貿易都市 アルクスア 19
「ラズさんはどうしたい?」
まず、彼女の意見を聞く。
ラズリィーは、深くため息をついて、
「正直に言えば、ふぶきさんとせっかく2人きりだったのを邪魔されるのは不愉快よ。でも、実力は確かだし、私が言っても聞くような性格じゃないから、ふぶきさんに任せます」
ハッキリと不快感を表情に出すラズリィー。
茉莉花さん、わがままな感じだもんなあ。
「僕も、ちょっと急過ぎてどうしたらいいのか困っちゃうな」
視線を元居たテーブルに向けると、茉莉花さんが大きな声で松田さんにケーキをおねだりしていた。
「うーん。そもそも、自分より小さい子を連れて歩くのは怖いなあ。明日は、工業地区に行くつもりだったし、職人さんにあの調子で突っ込んでいかれてもフォローできないよ」
「そうね。それはあるかも。茉莉花さんは、生まれてからほとんどの時間を神殿で過ごしているから、何を見ても面白いだろうし」
「そっか・・・でも、納得してくれるかなぁ?」
暫く思案する。
「とにかく、いきなり知らない女の子の面倒までは見れないってことで。今回は諦めてもらおうか」
そう結論して彼等のところへ戻る。
「決まったかい?」
「はい。今回は見送らせてもらいたいです」
「なんでよー!」
茉莉花さんの絶叫がロビーに響き渡る。
「茉莉花さん、落ち着いて。笈川くん、理由を聞いても?」
松田さんが、茉莉花さんを膝に乗せて宥める。特に動揺している風でもないので、元々断られるのはわかっていたのだろう。
「僕たちは、明日から工業地域を捜す予定です。さすがに、小さな女の子を一緒に連れて歩く余裕はないです」
「そうだろうね」
「大丈夫だもん!」
茉莉花さんが、バッと松田さんの膝から飛び降りてこちらに向かってくる。が、途中で完全に足を止める。僕と彼女の間に1メートルほどの高さの土壁が急に出現したからだ、身長の低い茉莉花さんは、頭くらいしか見えなくなっている。
「何で邪魔するの!松田ー!」
茉莉花さんの叫びを無視して松田さんが彼女を後ろから抱きかかえる。
「イヤよー!着いていくのー!」
ジタバタと暴れる。
13歳という年齢とは思えないほどの幼い挙動だ。
どのくらい甘やかされて育てはそうなるのか。
「この壁は・・・?」
「それは、松田様ね。当代、土の王なの」
土の王。
おお、姫に継ぐ属性能力の持ち主への称号、男性版だ。
初めて遭遇した。
土壁は、音もなく姿を完全に消した。ロビーには砂粒一つ残っていない。
「ほら、茉莉花さん。だから無理だって言ったでしょう?これ以上、駄々をこねると参加許可自体を真王様に取り消してもらうよ?」
「うう。松田がイジワルなのー!」
「帰りにお菓子買ってあげるから」
お菓子という単語を聞いて茉莉花さんがピタリと動かなくなる。
「何個?」
「好きなだけ」
「やったー!松田、約束だからね!」
「はい、はい。」
完全に手玉に取られている。
「じゃあ、今回は笈川くんにゴメンナサイして戻ろうか?次会った時に遊んでもらえるようにちゃんと挨拶しようね?」
コクリと茉莉花さんが頷くと松田さんが彼女を床に下ろす。
テテテと僕の方に来て、
「急に来て悪かったわね!次は一緒に連れて行きなさいよね!」
と言ってから松田さんのところへ戻った。
あれで精一杯の謝罪らしい。
「お騒がしせしました。彼女を部屋に連れていくね。立野さん、また後で」
松田さんは、軽く頭を下げて茉莉花さんを連れてエレベーターホールへと向かっていった。流石に夜遅いので今夜は泊まっていくのだろう。
そういえば、立野さんが途中から静かだな、と思ってみたら、1人でロビーの隅に配置されている水槽の魚を見入っていた。この分だと、松田さんの挨拶も聞いていないかもしれない。
「なんというか、元気な子だったね」
「そうなの。神殿でもいつも走り回ってて、余程、退屈しているのね」
「それ、他の巫女姫から怒られたりしないの?」
「いつもお説教コースよ」
それでも、自由奔放らしい。もう年齢どうこうではなく、元来の性格なのだろう。
上手くやっていけるだろうか。不安感しかない。
立野さんが水槽から戻ってこないのでラズリィーと話を続ける。
「そういえば、あの松田さんって人、コグマちゃんて呼ばれてたけど、クマだったりするの?」
ラズリィーは、一瞬不思議そうな顔をしたけれど、すぐに合点がいったのか、
「ううん。立野様が特に親しく思ってる人につける愛称が動物シリーズなだけよ」
動物シリーズ。
松田さんを思い出す。うん、クマかな。コグマでは絶対にないけど。甲斐さんのは見た目でつけたっぽいね。
自分やラズリィー、茉莉花さんは名前からつけたとわかるから、明確に区別しやすい。
少し興味が湧いたので、
「他にどんな動物で呼ばれてる人がいるの?」
「私もあまり詳しくは。あ、恋人のことは小鳥ちゃんって呼ぶそうよ」
「小鳥ちゃん」
「どんな可愛らしい方なのかなー」
うっとりとした表情でラズリィーがいう。
やはり女の子、恋話は気になるようだ。僕も、少しは気になる。
「てっきり結婚してるのかと思ってたよ」
「そうねえ。でも、恋人さんの噂が出てから長いから、そろそろなのかも?」
「そっかー。いいなあ」
なんとなく口から出た言葉にラズリィーが反応する。
「ふぶきさんは、恋人いないの?」
「ナイナイ。こっちにくるまで割と家に引きこもりだったし」
「そうなの。じゃあ、これからそういう出会いがあればお付き合いするつもりはあるのよね?」
「そりゃ、勿論だよ。相手がいればだけど」
「どんな人がタイプなの?」
思ったよりも突っ込んでくるな、と思いつつ理想のタイプについて考えてみる。
「うーん・・・明確にこうっって考えたことないけど、一緒にいるのが自然な人かな?物凄く美人さんとかだとドキドキしてばっかりで疲れちゃいそうだし」
長く交際を続けるには、自分によく馴染む人がいい。まあ、あくまで理想で、好きになってしまったら自分でも理不尽なのが恋心だと漫画ではよく描かれている。恥ずかしながら、可愛いなと思う子は今までにもいたけれど、明確に恋を自覚したことがないので想像でしかない。漫画やドラマみたいにピーン!とくることがあるんだろうか?
ラズリィーは、僕の答えに何やら考えている様子だったけれど、彼女のタイプについての質問返しには顔を赤くして答えてはくれなかった。
女の子って距離が近いのか遠いのかわかりにくい。




