手に作れるかは緊張もするけれど、ワクワクする気持ちもある。
さて、何のお守りを作ろう。
しばし、思案してから石へと手を伸ばす。
石は、本当に粘土のように柔らかかった。二つに割ると小さなキラキラした光の粒が無数にきらめいていて美しかった。




