貿易都市 アルクスア 9
3日目は、役所周辺のビジネス街を少し散策して南西の商業地域へ向かう。
商業地域の一番発展している区画には、8人乗りの馬車で向かうことにした。
徒歩だと時間かかかり過ぎるし、この街に来て初めて見た車にしようかと思ったけれど、父親の運転する軽自動車に乗ったこともあるし、改めて経験する必要性を感じなかった。ラズリィーも車に乗りたそうな素振りは見せなかったので観光らしく大きな馬車にしたのだ。
「あ、これ美味しい」
「ほんと、美味しい」
僕たちは馬車の待合室で朝食として馬車乗り場横にあった露店で買ったホットサンドを食べている。少し甘めの黒パンに野菜とチーズ、ハムが入ってボリュームもたっぷりだ。
「お口にあったようでよかったわ」
朝食をどうしようか迷っていた僕たちに声をかけてくれた御婦人が同じようにホットサンドを食べている。自分の母親くらいの年齢の御婦人は、商業区画に買い物に行くらしい。
「僕たちは、観光なんです」
「あら、どこからいらしたの?」
「王都です」
「まあ、あちらとは大分雰囲気が違って驚いたでしょう?」
「ええ、車と道路に吃驚しました」
王都にいる間はこの世界の道はレンガばかりだと思っていた。
役所が完全に近代的な高層ビルなのだから、アスファルト道路がないのがおかしいことに早く気が付くべきだった。
世間話をしている内に発車時刻になったので馬車に乗り込む。
王都から乗ってきた馬車は外から見えないような個室型で窓にもカーテンが付いていたけれど、乗り合い馬車は簡易な屋根が付いているだけで外からも内からも丸見えだった。内緒話には向いてないが、観光するにはこちらのほうが適している。
自分でも調べては来たけれど、住民である御婦人にお勧めの観光スポットを幾つか教えて貰っている間に商業区画に到着した。お礼と挨拶をして僕たちはまず『アルクスア百貨店』へ向かった。
「まさに・・・百貨店・・!」
僕は、『アルクスア百貨店』1階ホールで感嘆の声を上げる。
王都の城下町にあった小さい商店とは明らかに違う、役所と同じような近代的なビルだった。
眩しい照明、広いフロア、お揃いの制服を着た販売員のお姉さんたち。
地下3階地上15階建ての建物だ。
「ここは、一般的な日用品のほとんどが揃えられてるわ。食料、衣料、日用雑貨、地球と違って魔法道具の類も少し。と、いっても一般向けの簡単なものだけだけど」
「簡単なもの?」
「たとえば・・・ふぶきさんが今身に着けている補助アイテムとか、災害時などの簡易生活魔法道具かな。魔力保有量が少ない人でも使えるものに限られるわ」
「へえ」
とりあえず、地下から見て回ることにする。昼食は、テナントのどこかで食べるつもりだ。
日本の百貨店は地下に大抵は、食料品やお菓子売り場があるのだけど、こちらでは武器屋だった。
補助アイテムとは違う、戦闘のためだけに存在する品々が展示されている。老若男女が普通に手に取り見比べたりしている様に改めて異世界を感じた。
「この武器って、迷宮で使う用なの?」
「え?」
ラズリィーが、不思議そうな顔をしてこちらを見た。しばらくして、
「迷宮に生息するような魔獣類は、一般武器や補助アイテムでは倒せないよ?」
「えええ!?」
僕は、声を上げた。
「え、僕、補助アイテムで倒したけど・・・?」
「え!?その迷宮って王都外れの?」
今度は、ラズリィーの声が大きくなる。
「そうだよ?シノハラさんに連れていかれて1人で4階までこいって・・・」
ぽかーん、まさにそんな感じで彼女は僕を見ている。
「途中から、属性獣っていう種類の犬と仲良くなったから、最後は楽させてもらったんだけど・・・何か・・・変だった・・・?」
「ええ・・・あの、この話は後で落ち着いて2人の時に聞いてもよろしいですか?」
小さな声で、『ここではちょっと』と付け足した。僕は無言で頷く。
「えと、武器の使用場所だったよね。郊外でたまにでるモンスターや獣の討伐用と自分の護身用よ。戦争で使うような上級武器や、魔力保有量が多い人が擬似魔装武器に使うようなものは専門の鍛冶師や役所を経由しないと手に入らないわ」
「なるほど」
郊外、僕たちが通ってきた田園地帯などなら猪や狼くらいは出没しそうだ。自分の護身用っていう用途は、外国でいう銃社会みたいな感じだろうか?日本では日常に持ち歩いたら犯罪だ。
なんだか、話がおかしな方向へいったので武器屋を出ることにした。
地上階層は、概ね日本と同じ感じだった。印象的だったのは、子供用玩具売り場で補助アイテムが売られていたところだ。お値段は、1万円くらい。高いのか安いのか判断しかねる価格帯だ。能力を使いこなせない人には安いだろうけど、子供が自分で買うには高いような気がする。他にも、幼児が遊びながら自然に魔法が発動するような知育玩具など、こちらでは普通に日常なのだな、と思わせた。
レストランは、日本のように1つの階に密集しておらず、各階に点在していた。一周してから決めるには何度も往復することになりそうだったので、途中階にあったガイドマップを見て決めることにした。
「あ、お寿司ある」
ホテル周辺のグルメガイドには『寿司』はなかったので、この世界では生魚は食べないのかもしれないと思いかけていた。
「お寿司?」
「うん、ラズさん、生魚平気?」
無理そうなら今回は見送って、1人の時に機会があれば食べるつもりだったが、
「平気。お寿司にする?」
「うん、ちょっと興味ある」
「じゃあ、いきましょうか。お昼になると混雑するかもしれないし」
腕時計を見ると、もう少しで正午になるところだった。
幸運にも、まだ混雑しておらず直ぐに食事をすることが出来た。
軽く昼食を摂って百貨店を出る、これから規模の小さい商店を幾つか見学する予定だからだ。百貨店では幅広く、小さな店では専門的に取り扱っているらしい。
お寿司の味?
色彩が派手だったことを除けば、とっても美味しかった。
食に外れがないのが、この世界の魅力だよね。




