貿易都市 アルクスア 8
午後近くになって僕たちは、目的地の一つである『アルクスア水族館』へやってきていた。
貿易港周辺の海洋生物を主体に、黒の領土の海洋生物を集めた観光スポットだ。
「みて、ふぶきさん。とても綺麗!」
出会ってから一番はしゃいでいる様子のラズリィーと一緒に大水槽を見つめる。
色取り取りの魚が泳いでいる姿は、日本でも異世界でも心癒される。
オイオイ、お前の仕事は冬の巫女姫捜索だろ!デートスポットで女の子とキャッキャウフフしてていいのか!?って?
問題ない。
本音を言うと、こうあからさまにデートスポットとしてあげられる場所に女の子と2人だと、周囲の目も気になるし、家族連れもいるが、やはりカップルも目に付くし落ち着かない気持ちになるが、いいのだ!これも立派な仕事なのだ。
あの日、ラズリィーも一緒に連れていって欲しいとお願いされた時に、こういう女子が好みそうな場所に連れていって欲しいとも頼まれていたのだ。蒼記さんに!
『ラズは、もう何年も暗闇の中で生活していたんだ。出来るだけ、普通の女の子みたいな時間を体験して欲しいんだ』
勿論、僕は躊躇うことなく了承したよ。
蒼記さんの優しさにも感動したし、僕自身も、ラズリィーが楽しんでくれるなら嬉しい。
朝、ガイドブックを見ていた時に、真っ先に決めたのはココへ来ることだ。
一緒に色々な水槽を見て回り、館内にあるカフェで昼食を摂ることにした。
綺麗なブルーの炭酸水の中には、寒天のようなもので出来た星と魚が氷と一緒に浮いている。
パスタにも、可愛い魚型の卵焼きが入っていた。女性や子供受けを中心に考えられたメニューが他にもたくさんあった。
そもそも、普段から笑顔でいることが多いラズリィーだが、今日は微笑みというよりも無邪気な少女らしい笑顔で、僕はちょっとドキドキしたりした。
こんなに喜んでもらえるなら、今後の日程にも良い場所があれば積極的に組み込んでいきたいな。
やはり旅は楽しい方がいい。
充分に時間をかけて水族館を堪能した後、貿易港の船舶や開港の歴史などの資料を取り扱う郷土資料館へも行った。
こちらは、静かに真面目に見学する。
新しい発見としては、この世界、大型漁船を必要としていないことだ。
観光船や、小さな漁船はあるものの、遠洋にはでないのか地球にあるような大型船舶の資料はほとんど存在しなかった。
ホテルへの帰り道にラズリィーに聞いてみると、
「海は、青海一族の領土ですから、ほとんどは内陸近くでしか船を出さないの。一応、魔族に名を連ねているけれど、ほとんど不可侵です。青海の本拠地は深海だから、誰でも行けるわけではないし、あちらも滅多に陸へはあがってこないので」
「え・・・人魚みたいな・・・?」
「そんなイメージで間違ってないです。陸に上がるときは足に変幻するらしいです」
「日本の御伽噺だと、人魚姫は言葉が喋れないけど、平気なの?」
「それは心配ないわ。にんぎょ・・・ひめ?というのが女性型のことなら、青海一族は両性だから、どちらでもないらしいです」
「へえ・・・両性って・・・こっちではよくあるの?」
男でも女でもある、という状態が曖昧だ。
どちらにもなれるということか、両方の生殖器を持っているのか・・・
どちらにせよ、マキちゃんに次ぐファンタジー生態だ。
「多くはないけど、存在はしてますね。灰の塔の住民は皆無性別らしいですし、色々です」
「はー・・・」
僕は、感嘆の声をあげる。
これなら、同性婚があってもおかしくはない。
「大型船に興味があるなら、シノハラ様にお願いしてみたらいいのではないかしら?数年前に建造されたとか噂をきいたことがあるわ」
「シノハラさんが?」
「急に船で遠くまで行きたくなったとかで、しばらく此方で生活していたとか・・・」
「そうなんだ」
気持ちはわからなくはない。
船も飛行機も、男の浪漫の一つだよね。
シノハラさんの自由っぷりからして、他に何かやっていても余り驚くことはなさそうだ。
夕食は、モーニングを食べた『パインの気持ち』の隣にあるレストランにした。
夕食にパインを食べる気持ちにはなれなかったからだ。
隣の『夕凪亭』は、イタリアン(?)だった。パスタやピザなどがメインだったのでそう思うことにした。引きこもりがちな高校生にはイタリアンレストランは無縁だったので、あくまでイメージです。
『夕凪亭』のパスタは細麺で歯ごたえがしっかり感じられた。魚出汁ベースのあっさりしたソースがとても合って美味しかった。
食事に関しては、王城にいた時も、奇想天外なメニューはなかったし、今だってどこか地球にあるメニューに近いので冒険はしていないけれど、やはり外で自分で選んで食べるという行為が新鮮で楽しかった。楽しく食事をしてホテルへ引き上げた。
明日も今日と同じ時間に待ち合わせることにして自分達の部屋へ戻った。
お風呂に入って明日の行動計画を練っていると腕時計がピピピと音を鳴らした。
僕はテレビをつけてから腕時計をテレビの方へかざす。そうすると画像が切り替わり、画面に良さんが映し出された。甲斐さんから説明は受けていたけれど、簡易テレビ電話、高性能過ぎる。
『吹雪君、こんばんはー。もうホテル?』
良さんの元気な声が聞こえてくる。1日しかたっていないのに懐かしく感じてしまう。
「はい、30分くらい前に戻りました」
『元気そうでなによりだよー。何か面白いものあった?』
「今日は、水族館と郷土資料館へ行きました。あ、シノハラさんが船もってるって本当ですか?」
『あー。そんなこともあったね。一時期ハマってた。世界一周しそうなイキオイだったよ』
ハハハと笑う。
『立野から連絡きたよー。その辺りにいる分には心配ないよ。もし船に乗りたいなら連絡頂戴。港から見るのと海に出るのは違うからね』
「海は危険なんですか?」
『海に棲んでる一族を刺激するとちょっと危険かもねー。海獣の類は心配いらないよ』
かいじゅう・・・海の獣が心配いらないってどういうことなんだろう?
肉食じゃない温厚な生態なんだろうか。
「危険そうなら、やめておきます。今回はラズさんも一緒だし」
『やっだ!吹雪君イケメーン!』
「茶化さないでくださいよぅ」
良さんは相変わらずの様子だ。
『もう2、3日もしたらシノハラがそっち顔出すらしいよ。吹雪君に用事があるんだって。モテモテだね♪』
「シノハラさんが?はい、わかりました。一応。このホテル1週間でとってあるので合流できると思います」
『了解ー。伝えておくね。オヤスミ』
通話(?)を終了して一息つく。
シノハラさんの用事って何だろう。
今までのパターンからいくと嫌な予感しかしないな。
若干、不安になりつつも中断していた明日の予定を決めるべく再度ガイドブックを見つめるのだった。




