貿易都市 アルクスア 18
ホテルのレストラン『リヴァイアサン』は、洋食の店だ。
白いテーブルクロスに、フカフカのイス。頭上のシャンデリア、静かに流れるBGM、従業員のスマートな立ち振る舞い。どこも見ても高級店です。
丸テーブルで僕の左側に座っている立野さんに、小さな声で話しかける。
「あの、ここってドレスコードとかあるんじゃないんですか?」
ラズリィーは、いつも通りの可愛らしい清楚系ワンピースで、こういう店にいても不自然ではないし、立野さんはスーツ姿だ。僕は、思いっきり普段着。居心地が悪い。
「気にするな。本当に必要な店なら着替えさせてる。この程度で緊張してたらダメだぞ」
余裕の態度でワイングラスを傾けている。
「大丈夫よ。黒の領土ではドレスコードはあまりないから。魔王主催の正式な晩餐会でもない限りは自由よ」
「そうそう。逆に白の領土はガッチガチだから、今のうちに雰囲気なれしておけ」
「うう・・・」
お城でたまにフルコースが出ても、自室で気楽に食べていただけなので、いざ、きちんとしたレストランで目の前に出されると萎縮してしまう。
日本の高校生は、フルコースなんかに縁がないのが普通にはずだ。
ナイフとフォークを片手に何とか食事を勧める。
料理はどれも美味しかった。
イカも、刺身が出てきたので食べてみたら、シャクシャクとした繊維質なヤマイモの短冊切りのような食感だった。確かに、火を通したらドロドロになりそうだな、と思った。
「立野さん、お久しぶりです」
食後のデザートを食べていたら頭上から声がした。
振り返ると、40代くらいだろうか、中年のスーツを着た紳士と着物姿の少女がいた。
男性の方は、かなりガッシリした体型で甲斐さんが西洋の騎士なら、この人は大剣や斧使いといった風情だ。身長もかなり高そうだ。180は余裕で越えているだろう。対照的に、少女の方は、真っ黒な黒髪を綺麗に結い上げ簪でまとめて大人っぽい大輪の華模様の着物を着ているけれど、かなり小柄だ。150ないんじゃないだろうか?
「コグマちゃーん!」
立野さんが、立ち上がって男性に抱擁した。
甲斐さんの子猫ちゃんに引き続き、コグマちゃん。
この人、クマになるんだろうか。
男性も、慣れているようで、まあまあ、と背中をポンポンしている。
「食事の邪魔をしてごめんね」
男性が僕とラズリィーに声をかけてきた。
「もう終わるところだったので気にしないでください」
「そーだよー。コグマちゃんはー?」
「こちらも、終わって部屋に戻るところだったんだ。見かけたから声をかけたんだよ」
「そっかー!じゃあ、ロビーで話しようよー」
立野さんは、いつにもましてご機嫌だ。
このコグマちゃんさんとかなり仲が良いようだ。
皆でロビーにいって大きめのテーブルを囲む。
「紹介するね!この人はコグマちゃん!」
立野さんがいい笑顔で言った。
「立野さん・・・。えと、はじめまして。俺は、松田洋平っていいます。こちらは、小早川 茉莉花さん。ラズリィーさんは、以前にお会いしたことがありましたね」
立野さんに困ったような笑顔を向けた後で、松田さんが自己紹介をした。
茉莉花さんは、ぺこりと会釈をしてくれたので、僕も釣られて頭を下げた。
「ええ。松田様、お久しぶりでございます。こちらには、観光でいらっしゃったの?」
「いや、小早川氏が所用で手が離せないとのことで、茉莉花さんの保護者代理ですよ」
「ん?そういえば、まりっちが外出てくるの珍しいね?」
立野さんが、茉莉花さんに声をかける。
茉莉花さんは、立野さんを一瞥したあと、僕の方を見て、
「貴方が、ふぶき?」
「え、はい」
小さな彼女から、予想外に高圧的な物言いをされて若干逃げ腰になる。
「茉莉花さん、そんな言い方すると男の子は怖がってしまうよ」
松田さんが嗜めるように言いながら頭を撫でた。
茉莉花さんは、ふてくされたように、
「これでも、優しく話してるつもりよっ。松田は私を子供扱いしないでよ」
実際、見た目は子供なのだけれど、違うのだろうか、と首を捻る。
茉莉花さんは、僕と同じくらいか、少し年下に見えた。
「まだ13歳だろう。俺の4分の1もないじゃないの」
やはり年下だったようだあ。4分の1ということは、単純に4倍すると52歳になる。
松田さん、若く見えるんだ・・・・
まあ、良さんの前例もあるので、この世界で見た目は余り拘ったら負けな気がする。
「あれ、まりっち、おっきーがお目当てで神殿から出てきたの?」
立野さんの言葉に、ラズリィーがピクリと反応する。
神殿、ということは、彼女も巫女姫なのだろうか。
「そうよ!」
「どういうことでしょうか?」
ラズリィーが、いつもよりも堅い口調で問いかける。
「私は、失せモノ捜しの巫女だもの。霙お姉さまの後継者を捜すのを神殿でやるより、ふぶきと一緒にやった方が効率がいいって真王陛下に言われたから来てやったのよ!」
やはり巫女姫だったようだ。
神殿で、捜索能力持ちの姫たちも、捜索をしているのは講義で聞いてはいたけれど、良さん、僕聞いてないよ?
「いやあ、今回の旅の後、王都で合流する予定にしていたんだけどね」
「せっかく外に出る理由が出来たのに待ってなんかいられないわよ!」
「って、わけで連れてきたんだ」
松田さんが、若干困っているようだ。
つまり、この旅が終わってから、良さんから正式に話があるはずだったのに、彼女は待てなくてここまで追いかけてきたということか。
「まりっち、それ真王に報告してきたの?」
立野さんがもっともな質問をする。
「してないわよ。言って待てって言われたらイヤだもの!」
おう・・・
「茉莉花様、そのような勝手な振る舞いをしては、他の巫女姫のお姉さまたちの名誉に傷か付きます」
「なによ。ラズは、2つしか歳もかわらんのにコウルサイわね!いいじゃない!」
ラズリィーは、何かを言いかけたが飲み込んだようだった。
13歳という若さなのか、彼女の元々の性格なのか、小さな台風のような娘が来た、と思った。
「そんなわけで、言い出したら聞かないから、一応連れてきたんだけど、及川くん?が無理だというなら俺が責任持って連れて帰るよ」
松田さんが、僕の方を見た。
なんだか、お父さんみたいな人だな、と思った。
シノハラさんが、厳格な父親なら、松田さんは、子煩悩なパパという感じだろうか。
しかし、どうしようか?
僕は、茉莉花さんとラズリィーを見比べる。
どうにも、この2人の相性はよくなさそうだ。
僕自身も振り回されそうな気がする。
「まあ、この旅は、おっきーとらずっちが任されてるんだから、一旦2人で話し合ってきたら?」
立野さんがナイスな助け舟を出してくれた。
僕は、ラズリィーと話合うためにロビーの少し離れた場所へと席を移動した。




