貿易都市 アルクスア 14
20分ほど待っていると、立野さんが
「おっきー!お・ま・た・せー!」
と元気良く応接室に入ってきた。
今日も、テンションが高い。
僕は、立ち上がってお辞儀をする。
「こんばんは。おじゃましています」
「歓迎するよー。晩御飯食べた?」
「はい。ホテルで済ませてきました」
「そっかー」
立野さんが、僕の正面のソファーに座ったので、僕も座りなおす。
「巫女姫は、どう?」
「あ、はい。落ち着いたようです。今は、大事をとってホテルで休んでいます」
急に、真面目な口調になったので、少し身構えた。
一応、巫女姫は大切な存在なので、その健康状態の話を茶化したりはしないらしい。
「ならよかった。で、1人で来たってことは、女の子がいるといけないようなお店に行きたいのかなー?」
「そんなんじゃないですっ」
興味はある。あるけども、保護者付きで行くような場所でもないだろう。
「なーんだ。マジメだなあ」
「別に、そんなに真面目なわけじゃないですけどっ。今日は、立野さんにお話があってきました」
「俺に?」
立野さんが、僕を見て察したのか、真っ直ぐこちらを見つめてきた。
「聞こうか」
僕は、見た夢の話をした。
あの夢のどこまでが現実にあったことで、どこまでが夢として改変された思い出なのかはハッキリとはわからなかったが、先代冬の巫女姫に会ったことは間違いないことを伝えた。
「そうか。笈川君が、そのくらいの歳だと、10年くらい前になるのか・・・」
立野さんが、何かを考え込んでいる。
僕の呼び名が、おっきーから笈川君に戻っている所をみると、軽い調子の立ち振る舞いは、気持ちに余裕のある時の社交モードなのかな、と推測する。
立野さんも、シノハラさんみたいに、やっかいな性格してそうだよね。
「さて、後は貿易港と工業地区か?領主の館に行くなら面会申請してやるぞ?」
「え・・・それは結構です」
領主って、王弟でしょ。全力で回避したい。
今の所、嫌な王族や貴族に出会ってないけれど、そろそろ異世界モノ定番のダメ貴族に遭遇しそうだから。王族の住む館に、当代の巫女姫がいる可能性もかなり低いだろうし。わざわざ、自分から危険には近寄らないよ。
「まー。特に面白いヤツじゃないしな。船とか見てるほうが面白いか」
「船にも興味ありますね!でも、沖には出れないんですよね?」
青海一族の領地だから、とラズリィーから聞いている。
「うん?興味あるなら、ツテがなくはない。青海の街へ行きたいのか?それとも青海一族を見てみたいのか?」
深海にあるという青海一族の街。
両性であるという青海一族。
どちらがより興味があるかと聞かれれば、かなり不純な動機だけど、一族の方をみてみたい。
しかし、そんな下世話なことを口に出すのは憚られる。
「許可を取るのは大変なのではないですか?」
「街へ行くのは、水中で呼吸が出来るような能力か、魔法道具が必須だから面倒だけど、一族に会うだけなら何日か待ってもらえば可能だぞ」
「え、会えるんですか?」
滅多に内陸に来ないと聞かされていたのだけれど。
僕の驚きに、立野さんがアッサリと答える。
「現在の青海当主は、日本で生活しているからな」
「え?」
「人間の娘に惚れちまって、結婚して日本でサラリーマンやってるぞ」
「はあああ?え?そういうのアリなんですか?」
地球人と恋愛、その上、結婚までしちゃうとか、どんだけ自由なの?
「え?俺の妹も、こっちのヤツと結婚したし、真王の嫁さんも人間だったけど?」
「ええええ?」
確かに、頻繁に行き来があるとは聞いていたけどもっ
さすがに、これは予想外だった。
「そんなに不思議かねえ?好きになったら仕方ないだろ?」
「それはそうかもしれないですけど・・・」
それでも、同じ地球人同士でも、国籍が違うだけで揉めたりするものだ。
「その・・・青海一族の人とか、魔族の人とかは人間と結婚するのに反対されたりしないんですか?」
「反対されて諦めれる相手なら結婚しないだろ」
「はー・・・情熱的なんですね」
この世界の人達は、どこまでも自分の気持ちに正直なようだ。
「なんだ、おっきーはお子様だな」
「そりゃ、まだ16ですから・・・」
「ハハハ、ま、恋は突然くるもんだ。で、会いたいなら連絡しておくけど?」
僕は、少し考えてから、
「今回は、遠慮しておきます。ラズさんの体調を見ながらゆっくり行きたいですし」
「んー。ま、そういうことなら、この後の捜索には車出そうか?送迎だけでもマシだろう」
「そうしてもらえると助かります。そういえば、王都では、車走ってませんでしたけど、何か理由があるんですか?」
僕の知る限り、王都で車を見たこともないし、そもそも車が走行でくるような感じに路面整備されていなかった。
「あー。真王が車嫌いだから」
「え、そういう理由なんですか?」
よく住民から直訴がこないものだ。
馬車よりは、車の方が揺れないし早いだろうに。
立野さんは、僕の疑問に言いにくそうに、
「真王の子供が、1人、車の事故で亡くなってな。この世界の車は、対事故用魔法完備だから、ありえない話なんだが・・・運悪く地球の車が落ちてきてなぁ・・・」
その言葉の続きは聞かなくても理解できた。
落ち人だけじゃなく、落ちてくる物もあるのか・・・
それは不幸な事件だ。
良さんが、王都に車を置きたくない気持ちは理解できなくはない。
そして、その個人的感情を、王都の人々は受け入れたのか。
それは、良さんが国民に魔王として如何に尊重されているのかを示していると思った。
尊敬できる王様がいる国。
今、僕のいる異世界は、まるで物語の中のような世界だと思った。
僕も、この世界の一員として何か役に立てるようになりたい。
当面は、冬の巫女姫捜索と、能力の制御を頑張るとして、他に何か生きがいのような物が見つかればいいな、と思った。




