貿易都市 アルクスア 17
潮風が心地良い。
目前には、小・中規模の船舶が幾つも停泊している。
賑やかに荷の上げ下ろしをしている人々。
防波堤には、釣りを楽しんでいる人の姿も見える。
「ふぶきさん、あちらに砂浜があるわ」
「本当だ!売店っぽいものもあるね」
300mほど離れた所に砂浜が見えた。
僕たちは、そこに向かって歩き始める。
立野さんは、ホテルにチェックインすると「寝る」と言って部屋へ行ってしまった。
2時間弱に渡る運転で疲れたのだろう。
食事は、昼夜一緒にまとめて食べるとのことなので、僕たち2人だけで貿易港を散策している所だ。
「立野さんが、魚食べたそうにしてたから、昼ごはんは違うものにしとく?」
「そうね」
歩きながら周囲の店の看板を眺める。
ある一つの屋台が目にとまる。
『たこ焼き』
「たこ焼きってさ」
「うん?」
ラズリィーが、首を傾げる。
「日本では、粉の生地の中に、たこの足とかを入れて焼いた丸いヤツなんだけど、こっちのは姿焼きだね」
目の前で、たこの丸焼きが焼かれていく。
日本でも、イカ焼きは、姿焼きや串焼きのものがあるけれど、たこは初めてみた。
「そりゃ、たこを焼くから、たこ焼きだもの」
「そう言われるとそうなんだけど」
試しに、足部分の串焼きを買って齧る。
たこらしい弾力と歯ごたえ。自分の知っているたこよりは、ほのかに甘い。タレのせいだろうか?
「いか焼きはないの?」
「いか?あの白いの?」
「うん。こっちでは食べないの?」
「焼いては食べないわね。大抵がお刺身よ。焼くとドロドロになるから」
「どろどろ?」
「そう。摩り下ろしたイモみたいに」
「へぇー」
似ているようでまったく違うようだ。
夕食の時に、刺身があったら食べてみよう。
砂浜は、ゴミ一つない綺麗な状態だった。
船場が近いと多少ゴミがありそうなものなのに、この世界の人はエコなのかな。
何気なく周囲を見ていると、小さな子供が持ってたお菓子の袋を砂浜に捨てるのが見えた。
やれやれ、やっぱり子供にまでは徹底するのは難しいよね。
拾おうと近付いていると、落ちた袋がシュッと一瞬で砂浜の中に吸い込まれた。
「ラズさん、今、袋が砂に・・・」
「ああ。砂蟹よ。海域付近で売っている袋の類は、砂蟹の餌が素材に使われているの」
なんと、食べ終わった後は、砂蟹の餌として使えるのか。
「砂蟹って大きいの?」
「いいえ、このくらいよ」
ラズリィーが手の平を丸める。
片手に乗るくらい。ハムスターくらいだろうか?
「食べれるの?」
「毒があるし、小さいから態々食べる人はあまりいないけど。一応、食べれなくはないみたいよ?」
毒があるのか。
小さいし、毒を避けて食べるのは処理が面倒そうだ。
結局、浜辺周辺の屋台で買い食いしたり海を眺めている間に夕方になったのでホテルへ戻った。
潮風で少し身体がベタつくので、各自部屋に戻って入浴をしてロビーで待ち合わせることになった。
今夜の夕食は、ホテルのレストランを予約済みだからだ。
僕はシャワーを済ませると立野さんが起きて珈琲を飲んでいた。
今回のホテルは、昨日まで泊まっていたビジネスホテルではなく、観光用の豪華なホテルだ。
ラズリィーは、シングル。僕と立野さんはツインで同室になっている。
今は、部屋で軽くシャワーで済ませたが、大きなホテルだけあって大浴場もある。夕食後にゆっくり堪能する予定だ。
貿易港と工業地域周辺は、職人や商人が多く、安いビジネスホテルだと喧嘩っぱやい人物が多いとのことで、立野さんの勧めで大きなホテルになった。
もっとも、もし絡まれるような事態になっても、警護の人がいるので心配はないようなのだけど、女性を連れているのだから、安全な環境は大切だろう。
それにしても、立野さんと同室でホテルに泊まる日が来るなんて、人生わからないものだ。
初対面の時、とても怖かった分、今は頼もしい気がしてくる。
「おっきー、おはー」
この、謎のテンションさえなければ。
「おはようございます。っていっても、もう18時ですよ」
「やー、久しぶりの運転が思ったより堪えたわー」
「あれ、普段は運転しないんですか?」
日本で生活している成人男性なら、それなりに機会がありそうなのだけれど。
僕の疑問に、
「東京にいると電車のがラクだしな」
「あー、なるほど。大都会だもんな」
納得する。
東京に行ったことはないけれど、交通機関が発達していることくらいは知っている。
「そういえば、立野さんってどうしてコッチにくるようになったんですか?」
僕以外の落ち人の生活が少し気になった。
「ん?俺は、まー遺伝だろうな。ガキの頃から自然にコッチにきてたし」
「そういう人って結構いるんですか?」
立野さんは、しばらく考えてから、
「各都道府県に10人くらい?偶然、落ちてくるヤツは、年代によって増えたり減ったりだな」
思ったより多いのか、少ないのか。
「皆さん、それぞれ向こうで交流とかしてるんですか?」
「そーいうヤツもいる。一族的なヤツは固まってるし、俺は妹がコッチに嫁いだから、様子見にチョコチョコ顔出してたから他のヤツらとは交流ないほうだな」
そういえば、冬の巫女姫であった霙さんは、落ち人で、立野さんの姪だったな、と思い出した。
「コッチの人との間に生まれた子供って、ムコウで暮らすもんなんですか?」
「家の都合と本人の資質で違うんじゃないか?真王の子供は、全員コッチで育ってるし」
そういえば、良さんの奥さんも落ち人だったんだっけ?
「色々なんですね」
「まー、平穏無事に生活できればどこでもいいさ」
「それは確かに」
現段階、僕は、幸運な部類だろう。
異世界といえども、大人に、しかも権力を持っている人に保護されて、衣食住に心配はないし、手探りではあるけれど、それなりに楽しんでいる。
よくよく考えてみれば、引きこもり気味だったので、学校で談笑するような友人はいても、こうやって会えなくなっても絶対に会いたいと思うほどの親友がいなかったせいもある。両親のことは気にかかるけども、日本での生活に、あまり執着はない。
補助アイテムのおかげで動き回って、こうやって旅まで出来ている今のほうが、充実していると言えるかもしれない。
「そろそろ、いくか。らずっちがお腹空かせてるにゃー」
「そ、そうですね。行きましょう」
こんな風に、面白い大人とも出会えたし?
僕は、立野さんについて部屋を出て行った。




