貿易都市 アルクスア 2
衝撃の言葉に、思ったよりもダメージを受ける。
「蒼記様は、その方のことが本当にお好きなのです!」
「そう・・・なんだ」
一度は考えていた可能性のひとつなのに、ショックを受けている自分に驚いていた。
あれほど、蒼記さんに恋愛感情はないと思っていたのに、特定の誰かのものだと思うと、なんだか悲しいというか、くやしいというか・・・
あ、これはアレだ。
憧れていたアイドルの熱愛報道みたいな感覚だ。
手は届かないことは理解していても、誰かのものになるとは思いたくない、歪な独占欲に似た感情。
「ふぶきさん・・・やっぱり、ふぶきさんは私よりも蒼記様が好きなの?」
ラズリィーの真剣な声音に、自問自答をやめて顔を向けると、泣き出しそうな顔で僕を見ていた。
「そんなんじゃないよ。ちょっと、色々吃驚しちゃっただけ」
僕は、手を伸ばして対面に座るラズリィーの頭を軽く撫でる。
この間も、蒼記さんが好きなのかって聞いてたな。
これは、アレかな。
あの美少女ぷりにばかり目がいって、ラズリィーのほんわかした癒し系の良さがわからないアホな男が過去に彼女を傷つけたことがあるってやつかな。
「僕は、ラズさんみたいな子の方が、話しやすくて良いと思うけど」
「ふぶきさん・・・ありがとうございます」
彼女は、頬を染めて微笑んだ。
なんだか、話がおかしな方向へ進んでしまった。
気恥ずかしい落ち着かない空気が馬車の中に漂う。
話題を変えよう。
「えーとアルクスアに着くのは夕方になるんだっけ?」
「そうですね。4時くらいになると思います」
僕は、出発前に甲斐さんから貰った腕時計を見る。王都を出たのが10時。今は11時なので、まだまだ遠い道程のようだ。窓から見える景色は、まだ街並みであることを考えると、王都を完全に抜けてはいないようだ。
「お昼ご飯は、どうしようか?」
どこかお店に入るにしても、王城でずっと食事をしていたので、この世界での外食の作法は知らない。
お金の問題は、今の所ない。良さんが、『必要経費はここから』とクレジットカードのような形の透明な板をくれている。それ以外に、あの魔石改め、属性結晶を換金して自分の個人資産として別のカードも貰った。驚いたことに、あの半日の迷宮探索で日本円にしておおよそ20万ほどの金額になったらしい。
後半、柴犬たちと一緒でほとんど出なかったのが若干悔やまれる。
金額の単位だが、ちゃんと現地表現があるらしいのだが、日本語に訳すのが困難な発音のため、落ち人には、その落ち人の出身国の単位のままで通すことになっているらしい。
「そうですね。王都を抜けるのにまだ時間がかかりますから・・・かかるから・・・」
若干、言葉遣いが元に戻りそうになって、途中で気がついたように言い直す。ずっと巫女姫として生活していて砕けた口調で話す機会が少ないのだろうな、と思った。
「ちょうとお昼過ぎくらいに、小さな宿場町に着くので、そこでいいと思いま・・思う、よ」
王都と隣の領地の境目近くにある、旅人が使用する宿場町。
出発前の予習で見た地図と思い出す。
「ああ、泊まれる場所が多いってことは、お店も多そうだよね」
「ええ。そこを抜けて、カタクラ男爵領へ入ると、ほとんどは田園地帯になるので、そこが無難かと思いますわ」
「そういえば、そこからは別の貴族の領地なんだっけ。えーと、アルクスアは誰の領地なんだっけ?」
「王弟殿下、リイト様ですね」
「今の魔王様の弟か。そういえば、僕、王族って良さんにしか会ってないんだよね」
「そうですね。学生をされている方々以外では、あまり気安くお会いする機会はないかと。・・・真王陛下は、かなり自由な方なので・・・」
ラズリィーの言葉に、僕は頷く。
多分、護衛もつけずに自由に動き回ってるのは良さんくらいだよね。
やっぱり、この世界の人間がみても、自由過ぎるんだと再確認できた。他の王族に出会った時は、ちゃんと礼儀正しくしておこう。
その後もたわいのない雑談をして、少しラズリィーの言葉遣いが落ち着いた頃に宿場町へ入った。
色々な建築様式が混雑していた王都に比べると、温泉町という様相だ。散策できるように広めに配置された通路とこじんまりとした旅館風の建物と小さな商店が点在している。
馬車を止めておける広場で一旦降りて、僕とラズリィーと御者のおじさんは遠慮していたけれど、お世話になっている旅仲間なので誘って三人で歩く。
お土産をみていると、ここには温泉も湧いているらしく、温泉饅頭のような菓子類が数種類。回転焼きのような菓子の露店もあって、そこそこ賑わっている。
周囲を歩いている観光客らしい人々を見ると、多種族が混沌としている王都城下町と違って人間に近い、というかほぼ人間が多い。獣人や、妖精のような種族は、商店の店員にはいるが、客ではほとんどいないようにみえた。それをラズリィーに尋ねると、
「ここへ観光へくるのは、ほとんどが白か灰の民族ですから。黒の民族のような多人種は少ないのが普通なの」
と、いう答えが返ってきた。
やはり黒の王は、魔王というだけの意味はあるのか、と思った。落ち人、地球の人間から見れば、黒の領民は魔物、魔族のイメージのほうが馴染みやすい。外見的判断では間違いない。
つまり、聖なる魔法を得意とする白の領民は、天使のような扱いになるのだろうか?
隣を歩くラズリィーを見る。
白の民だという彼女は、外見的要素では、薄桃色で金髪ではないし、天使のイメージとは少し違うけれど、その身にまとう癒し系のオーラは間違いなく天使らしい。見た目だけなら、真王のほうが圧倒的に天使っぽいけれど。
アルクスアの次は、白の領地へ行ってみるのもいいかもしれない。




