貿易都市 アルクスア 6
しばらくロビーでパンフレットとにらみ合いをした結果、初日ということでホテルから近く、観光客向けの名物料理を出す『アクアパレット』という店にした。決まってしまえばロビーで座ってる理由もないので早速向かう。
ホテルを出るとかなり薄暗くなっていた。完全に日は暮れているのだが、流石中心街、ビルの照明や街灯の明かりで完全な暗闇になるような場所は大通りにはない。小路に入れば酒場や大人のお店などがあるらしいが、女性連れで通るわけにもいかない。
興味は、少しある。ないといったら嘘だ。健全な男子高校生なのだ。
5分程で目的の店に着き、ウエイトレスに案内されて席に着く。
店は、商業ビルの1階外側から入れるようになっており昼間はカフェ、夜は軽食を扱っているようだ。
アルクスアは、貿易港を持つ都市だけに、名物とされているものは海鮮料理が多い。故に店内も船内と思わせるような装飾がなされており、店内中央に設置されている水槽には見たことがないようなカラフルな魚が泳いでいる。僕が知らないだけで、地球にも同じような魚がいても不思議はないが、秋刀魚や鯖のような馴染んだ色彩のものはいなかった。
今までの経験上、極端に見た目がグロテスクなものや舌が受け付けない食事は出てこなかったので、安心してメニューの写真をみてボリュームのありそうな商品を選ぶ。
僕は、ハンバーグとシーフードフライのセットプレート。パンとスープはお代わり自由。
ラズリィーは、シーフードグラタンと小さなサラダ。
あとは、日本でもお馴染みのドリンクバーがあったので二人文を注文した。
システムは、日本のファミレスと同じだったので、料理が来る前に早速ドリンクを取りに行く。
日本のものと遜色ない程の種類が用意されていたので、とりあえず冷たいドリンクの右上から攻略することにした。グラスに半分くらい入れて飲んだら次、と完全制覇は無理でも少しでもこの世界の飲食料に慣れておいて損はないと思う。
どのドリンクも、どこか日本で飲んだことのある味に似ていたが微妙に色が違ったり名称が違った。ただ、大きい都市限定なのかわからないが、日本での名称を伝えれば店員さんがコレが近い味ですと教えてくれる。鮮やかな栄養ドリンクのような色のドリンクの前で首を傾げていたら『リンゴジュース』とウエイトレスさんが教えてくれた。確かに色はかなり濃いが味はほとんどリンゴジュースだった。缶の果汁飲料というよりはジューサーで丸ごと絞った繊維の残るリンゴジュースに近い喉越しだった。
そんな小さな冒険をしている間に料理が届く。
ハンバーグは標準的な普通のハンバーグだった。もしかしたら使用している肉は、未知の動物かもしれないが味は至って普通だ。シーフードフライは、ナイフで半分にすると真ん中の白身と対照的に茶色に香ばしく上がった衣と外皮の鮮やかな青色に一瞬躊躇したが、味は淡白な白身魚の味だった。カレイに似ていると思った。
時々、店内の内容についてや、持ってきたドリンクの感想などを言い合いながら楽しく食事を終えると僕たちはホテルに戻った。一緒に14階までエレベーターで昇って部屋の前で別れた。
明日は、9時にロビーで待ち合わせることにした。
僕は、自分の泊まる141号室のベッドに転がる。
そしてベッドサイドに置いてある宿泊ご案内の小冊子を見てみる。
ビジネスホテルらしく部屋に小さなユニットバスとトイレ、小さな冷蔵庫、そしてテレビがある。
スイッチは、ベッドの枕元にあった。
押してみると王城の僕の部屋と同じように映像が空中に浮かび上がった。座っても寝転んでも見ることが出来る。パンフレットに本日の番組案内と使用方法のプリントがあった。
「こうか!」
僕は、画面に向かって右手を翳して右から左にスライドするように空を切る。
画面が、パッと切り替わった。
「変わった!タッチパネル方式だったのか!」
実際に画面に触れることは出来ないのにタッチパネルとはこれ如何にという感じだが、思わぬ所でチャンネルの変え方がわかってしまった。ずっと起動ボタン付近に仕掛けがあると思って王城でテーブルの周りをグルグルしていた自分が少し恥ずかしい。誰かに見られていなくてよかった。
チャンネルの変え方がわかったので番組表に目をやる。
20チャンネルほど表示可能なようだ。番組案内の文字列から普段見ていたニュースチャンネルはすぐにわかった。文字といえば、テレビもそうだが、街角の看板といい、先程行った『アクアパレット』のメニュー表といい僕には日本語に見えている。余り深く考えていなかったが、補助アイテムの自動翻訳機能は視覚まで有効らしいと改めて認識する。
王城の中は、おそらく良さんが僕にあわせて日本語表示にしていた場所もあるだろうけれど、旅先でまで徹底するのは難しいだろう。
恐るべきオーバーテクノロジーだ。
新たな発見に大満足して、一旦お風呂に入ることにした。
恐らく明日の朝までは完全に一人だ。
そう思うと不思議に寂しいような気持ちになった。
王城に部屋を貰ってからは、始終誰かが一緒だったわけではないけれど、異世界で、知り合ったばかりの人々に囲まれていたのに孤独感を感じたことがなかった。
良さんの周りは不思議と自宅のような居心地のよさがあった。
泊まるだけに特化したビジネスホテルの一室は、それをより強く感じさせた。
寂しさを振り払うようにシャワーで身体を洗い流してから再びベッドに腰掛ける。
テレビでは調度、王都での出来事をやっていた。
魔王と良さんが、何かの行事に二人揃って顔を出したらしい。二人が並び立つのは新魔王即位以来始めてのことだとか、ニュースキャスターが話している。
映像が、その行事のものに切り替わる。
良さんと、その隣に良さんに良く似た、しかし真っ黒な髪の40代後半くらいの紳士が映る。
恐らく黒髪の方が、今の魔王なのだろう。
やっぱりな・・・
最初出会った時に思った『若過ぎる』は正しかったのだと思う。
息子である魔王が40代後半に見えるということは、その父である良さんはそれ以上の年齢なのは間違いない。息子より若く見えるって不思議な世界だなあ。
良さんが、魔力で若く見せているのか。
息子が、威厳を持たせるために老けて見せているのか。
もしかすると、息子もあれで若く見せているのかもしれない。
良さんの魔力保有量が凄いという話からして、生まれ持った素養で成長速度が遅い可能性もありえる。
異世界って、謎が多過ぎる。
そんなことを思いながらアルクスア到着初日を終えた。




