マキちゃんのお家と家族
「さあ、乗るのだ!」
マキちゃんに促されて、僕は恐る恐る背中に跨る。
乗馬なんか一度もしたことがない、乗ったことがあるのは体育の跳び箱くらいの僕にとって生き物に乗るのは驚きと恐怖が半々な感じだ。
思ったよりも視界が高くなって、ただ座っているだけだと落ちそうだったので、マキちゃんの首元にギュッとしがみついた。
「ヨシ、いくぞ」
マキちゃんが呟くと上方に持ち上げられるような感覚がして、あっという間に視界の景色が動き始めた。と、いっても雪、雪、雪の積もった木、雪のエンドレスで距離感は掴めなかった。
結構なスピードが出ているような気がするけれど、僕の恐怖心が凍りついたのか、マキちゃんの運転が上手なのか、落っこちてしまいそう、と思うことはなかった。
しばらくすると屋敷らしきものが見えてきた。
マキちゃんは、躊躇いもなく屋敷の正面で止まったので、ここがマキちゃん宅で間違いないらしい。
洋館、二階建て(地下部分は不明)広さは学校の校舎くらい。
建築様式に詳しくない僕の感想はそれくらいだ。
正面からしか見ていないので奥行きはわからないが、長方形だったとしても個人宅としては日本の住宅事情から考えれば破格の大きさだ。
「マキちゃんって、もしかして偉い魔物なの?」
マキちゃんの背中から降りながら聞くと、
「魔物ではない。地球人がいう所の魔族なのは否定しない。ウチは公爵なのでワリと偉いのだ」
と、誇らしげに尻尾を揺らしている。
公爵・・・
確か貴族の序列って、公爵・侯爵・伯爵・男爵・子爵の順番だったっけ?
まきちゃん、すごい偉いじゃん!猫だけど・・・
あれ、もしかして魔王様って獅子とか、そっち系なのかな?
そんなことを考えているうちに、マキちゃんに促されて屋敷に入ることになった。
これだけ広くて、公爵様なら、メイドさんとか凄いお出迎えされちゃったり・・・・しなかった。
マキちゃんの後ろをついてひたすら屋敷内を進む進む・・・誰にも会わない。
「マキちゃんって一人暮らしだったりするの?」
まさか、公爵様がそんな無用心なことないよね?地球ならありえない話だよね?
「そうだけど?」
あっさり肯定されてしまった。
となると、護衛なんか必要ないくらい強い、とか?全体的に気軽なオジサンイメージのマキちゃんだからリアリティが乏しいけど、僕よりは強いね、それは間違いない。
魔族とか物騒なイメージしかないけれど、実はものすごく平和な魔族の住む世界だったりとか?
あ、そっちの方が一般人男子高校生には優しいです。
マキちゃんがある扉の前で止まって立ち上がったので、僕も立ち止まってみていると、器用に肉級の手でドアノブを回して扉を開いた。
「カイ!日本人拾ったぞ!」
マキちゃんがそう言いながら部屋に入っていく。
恐らくリビングだと思う20畳ほどの部屋の中央には大きい大理石のようなテーブルとソファーがあって、そこに一人の中年男性が座っていた。恐らく、この男性が『カイ』さんだろう。
カイさんは、ソファーから立ち上がってこっちに向かってくる。
僕よりは身長が高い、恐らく180弱で、ガッシリとしている。鎧を着せたら映画でよく見るタイプ騎士様みたいな体型をしている。髪の色が、地毛なのか加齢によるものなのか灰色に近いグレイのゆるい巻き毛で短髪だった。
「こんにちは。日本の少年。私は甲斐。マキの従兄弟だよ、よろしく」
カイさんが、丁寧に挨拶をして手を差し出してきた。
「こ、こんにちは。僕は、笈川吹雪です。よろしくお願いします」
カイさんの手は、まったく不快感がないくらいヒンヤリとして心地よかった。その手を握り返しながら反射的に挨拶を返していたけれど、カイさんの爆弾発言にかなり動揺してしまっている。
僕が、日本人なのは、時々、地球人が落ちてくるらしいから、前例から予測がつくのだろうけれど、それよりも、従兄弟!?従兄弟って親戚だよね?
どうみても、40台後半~50台前半の成人男性とマキちゃんに家族的な要素が見当たらない。
これが、異世界の常識ってヤツなのかな。
世界は広いって、こういうことなのかな。