貿易都市 アルクスア 16
「忘れ物ないかー?」
立野さんに聞かれて手荷物を確かめる。
今までに買ったお土産の類は、王城へ送ってもらっているので自分の着替えの類しかない。
「大丈夫です」
「私も、大丈夫です」
「じゃー、いくかー」
立野さんが車のエンジンをかける。
僕とラズリィーは後部座席に座っている。
昨日は、2人でゆっくりまったりと中央街を散策して、今日からは貿易港と工業地区へ向かう予定だ。
今までに比べると移動時間が長いのでホテルは引き払うことにした。
貿易港と工業地区の境付近で新たにホテルを捜す予定だ。
ゆっくりと走り出した車内から外の風景を見ながら立野さんに話かける。
「今日はお仕事大丈夫なんですか?」
今は、午前10時。
立野さんは、昼間は日本で仕事をしていると聞いていたので、車を出してくれるのは沢渡さんか別の警備隊の人だとばかり思っていたので驚いた。
「おー。あっちは土曜日だから気にするな」
「あ、そうなんですね」
すっかり曜日の間隔がなくなっていた。
そういえば、この世界に曜日の概念はあるのだろうか?
四季姫のことばかりで他のことを深く考えてこなかった。
時計は24時間表示だから、地球と同じなのだろう。
「正確には、まだ金曜の深夜だけどな。ちょっと時差があるんだ」
「それって、立野さん眠ってないんじゃないんですか?」
「仮眠してきたから平気だよ。向こうについたら先にホテルで寝てるし。二人のデートのじゃまはしないよ」
ニヤニヤと意地悪い笑みを浮かべているのがバックミラー越しに見える。
ラズリィーは何も言わない。
「本気で眠かったら言って下さいね」
「ほいほい。ちょうど昼頃に貿易港につくから魚食べようぜ」
「やっぱり魚が美味しいんですか?」
「まあ、漁港じゃないから世界一とはいかないけどな」
貿易港は、他国からの荷物が届く港なので、釣りたての魚というわけではないらしい。
「主な商品って何になるんですか?」
「ん。地球と違うって意味なら魔石と聖石の取り扱いが多いな」
講義で習ったことを思い出す。
モンスターから取り出す属性結晶。
自然に鉱物として採掘される魔石と聖石。
魔石は、黒の領地で、聖石は白の領地でしか産出されないらしい。
迷宮で属性結晶を最初は魔石だと思ったのが懐かしい。
本物の魔石と聖石は、未だ見たことがない。
「それって、何に使うものなんですか?」
「んー、主にはアクセサリーの類だな。地球でいう宝石が優秀なパワーストーンになったと思えばわかりやすい」
宝石か。
女の子が喜びそうだ。
僕は右隣に座っているラズリィーを見る。
「とても綺麗なのよ。上質で大きいものは滅多に見ることはできないけれど、王都に戻ったら真王陛下にお願いしてみたら見せていただけるかも知れないわよ?」
「あー。宝物庫に、魔剣があるはずだ。聖剣の方は息子に持たせてるから無理そうだな」
「魔剣はわかるんですけど、なんで聖剣を魔族が持ってるんですか・・・」
この世界は色々と常識が違い過ぎて時々、思考が追いつかない。
魔族が聖剣を持ったらダメージを受けそうなものだが・・・
「何でかはわからないけど、魔力はゼロで、聖の能力を持って生まれた王子が1人いるんだよ」
「魔族なのに?」
「疑いの余地がないくらい真王ソックリな息子だよ。前代未聞だな」
真王ソックリと聞いてテレビで見た現魔王を思い出す。
「今の魔王様・・・?」
「あー。アレも似てるけど、下の王子の方だよ。髪の色まで完全にコピーみたいなヤツ」
「本当に、よく似てるのよ」
ラズリィーも肯定してくる。
現魔王は、黒髪だった。良さんのまばゆい金髪とは違う。
「現魔王即位が確定するまでは、アレが次の魔王だろうって誰もが思ってたんだけどな」
「魔力がないのに?」
聖なる能力を持っている人物が魔王になったら、それは魔 王じゃなくない?
「今になって冷静に考えればそうなんだけどな」
「真王陛下が一番可愛がっていると評判の王子だったし、何より国民の支持率もダントツだったのよ」
二人がシミジミと語る。
「正直、カリスマって意味でいうなら、アレの方が真王と同格だった。現魔王は、無難、実直?安全牌だな。だから、ついウッカリと真王にミスリードされたわけだ」
「ミスリード?」
「安全に新王に即位させるための一芝居って感じだな」
どうやら即位関係で色々あったらしい。
子供の数が3桁いっていれば、それなりに派閥もあったのかもしれない。
結局、良さんの手の平で踊らされただけで終わったようだ。
聖なる能力を持ってる良さんソックリの王子か。
ちょっと興味あるな。
「脱線したが、魔石や聖石で出来た宝剣は珍しいからな、機会があれば見せてもらえばいい」
「ぜひ、見てみたいですね」
宝剣というからには、国宝級の出来栄えなんだろうなあ。
「工業地域には、鍛冶場もあるし短刀くらいなら目にする機会もあるぞ」
「それはお土産用ですか?」
「まさか。子供が買えるような金額じゃないし、元々の魔力量が少ないと使いこなせないから一般には売られていないよ」
宝石に魔力が込められた物なのだから、当然といえば当然なのかな。
ラズリィーが、補足をいれてくれる。
「属性結晶などで作られた魔法アイテムは、微力でも魔力を通せればそれなりに発動するけど、魔石、聖石で作られたアイテムは、異能相当の能力持ちしか発動出来ないし、その火力は街一つ消し飛ばすほどになるから、基本的には戦争抑止力としての飾りなの」
街一つ消し飛ばされたら、たまったものじゃない。
そりゃあ、一般には売れないわけだ。
「現存する宝剣のうち、最後に発動したのが、黒の宝剣で、3千年前だって話だぞ。世界の半分くらい焼き払ったって逸話がある」
「半分って・・・」
そんな大事件の後で、よくここまで平和になったものだと感心した。
あれ?
逆かな。
それほどの能力を見せ付けて平定した、なのかな?
この世界の歴史について一度、真面目に勉強してみたいな、と思った。




