貿易都市 アルクスア 3
昼食は、『うどん』を食べた。
のんびり観光気分で歩いている時に、『うどん』のノボリが見えたからだ。
旅先で、そこの名物を食べれる人と、馴染みのある食べ物を選ぶ人の違いってなんだろう?
勇気?
好奇心?
行動力?
少なくとも、僕はあまり大胆な冒険はしない性格だ。
『うどん』は、太めでコシがあって、讃岐うどんを思い出させた。出汁も、カツオ出汁とは微妙に違ったけれど、違和感は少なく美味しく食べられた。
お店を出て、馬車へ戻る途中で御者さんに、ここの名物が何だったのか聞いてみたら、
「ここの名物はアレだよ。温泉卵」
と、いくつかの屋台を指差した。
僕は、がっくりと肩を落とす。温泉地だからあることが普通過ぎてスルーしていた。温泉卵なら、警戒することもなく食べられる。
折角なので回転焼きと一緒に3人分買った。後でおやつで食べるつもりだ。御者さんも、小腹が空くだろうから、と渡しておいた。
延々と続く田園地帯を抜けた2時過ぎに、カタクラ男爵領と貿易都市アルクスアの境についた。王都と男爵領の境にある門は、見逃してしまいそうなほどスムーズに通過できたのだが、さすがに最大の貿易都市だからなのか、通行証の確認が厳しいらしく馬車や徒歩の人々はそれぞれに列をつくって順番待ちをしている。
「大きいな」
僕は、窓から貿易都市を囲む巨大な壁を見上げる。
王都と男爵領の間には、よく見ないと見落とすほどの簡素な門と境を示す杭のようなものしかなかったのに比べて圧倒的に大きく堅牢なつくりに見える壁だ。いかに平和なこの世界といえども、多民族が集う商売の街だ、トラブルもそれなりに発生するのだろう。それでも、馬車で訪れる人は少ないらしく、僕たちの列は早く進んで30分程で通行許可が下りた。御者のおじさんが門番に見せていた通行証が、真王直々の発行物だったせいもあるだろう。乗っている僕とラズリィーに対しての聞き取り調査などはなかった。
ゆっくりと壁の一部が開かれている門を潜ると視界が一変した。
「車だ・・・!」
今まではレンガが敷き詰められていた街道が、アルクスアに入った途端に、道路になっていた。本物のアスファルトで出来ているのかは僕にはわからないけれど、見た目は完全な道路だ。そして、そこに自動車が走っている。黒の領土で最大の発展を遂げていると信じていた王都になかった自動車に驚きの声をあげても不思議はないだろう。道路は、車が通る2車線と馬車が通る2車線の4車線に別れていて、歩道も広く取られており、住宅などは5階~10階建てのマンションが多く見える。道路の先、中心地の方を見れば、新宿のような高層ビル群が見える。
ここが異世界であることを完全に忘れさせられそうな景色、それが目の前にあった。
1時間ほど、窓の外の景色に圧倒されているうちに中心地へ入り、馬車が止まった。
「お疲れ様。到着だよ。帰りは、連絡してくれたら、またここに来るから。気をつけて楽しんでおいで」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
僕たちは、御者のおじさんに別れを告げて馬車停めの近くにあった喫茶店に腰を下ろした。
帰り道の連絡は、良さんに貰ったカードで出来ることになっている。お財布兼簡易簡易通信機らしい。
ラズリィーは、紅茶を。
僕は、ココリム(コーラのような炭酸水)を飲みながら寛ぐ。ずっと馬車で座っているだけでも、それなりに疲労感があった。
「ふぶきさん、まずは今夜の宿泊場所を決めましょう。ある程度、リクエストがあれば私が案内できます」
「リクエスト・・・?」
「ええ、ふぶきさんは日本人ですから、和風の旅館とか。王城のような洋風建築のものも。あとは、商売人などが泊まるだけに使う簡易なものまで。色々あり・・・あるわ。食事メインで決めることも。外食をメインにするなら、泊まるだけの宿になりま・・・なるわ」
僕は、ラズリィーの言葉に少し考える。
旅館、は格式高そう。お城みたいな、はお値段が高そう。商売人が泊まるだけっていうのは所謂ビジネスホテルだろうか?
「食事は、捜索隊なんだから、街を広く歩く意味では外食がいいよね。女の子のラズさんが泊まるのに差し支えがなければ平民が気楽に泊まるようなところがいいのかな?礼儀作法に自信もないし」
「そうね・・・私もそれでいいと思います。このあと、チェックインだけして、役所へ行って到着の報告をしておきましょう。王弟殿下に報告をしておくと何かあってもスムーズに対処できると思うわ」
方向性を決めてから僕たちは店を出た。その足で予定通りチェックインを済ませる。泊まった経験はないけれど、おそらく日本でいうビジネスホテルだろう。20階建てのビルの14階141と142の2部屋を一週間で借りた。一週間はあくまで予定で、どうなるかはわからない。どのくらいの日数で街中を回れるのか実際に試してみないとわからないし、本当に僕が、巫女姫様を見つけられるのか、自分でも未知数過ぎて予測がつかない。良さんは、『近くにいけば感じる』なんて軽く言っていたけれど、僕には良さんの多いといわれている魔力保有量ですら感知出来ていない。たまに、補助アイテムが呼応したり、祭典の時のような虚脱感を感じた程度だ。不安しかない。それでも、見つけないと自分が代打をすることになる。ラズリィーのことで内情を知った今となっては、自分の命に危険がないのなら、見知らぬ女性に危険なことをさせるよりも、このまま知らないで一生を終えるのも良いのかもしれないと思わないでもないが、それを決めるにも、僕はまだこの世界でお客様だ、権限はない。
ホテルを出ると、ラズリィーの案内で一際大きな高層ビルへと向かった。
役所だ。
王都とほぼ同じ造りだが、1階ロビーの壁面にいくつもの画像が広がっているのが興味深い。
ほとんどは、ニュース番組に見える。あとは街の中の監視映像だろうか、色々な視点で映し出される街の風景。ぼんやりと見つめていると、いつの間にかラズリィーが受付を済ませて戻ってきていた。
「ふぶきさん、どうやら真王陛下が念のための警備をつけて下さっていたようなの・・・昼間は、ともかく夜間の捜索は、危険なこともあるだろうということで。行き違いがあってはいけないので一度面通しをしたいということらしいのですけど、どうしますか?」
「あー。こんな大都会じゃ夜間徘徊は危険だよね・・・つまり、警備の人の顔を知っておけってことかな?」
夜道で逃げるような状況になっても、頼れる人の顔を知っておけば救援依頼はしやすい。危険な人物にヘルプ要請して騙されて何事かあっては大変だ。特にラズリィーは、女の子なのだから。
「そうです」
「それでいいんじゃないかな。せっかくの良さんの好意だし、甘えよう」
僕は、ラズリィーと一緒に再度受け付けに行き、了承の旨を伝える。受付のお姉さんに案内されて、応接室へと向かったのだった。




