理由と存在証明《アリバイ》?
「え!?それってどういうことですか?」
僕は、大きな声で甲斐さんに問いかける。
暑がりだから、駄目なのか?
猫型の呪いは大丈夫なのに?
甲斐さんは、困ったな、という様に右手を額に当てている。
「君は、気温の高い所が苦手、というか、命に係わるレベルで駄目なんじゃない?」
「そうです」
「えーと、君くらいの世代の子だと、ゲームやったことあるかな?」
ゲーム?
魔族から、ゲームという単語が出てきたことに驚きを隠せない。これも、落ち人対策としての教養なのだろうか?それとも、この世界にもゲームに類する娯楽があるのだろうか?
いきなりな話題転換だな、と思いつつ、
「まあ、人並みには?夏は自宅謹慎なので、わりとやってる方かもしれません」
「じゃあ、わかると思うけれど、一般的に魔法には属性があるよね?」
火・水・風・土・闇・光とか?時とか青とかもあるよね。
僕が頷くと、
「それに近い感覚で、この世界には、各属性の王がいる。王といっても、国を治めているのではなく、その属性の中で一番の能力持ちっていう意味なのだけれど」
それぞれ得意分野があって、力の強弱もあるのは、普通のことだと思う。
RPGみたいにレベルがあがったり、装備で何でも出来たりする場合もあるけれど。
「たまに、落ち人からも、王が出現することがるんだ」
「つまり、僕が、何かの力を持っていると帰ることが出来ないってことですか?」
拘束、もしくは処分もありえるのかもしれない。
ただの暑がりな特異体質なだけで、魔法の魔の字も習得してないのに、それはあんまりではないだろうか。
「それは大丈夫だよ。寧ろ、王の力に相当する属性持ちの落ち人は、絶対不可侵で守られるし、自由も保障されている」
甲斐さんは、大丈夫だよ、と微笑む。
「ただ・・・」
「ただ?」
「現在の氷の王はご存命なんだ。」
つまり?僕は、王ではないってことかな?
まあ、暑がりなだけで、本当にそれだけでしかないんだけど。
「そして、3年程前に、お亡くなりになったのは・・・氷の巫女姫の方なんだよね」
「姫・・・?」
甲斐さんの説明によると、
属性持ちの男女では役割が違うこと。
男性は、大抵が、血族に発現して、当代の当主が王となるが、ただそれだけであること。
女性は、いつ、誰に発言するかわからず、王に比べて圧倒的な能力を持つ事が多く、世界の気候を動かすことができる属性の姫を、巫女姫として神殿で大切に守護されること。
特に、氷の巫女姫は、冬の象徴として、秋から冬への移り変わりの神事を執り行う役職であること。
3年前に、先代の巫女姫が亡くなってから、秋の次は、いきなり春になり、暦上の冬の期間は、地球でいうところの暖冬状態になっていること。
余りに長い巫女姫の不在は、過去に例がなく、現在、この世界の偉い人達が必死になって捜索しているということ。
「君から感じる冷気は、制御できてないことを排除しても、巫女相当だと思うんだよ。男の子なのに、変な話だけど。私も専門じゃないから、ハッキリとはわからない」
「え、この暑がりって制御できたら、普通に生活できたり、するんですか?」
僕は、期待でゴクリと喉を鳴らした。
「私の知っている限りでは、王も、巫女姫も普通に生活できているよ」
マジか!
その方法を、是非教えて欲しい。
僕の暑がりが、やっぱり単なる特異体質だった場合は、効果ないんだろうけれど。
甲斐さんが、能力を感じる風な発言をしているからには、多少は期待できそうだ。
「私は、一応貴族に名を連ねているし、この件は上に報告して、調査をすることになると思う。だから、吹雪君には、大変申し訳ないけれど、今日、明日の帰還は保障できないんだ」
甲斐さんが、申し訳なさそうに頭を下げる。
いいのだろうか、貴族が簡単に頭を下げて。この国の魔族は、本格的に平和な民族なのかもしれない。
「えっと、もし、うっかり僕が、その巫女姫ってヤツだったとしたら、帰れないんでしょうか?」
男なのに、姫っておかしいと思うけれど、そうとしか表現出来ないので仕方がない。
ちなみに、僕は一般的な日本の高校生男子で、ハーフとかの美少年だったりしないので、女子に間違えられることは、一度だってない。
「普通の巫女姫は、神殿から一生出ないことが多いけれど、先代の氷の巫女姫は、落ち人だったから、こちらとそちらを行き来してもらっていた。だから、帰れると思うよ」
帰れるのならば、多少、時間がかかっても問題ないと思う。
体質改善出来たら、少しばかりの行方不明は、両親も咎めないのではないだろうか。
元々、夏休みの間はいても良いと思っていたのだから。
「調査には、どのくらいの期間が必要でしょうか?半年とかだと、ちょっと流石に両親に言い訳が大変かなーと思います」
一ヶ月くらいなら、高一の夏休みだし?ちょっと思春期拗らせて自分探しの旅に出ていたとか誤魔化せなくはないと思っている。日常生活に困難な体質持ちだし、それを悲観して?とか。
学校が始まるまでに戻らないと、さすがに両親に怒られるだけでは済まされなくなってくるけれど。
僕が、盛大に言い訳を考えていると、
「余程の事がない限り、半年も必要としないね。それに、君が望むならば、留守にする間の君の身代わりを用意することが可能だから、地球上で行方不明者として扱われないようにも出来るよ?」
甲斐さんは、なんでもないことのようにサラッと言った。
ナニソレ、身代わりって。